私の古くからの友人、鎌仲ひとみさんが監督するドキュメンタリー映画『小さき声のカノン―選択する人々』が、今週土曜日3月7日(土)から公開となります。公式サイトはこちらです。東京ではシアター・イメージフォーラムでの公開で、あと福島市のフォーラム福島でも同時公開されるほか、全国で続々上映が決まっています。劇場一覧はこちらです。映画の基本データを書いておきましょう。
『小さき声のカノン』 予告編(↓)
2014年/日本/119分
監督:鎌仲ひとみ
プロデューサー:小泉修吉
音楽:Shing02
撮影:岩田まきこ
製作:ぶんぶんフィルムズ
配給:ぶんぶんフィルムズ/環境テレビトラスト
宣伝:梶谷有里、村井卓実
3月7日(土)よりシアター・イメージフォーラム、フォーラム福島、他全国順次上映
映画『小さき声のカノン』予告編
鎌仲ひとみさん(下の写真)といえば、ちょうど4年前、2011年3月11日の東日本大震災発生当時に、原発建設に反対する瀬戸内海祝島の人々を描いた監督作『ミツバチの羽音と地球の回転』が公開されていて、一挙に注目を浴びたことで知られています。でも、鎌ちゃん(とつい慣れ親しんだ愛称で呼んでしまう気さくな人です)はそのずーっと前から、イラク戦争で残された劣化ウラン弾の影響や、六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場問題などに関して、地道に何本もドキュメンタリー映画を制作していたのでした。
(C)ぶんぶんフィルムズ
その筋金入りの彼女が今回描くのは、東日本大震災での原発事故による影響を受けた福島県二本松市の人々の取り組み。400年の歴史を持つ真行寺というお寺のご住職佐々木夫妻が中心となって、除染作業や安全な野菜の配布等に取り組んでいる姿が登場します。さらには、子供たちを県外に一時避難させる「保養」の取り組みについても、その実際の様子や受け入れ先の人々の声など、「小さき声」がいっぱい集められている作品です。
(C)ぶんぶんフィルムズ
この「原発事故→保養」という取り組みは、実はチェルノブイリの経験から学んだもので、鎌ちゃんはベラルーシ共和国にも飛んで、チャリティ団体「チェルノブイリの子供を救おう」の活動に密着します。ご存じのように漏れた放射能は子供たちの体に影響を与え、甲状腺がんを発生させやすく、2014年12月末現在福島県では8人の子供に疑いがあり、そのうちの1人は手術を受けて甲状腺がんと診断されました。今も後追い調査が続いていますが、線量の高い場所から一時的にでも避難すればリスクが下がるので、現在日本全国のあちこちで「保養」プロジェクトが実施されています。
(C)ぶんぶんフィルムズ
私自身はこの「保養」についてはまったく知らず、『小さき声のカノン』で目を開かれる思いでした。でも、その後長野県のリンゴ農家の友人からの年賀状に、「保養先として子供たちを受け入れている」と書かれていたりして、日本全国の人々が自分たちの問題として取り組んでいるのだ、ということがわかってきました。
(C)ぶんぶんフィルムズ
ところでこの「保養」ですが、『小さき声のカノン』を見ていて私が思い出したのは、王兵(ワン・ビン)監督の『鉄西区』。以前書いたブログ記事に、「工場」のパートの中で「労働者たちが鉛の毒を排出する注射を打つために保養所にやってきて、魚採りや散歩、カラオケ、はたまたポルノ映画を楽しんだりするシーン」がある、と書いたのですが、これがまさに「保養」だったのでした。社会主義国では昔から、工場などには別の場所に「保養所」が設けられていて、一時的に劣悪な環境から逃れる、ということがなされていたようです。その発想が、チェルノブイリの事故の時に生きたのかも知れません。
(C)ぶんぶんフィルムズ
あれから4年、まだまだ問題は山積ですが、問題と正面から向き合うことが人々を変えていく、という感動的な真実もこの作品で知ることができます。「私たちはただの泣き虫のお母さんだけど、それでも何かができる」 佐々木住職夫人のるりさん(上写真左)とそのお仲間のお母さんたちは、観客を大いに笑わせ、大いに泣かせてくれます。福島の現状を知るためにも、人間はどこまで強靭になれるのかを目にするためにも、ぜひ劇場に足をお運び下さい。
(C)ぶんぶんフィルイムズ
なお、この作品は自主上映もできます。劇場公開が終わってから&今のところ都内近郊は該当しませんが、こちらで懇切丁寧な案内がされています。『ミツバチの羽音と地球の回転』との二本立ても可能ですので、公開劇場がお近くにない皆さんはご検討どうぞよろしくお願いします。
(C)ぶんぶんフィルムズ
最後にもう一言。プロデューサーの小泉修吉さんは、「グループ現代」というドキュメンタリー制作会社の代表だった頃の1983年、私と友人が第1回インド映画祭を開催するにあたって、映画祭の母体となることを引き受けて下さった方です。グループ現代と私が100万円ずつ出し合い、たくさんお客様に来ていただいたもののやっぱり赤字になって追加出資、というご迷惑をおかけしたにもかかわらず、その後も何かにつけてお世話になりました。小泉さんは『小さき声のカノン』の公開を楽しみにしていらしたのですが、昨年11月12日にご病気で亡くなってしまわれました。小泉さんのためにも、この作品をぜひたくさんの方に届けたいと思っています。ご家族やお友達と一緒に、足を運んでみて下さいね。