ドキュメンタリー映画であり、インド製作の映画でもないのですが、多くの方に見ていただきたい映画が、11月29日(金)から公開される『コール・ミー・ダンサー』(2023)です。インド映画好きで、Netflixを常にチェックしておられる方は、『バレエ 未来への扉』という邦題で配信されたインド映画『Yeh Ballet(このバレー)』(2020)をご覧になっていると思います。インドへバレー教師としてやってきた老ダンサー(ジュリアン・サンズ)がインドのいろんなシステムに怒りまくりながら、バレーの才能を持つ2人のインド人少年を育て上げる、という物語で、実話を元にしており、2人の少年を演じているのは実際にバレーダンサーとして修練を重ねてるインド人少年、という、とても興味深い映画でした。今回、そのうちの1人マニーシュをフィーチャーしたドキュメンタリー映画『コール・ミー・ダンサー』が公開されるに当たって、劇映画版の方を調べてみてびっくり。何と、スーニー・ターラープールワーラーの監督作ではありませんか。Netflixは一番に表記すべき監督名を出さないので、常々不満に思っていたのですが、今回も調べなかった自分にビンタを張りたくなりました。スーニーはミーラー・ナーイル監督の『サラーム・ボンベイ!』(1988)や『ミシシッピ・マサラ』(1991)の脚本家として知られ、自身の監督作『僕はジダン』(2009)は、2011年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映されています(私が字幕を担当しました)。そして2作目の監督作が、この『バレエ 未来への扉』だったのでした。
スーニーの劇映画の方は、派手な審査員を登場させたダンス・コンテスト場面といい、金持ちの女の子とのほのかな恋愛シーンといい、娯楽要素も盛り込んだ結構派手な作品でしたが、今回はドキュメンタリー映画。本当はこうだったのか、と思う点も多々あり、すっかり引き込まれてマニーシュ君やそのご家族の素顔に見とれました。見とれるというか見惚れたのは、バレエの先生イェフダさんも同じで、人と人との、師と弟子とのたぐいまれな出会いを見せてくれて、涙が出ました。
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それにも増して、私を『コール・ミー・ダンサー』に惹きつけたのは、チラシのデザインです。色味といい、レイアウトといい、本年最高のチラシで、この世界に取り込まれる気がしました。ひょっとして、元のヴィジュアルもこれなのか? と思いIMDbをチェックしてみると元のポスターは同じマニーシュの舞踊姿ではあるものの、暗い色調で全く違います。日本人デザイナーさんのお仕事なのでしょうか、この映画の世界へ誘ってくれる、素晴らしいデザインだと思いました。
実際のマニーシュの世界は、怪我や年齢のことなどつらいことも多く、劇映画のようにハッピーエンドにはならないのですが、こういうチャレンジャーがインドにいる、ということが、見る者に勇気を与えてくれます。この作品を見ながら思い出したのは、クラシック音楽の偉大な指揮者ズービン・メータで、今でこそみんなインド出身と知っており、パールシー教徒(中世に今のイランからインドに移住してきた拝火教=ゾロアスター教の子孫)で名前を正確にカタカナ書きするとズービン・メーヘターであることも知られていますが、日本に名前が知られ始めたころは「西洋の指揮者」みたいな売り方をされていた記憶があります。クラシック音楽とインドとが相容れないイメージで捉えられたのでしょう。同じくクラシック・バレエとインドもまた異質と思われている今日、そのイメージを覆してくれる本作に大いに期待したいと思います。ぜひ、ご覧になって下さいね。
最後に映画のデータと予告編、本編クリップ①を付けておきます。
『コール・ミー・ダンサー』 公式サイト
2023年/アメリカ/英語/84分/原題:Call Me Dancer/字幕翻訳:藤井美佳
監督:レスリー・シャンバイン、ビップ・ギルモア
出演:マニーシュ・チャウハン、イェフダ・マオール
配給:東映ビデオ
※11月29日(金)より新宿シネマカリテほか全国公開
『コール・ミー・ダンサー』本予告
『コール・ミー・ダンサー』本編クリップ①