オサーマ(またはウサーマ)・ビン・ラーディンが殺されていた、というニュースにはびっくりしました。てっきり捕まえられて、裁判にかけられるとばかり思っていたのです。でもそんな悠長なことなど、アメリカは最初から考えていなかったのですね。本当に西部劇時代に戻ったみたいで、それも驚きでした。
ビン・ラーディンといえば、つい先日インドのコメディ映画『テーレー・ビン・ラーディン』 (2010/原題:Tere Bin Laden)をDVDで見たばかりです。このタイトルは掛詞になっていて日本語に訳すのが難しいのですが、ヒンディー語では「テーレー」は「お前の」、「ビン」は「~なしに」という意味になります。一方「ビン・ラーディン」の「ビン」はアラビア語では「イブン(息子)」と同じなので、「~の息子、子孫」という意味ですね。ですので、「オサーマ・ビン・ラーディン」は「ラーディンの子孫オサーマ」ということになります。詳しくは、ウィキをどうぞ。
それで『テーレー・ビン・ラーディン』なのですが、「お前のビン・ラーディン」という意味と、「お前なしで(は)、ラーディン」という意味と両方取ることができます。映画の内容も、この掛詞とうまくマッチしています。
主人公は、アメリカに行く夢がことごとく破れて、パキスタンのカラチにある小さなテレビ局でリポーターとして働く青年アリー。ところがある日、「闘鶏の取材に行け!」と言われて行った先で、一人の養鶏業者に出会います。何とその男は、眼鏡を取るとビン・ラーディンにそっくり! すわ、潜伏中のビン・ラーディンかと思いきや、すぐに別人と判明。しかしアメリカに行くのに大金を必要としていたアリーは、この男をビン・ラーディンに仕立て上げて、「単独会見スクープ映像!」を撮ってメディアに売りつけようとします。「お宅の卵の宣伝を」と養鶏業者をだまくらかしてテレビカメラのまえに坐らせ、ビン・ラーディンそっくりの服装と化粧をほどこし、アラビア語がわからないのをいいことに反米演説をオウム返しにしゃべらせ.....という具合にして撮った映像は大成功。センセーションを巻き起こし、アメリカ政府をも動かすのですが.....。
撮影はすべてインドでやったとかで、そのせいか出てくる町の風景にやたらとパキスタン国旗とかがディスプレイされています。”なんちゃってパキスタン”が舞台とは言え、今回本物もパキスタンに潜伏していたことを考えると、読みは鋭かったと言えますね。ビン・ラーディンだけでなく、アメリカやパキスタンも大いにおちょくり、返す刀で、南アジア全体に存在するアメリカへの盲目的な憧れやメディアのいいかげんさにもメスを入れているという、なかなかに辛口のコメディでもあります。
人を喰った公式サイト(音出ます。達者なアニメがとっても楽しい♪)と、ストーリーがよくわかるウィキを付けておきます。予告編はこちら。
主人公アリーを演じているのは、パキスタンの歌手アリー・ザファル。甘いマスクで表情豊か、演技も上手でチャーミングです。”なんちゃってパキスタン”を本物らしく見せるために起用されたのでは、と思いますが、彼の嫌みのないキャラが映画を随分助けています。もちろん歌手なので、主題歌も歌っています。歌のシーンを使ったプロモをひとつ付けておきましょう。
あと、懐かしい顔も発見。アリーのテレビ局のオーナー役を演じていたピーユーシュ・ミシュラーです。シャー・ルク・カーン主演の『ディル・セ 心から』 (1998)でCBI(インド版FBI)の係官を演じていた彼、すっかりお腹が出て、顔もだいぶ老けていましたが、あのクシュクシュッとした物言いは健在でした。
監督はアビシェーク・シャルマー。これが第1作です。これからの注目株、ぜひ名前を憶えておいて下さいね。