昨年の中国で、興行収入第5位のヒットとなった航空パニック映画『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』が、いよいよ明日から公開されます。副題にもある通り実話に基づく本作ですが、「それ、本当なの!?」というシーンの数々に唖然、呆然。その大迫力はとても筆、ならぬキーボードでは伝えられないと思いますが、まずはちょっとご紹介を。
『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』 公式サイト
2019年/中国/中国語/111分/原題:中国機長/英語題:The Captain
監督:アンドリュー・ラウ(劉偉強)
出演:チャン・ハンユー(張涵予)、オウ・ハウ(欧豪)、ドゥー・ジアン(杜江)、ユアン・チュアン(袁泉)
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
※10月2日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
© 2019 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.
本作は、2018年5月14日に起きた、四川航空3U8633便の事故に基づく物語となっています。その日、重慶の自宅で劉(リュー)機長(チャン・ハンユー)は午前3時に起床し、今日は絶対、時間通りに帰宅しないとな、と考えていました。その晩は一人娘の誕生パーティーが開かれる予定で、リビングはもう飾り付けがしてありました。4時27分、重慶空港に劉機長はじめCAらが次々と入っていきます。この日の目的地はチベット自治区のラサなので、天候の問題点を確認し、様々なチェックも受けたあとブリーフィングに集まったのは、劉機長、若い徐(シュ)副操縦士(オウ・ハウ)、既婚の梁(リィァン)副機長(ドゥー・ジアン)というコックピット組と、チーフCA(ユアン・チュアン)に率いられた女性4人、男性1人の若いCAたち。ラサまでは高い山脈を越えていかないといけないので、「高・高度の飛行になる」と少々緊張は走るものの、全員が機内に入っていつもの搭乗と変わらぬ準備を済ませ、乗客を迎えます。劉機長は空軍のパイロット上がりで、「このルートは100回は飛んでいる」というベテランですし、重慶ーラサの所要時間は約3時間。午前5時50分に離陸のためドアがロックされた時には、漢族やチベット族の乗客たちの誰もが、3時間もするとラサに着く、と楽しみにしていたのでした。
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しかし、途中重慶の管制塔から成都の管制塔に引き継いだあたりから、乱気流に見舞われ始めます。乱気流を避けるため機体を上昇させてしばらくすると、何と!コックピットの右側フロントガラスに亀裂が入り始めるではありませんか。「高度9,800m、鳥は飛んでいない高度です!」バード・ストライクでもないのにアッという間に窓ガラスが破れ、徐副操縦士の体が機外に吸い出されそうになります。劉機長はあわてて徐副操縦士を抱きしめますが、この窓ガラスの破壊で機内には強風が吹き込み、気圧が変調するなど、大混乱をきたします。CAチーフらの必至の努力でコックピットの扉を何とか閉めることができ、乗客の酸素マスク装着を助けたCAたちが彼らを落ち着かせようとするのですが、客室内はもうパニック状態です。その頃コックピットでは、徐副操縦士は怪我を負ったものの何とか機内に身を戻すことができました。ただ、このままラサに飛び続けることは不可能で、途中の成都に緊急着陸することを決めたものの、行く手を悪天候が阻みます。無線連絡も満足にできない満身創痍状態のコックピットで、無事、成都まで辿り着けるのか...。その頃、地上の管制官たちも、応答がまったく返ってこないこの便に対し、心配を募らせていました...。
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最初に述べたように、実際に起こった航空機事故をもとにしているのですが、ウソでしょう!?と思えるシーンが何度かあり、半信半疑のまま見続けることになります。最後には、実際の事故の画像や関係者も登場するので、「盛ってる」ということはないと思うのですが、まさに「事実は小説よりも奇なり」でした。前半4分の1ぐらいのところ、飛行時間で言うと1時間ほどのところでコックピットのガラス破壊事故が起きるのですが、そこから成都に着陸するまでが本作の最大の見せ場で、手に汗握らされること請け合いです。しかし、高度9,800mと言えば氷点下30度の世界だそうで、そこへYシャツ姿で乗り出していて副操縦士は凍傷にならなかったのだろうか、とか、その後もその空気が強風となってバンバン入ってくるコックピットの3人は、よく無事だったなあ、とか、毛布はコックピットには備えてないのか、とか、手に汗握りながらあれこれ考えてしまいました。
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客室の方の描写では、中国の観客が好きそうな人情エピソードが差し挟まれていたりしてリアルさを減少させていたものの、CAたちの演技が真に迫っていて、見応え十分です。特にチーフCAは出発前のシーンから見る者を引きつけ、さらに各CAも、出発前に試される職業意識をパニック下でもしっかり持続させていて、こういう描写は好きだなあ、と思ってしまいました。上のロッカーから荷物がどかどか落ちるのは不自然では、とか(また「とか」ですみません)、機長の到着アナウンスで事故の経過説明が全くないのは変、とか、客室側でも手に汗握りながらいろいろチェックを入れてしまったのですが、航空パニック映画としてはよく出来ている、と思わせられました。
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あと、感心したのは、『フライト・キャプテン』という邦題の元になった原題が『中国機長』で、そこから、チャン・ハンユー演じる機長が英雄的に活躍するお話かと思っていたら、まったくそうではなかった点です。コックピットでは3人が力を合わせ、キャビンではCAチーフ以下全員が力を合わせたがゆえに、無事乗客を地上に戻すことができた、という視点がしっかりと描かれていたのが、こちらの胸にグッときました。さらには、その彼らを支えた地上の管制官たち、陰ながら手伝った空軍の軍人たちなども、きちんと描かれています。そこに航空機マニアも参入するのは少々疑問ですが、機体が無事着陸した時の感動の盛り上げ役としての登場でしょうか。
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とはいえ本作は、航空機マニアや飛行機好きにとっては、いろんな細部がとても興味深いと思います。私自身、クルーたちが乗客を迎えるまでの仕事の数々など、もう300回近く国際線に乗ったのに知らなかったことが多く、新鮮でした。管制室内部なども、セットだと思いますがもっとじっくり見てみたかったです。
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監督は、香港映画『インファナル・アフェア』(2002)などを撮ったアンドリュー・ラウ(劉偉強)。アメリカでの映画作りのあと、今度は中国本土での映画製作に本格的に取り組むようで、本作ではプロデューサーも兼ねています。本作の意図は、航空パニック映画をエンタテインメントとして作ることと、中国の航空技術が設備面でも、また人的側面でもいかに優れているかを提示することだったのだろうと思います。そういう意味では、まさに『中国機長』というタイトルがふさわしいわけで、やはり香港人のダンテ・ラム(林超賢)が監督した『オペレーション・レッドシー』(2018)などの系譜に連なる作品とも言えそうです。最後に予告編を付けておきます。
映画『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』予告編
おっと、予告編と共に、メイキング映像がアップされていました。配給会社のアルバトロスさん、粋ですね~。
超大掛かりな旅客機セットでの撮影!映画『フライト・キャプテン 高度1万メートル、奇跡の実話』メイキング映像