タイの前国王が亡くなったのは2016年10月13日。88歳で逝去したプーミポン前国王(Wikiによると、正式な名前は「プーミポン・アドゥンヤデート」)ことラーマ9世は、1946年6月に国王となったので在位期間70年余、国民に大変慕われた国王でした。映画館での王室歌演奏フィルム(Royal Anthemなので、便宜的に「国歌演奏フィルム」と呼んだことも)上映がいつから始まったのかは不明ですが、私の記憶する限りでは20年ぐらい前から、常に国王の様々な活動が登場する映像が映されて、国民がいかにありがたく思っているか、ということを示す内容が続いたと思います。下のクリップは昨夏によくかかっていたもので、すでに病床にあった国王の快癒を祈りつつも、お別れの時が近づいているかもしれない、という感じが表れたバージョンでした。
Royal Anthem of Thailand ᴴᴰ "Sansoen Phra Barami" ("สรรเสริญพระบารมี")
前国王の逝去後、この王室歌演奏フィルムがどのように変化しているのか、それを見るのも今回の旅の目的でした。このフィルムは各映画配給チェーンが製作しているようで、タイの大手配給チェーン「Major」と「SF」では違うバージョンが上映されます。また、同じチェーンでも映画館が独自に選べるのか、異なる場合もあります。今回は偶然なのですが、時の流れに沿ったような順番で3種のバージョンを見ることができ、興味深かったです。
最初に見たのは、前国王と当時の皇太子である今の国王ラーマ10世(ワチラーロンコーン)が一緒に写っている写真をいろいろ使ったもので、地方視察の写真などあまりいいものが見つからなかったのか、荒れた粒子のものがあったりしました。確かに、前国王存命中は、皇太子よりもその妹のシリントーン王女の方が国民の中に入っていく活動に熱心で、地方視察中の国王のそばには常にシリントーン王女の姿があったのでした。続いて見たのは、前国王が皇太子に対し、様々な公式シーンで権力を授けているような写真を見せていき、最後には現国王1人だけの写真を登場させる、という流れのものです。そして今日見たのは、最初から最後まで現国王1人の写真がいろいろ登場する、というバージョンでした。現国王の写真は、ほとんどが軍服姿や国王のローブをまとった姿で、前国王のような背広姿でカメラを首から下げ、資料片手に田舎を視察していく、といった平服のものはまだ見られません。それらを見ていて、「そして王になる」という過程にある人なんだな、という印象を受けました。
街中では、まだあちこちに遺影が飾られ、駅やビルなどでは、目立つところに祭壇のようにして置かれています。上の写真は、スカイトレインのオンヌット駅のコンコース内です。また、タイからのレポートにもよくあるように、黒い服を着ている人の姿もちらほら見えて、1年間の喪中にあることが感じられます。宿泊中のマンハッタンホテルでは、ロビーの上に遺影が飾られ、ボーイさんたちは喪章を付けて仕事をしていました。
さらに、今日8月12日は前国王の王妃の誕生日で、毎年めぼしい場所にはそれを祝う写真と花が飾られます。今年も飾られているのですが、お花の色も白とかブルーとかで、やはり服喪期間の行事という遠慮があるようです。下の写真は、マーブンクローンという有名なショッピングモールと、大通りを隔てたサイアム地区の繁華街を結ぶ歩道橋に飾られた前王妃の写真のディスプレイで、美しいながら悲しみをたたえたような造形が印象的でした。
なお、この歩道橋も今回とてもきれいになっていて、以前のムッとした暑さもどこかへ行ってしまっていました。行くたびに変わっているタイ。今後もよい方へと変わってくれることを願っています。
<追記>タイ在住の長い友人に教えてもらったのですが、水色はシリキット前王妃の誕生曜日の色だとかで、必ずしも服喪のために水色のお花にしたのではなかったようです。前国王の誕生曜日の色は黄色で、だからみんなが当時、黄色のポロシャツやTシャツを着たりしていたのでした。
なるほど!前王妃のラッキーカラーが水色だったからなのですね。
また、私もタイで映画観るとき、チェックするのが、cinetamaさんと同じく王室を称える音楽の映像です。
前プミポン国王は、地方視察に出かけた際等の国民と一緒にいる映像が多かったのですが(印象に残っているのは、農村で老婆が差し出した水を、姿勢低くして飲む姿です)、今年の2月に滞在した時は、前国王のもとで成長された王子から新国王という感じでした。
今回は、国民の姿が写るカットはありますが、一緒での姿ではないですね。そして、笑顔がないですね。
これから、地方視察に出かけた際や行事に出席した際の国民とのふれあいの映像が増えていくのだと思いますが、
私は前にも書いたように、映画館で国歌やそれに準じるものが流されるというのには反対なのですが、映画調査としてははずせないで、毎年チェックしています。
しかし、起立しなければならない、というプレッシャーもイヤで、シンガポールに来て映画館に入っても、あ、このあとで起立しなくちゃいけないな、などという強迫観念に一瞬脅かされることがあります。
先日のタイでは、歩き疲れてついCFが流れる時に寝てしまい、ハッと気付いたら王室歌の途中で、あわてて立ちました。
タイもインドも、なくなってくれるといいのですが。