昨日見たインド版Yahoo!のニュースの中に、興味深いニュースがありました。「10 Bollywood films sold to OTT platforms for insane amount of money(配信メディアにとんでもない値段で売られたボリウッド映画10本)」というニュースで、映画館がいまだに休館状態のため、OTT(”Over-The-Top”の略で、インターネットを通じて音声や動画などを提供する、通信事業者以外の企業のこと)媒体を使って映画をリリース(公開)することにしたボリウッド映画界が、いくらでそれらの媒体に作品を売ったか、という値段が具体的に出ているものでした。もともとは「MENSXP」というサイトが配信し、それを「Yahoo Lifestyle」というサイトが権利料が高い順に並べ替え、画像も取り替えて紹介してあるのですが、なかなか興味深い数字がでているので、今後の資料として訳出しておきます。
インドは3月24日(火)から5月31日(日)までという、2ヶ月以上のロックダウン(都市封鎖)を実施したのですが、その効果があまり出ないうちに解除したため、その後も新規感染者数は増え続け、現在の感染者数は124万人という数になっています。増え方も一向に衰えない急カーブ状態で、アメリカ、ブラジルに続く第3位となって早2週間経ちました。ロックダウン当初から映画館はすべて休館になったのですが、ロックダウン解除となったあとも休館は続き、3月末以降、新作映画の公開はストップしたままです。これにじれた映画製作者が、少しでも製作費用を回収しようと打ち出したのが動画配信サービスを使って映画を公開する方法で、確かマヘーシュ・バット監督の『Sadak 2(サラク 2/路上 2)』が言い出しっぺではなかったかと思います。その後追随する製作者が現れ、ポポッポーさんのブログでも紹介されていたので、映画館再開はずっと先、という読みだろうか、と思いながら拝見したのでした。今回は、ボリウッド映画の目玉作品が続々と動画配信サービスに売り渡されたので特集記事になった、という経緯のようです。まずは、10本のラインアップを見てみましょう。
配信媒体による公開作品(1ルピー=約1.5円)
1.『Laxmmi Bomb(ラクシュミー爆弾)』
監督:ラーガヴァ・ローレンス/主演:アクシャイ・クマール
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 125 Crore(12億5千万ルピー)
Laxmi Bomb Official | Akshay Kumar, Kiara Advani | Laxmi Bomb Trailer | Laxmi Bomb Teaser | LUB
2.『Bhuj: The Pride of India(ブジ:インドの誇り)』
監督:アビシェーク・ドゥダィヤー/主演:アジャイ・デーウガン
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 110 Crore(11億ルピー)
Bhuj The Pride Of India Official Trailer | Ajay Devgn | Sanjay Dutt | Bhuj Official Trailer
3.『Sadak 2(路上 2)』
監督:マヘーシュ・バット/主演:アーリアー・バット
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 70 Crore(7億ルピー)
(公式予告編がYouTubeにアップされていないようです)
4.『Gulabo Sitabo(グラーボーとシーターボー)』
監督:シュージト・サルカール/主演:アミターブ・バッチャン、アーユシュマーン・クラーナー
配信元:アマゾン・プライム・ビデオ
権利料:Rs. 65 Crore(6億5千万ルピー)
Gulabo Sitabo - Official Trailer | Amitabh Bachchan, Ayushmann Khurrana | Shoojit, Juhi | June 12
5.『Gunjan Saxena: The Kargil Girl(グンジャン・サクセーナー:カールギルの少女)』
監督:シャラン・シャルマー/主演:ジャーンヴィー・カプール
配信元:ネットフリックス
権利料:Rs. 50 Crore(5億ルピー)
Introducing Gunjan Saxena: The Kargil Girl | Janhvi Kapoor | A Netflix Original Film | Netflix India
6.『Shakuntala Devi: Human Computer(シャクンタラー・デーヴィー:人間コンピュータ)』
監督:アヌ・メーナン/主演:ヴィディヤー・バーラン
配信元:アマゾン・プライム・ビデオ
権利料:Rs. 40 Crore(4億ルピー)
Shakuntala Devi - Official Trailer | Vidya Balan, Sanya Malhotra | Amazon Prime Video | July 31
7.『Dil Bechara(哀れな心)』
監督:ムケーシュ・チャーブラー/主演:スシャント・シン・ラージプート
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 40 Crore(4億ルピー)
Dil Bechara | Official Trailer | Sushant Singh Rajput | Sanjana Sanghi | Mukesh Chhabra | AR Rahman
8.『The Big Bull(巨大雄牛)』
監督:クーキー・グラーティー/主演:アビシェーク・バッチャン
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 40 Crore(4億ルピー)
The Big Bull | Official Trailer | Abhishek Bachchan | Ajay Devgn | An Unreal Story | Kookie Gulati
9.『Khuda Haafiz(さようなら)』
監督:ファールーク・カビール/主演:ヴィドゥユト・ジャームワール
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 10 Crore(1億ルピー)
Khuda Hafiz Official Trailer | Disney Hotstar VIP | Vidyut Jammwal | Shivaleeka Oberoi | Khuda Hafiz
10.『Lootcase(ルートケース、略奪ケース)』
監督:ラージェーシュ・クリシャン/主演:クナール・ケームー
配信元:ディズニー+ホットスター
権利料:Rs. 10 Crore(1億ルピー)
Lootcase | Official Trailer | Kunal | Gajraj | Vijay | Dir: Rajesh Krishnan | Releasing: 31st July
現在のところ判明している作品のうち、有名スターが主演しているものを10本集めた、という感じですが、配信元としてはディズニー+ホットスターが10本中7本を占めるのが目に付きます。ホットスターは衛星放送チャンネルのスター・インディア(その元は香港発の衛星放送スターTV)が始めた配信媒体で、昨年スター・インディアがディズニーの子会社になったため、ディズニー+ホットスターという名称になったものです。あとは日本でもお馴染みのアマゾン・プライムとネットフリックスですが、他にも衛星テレビ放送系や映画製作会社系などたくさんある配信媒体の中で、この3社がずば抜けて力を持っています。3社とも独自に映画製作も行っており、従来の映画製作会社にとってはその意味でも脅威でしょう。
この配信権利料ですが、『Laxmmi Bomb(ラクシュミー爆弾)』の12億5千万ルピーと『Bhuj: The Pride of India(ブジ:インドの誇り)』の11億ルピーは、どのくらい「とんでもない高値」なのでしょうか。例えば、それぞれの主演俳優、アクシャイ・クマールとアジャイ・デーウガンの、直近のヒット作2作と比べてみますと...。
アクシャイ・クマール主演作
『Good Newwz(グッドニュース)』(2019)
製作費:Rs. 60 Crore(6億ルピー)
全世界興行収入:Rs. 318 Crore(31億8千万ルピー)
アクシャイ・クマール主演作
『Mission Mangal(火星探査計画)』(2019)
製作費:Rs. 32 Crore(3億2千万ルピー)
全世界興行収入:Rs. 290 Crore(29億ルピー)
アジャイ・デーウガン主演作
『Tanhaji(ターンハージー)』(2020)
製作費:Rs. 150 Crore(15億ルピー)
全世界興行収入:Rs. 367 Crore(36億7千万ルピー)
アジャイ・デーウガン主演作
『Total Dhamaal(大騒ぎ総集編)』(2019)
製作費:Rs. 100 Crore(10億ルピー)
全世界興行収入:Rs. 228 Crore(22億8千万ルピー)
本来得られるであろう興収から見ると配信権利料は半分以下ですが、製作費だけならほぼ回収できる額と言えます。これで、ネット配信の期間を半年とかに設定し、その後衛星テレビ局に権利を売れば儲けが出るわけで、従来の映画ビジネスと比べても、まずまずの収入となります。映画館が再開しても、この「配信ファースト」の公開方法はなくならないかも知れません。
ともあれ、映画館という祝祭の場が大好きなインド人にとって、映画館に行けない今は大変に張り合いがない毎日でしょう。早く感染者数増加が鈍り、映画館も再開されることを願っています。日本もこれ以上感染者数が増加していくと大変なので、大好きな映画の場を守るためにも、さらに気を引き締めていきましょう。