アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

2021年オススメのインド関連本

2021-12-30 | インド文化

今年もあと1日と少しになりました。昨日は映画館をハシゴする合間に4時間ぐらい空き時間があったので、吉祥寺と新宿で書店、ブックオフ、文具店等あちこちをウロウロ。何と歩数は13,645歩になってしまい、久々に1万歩を大きくオーバーしました。旅先ではこれぐらい歩くのは普通で、インドは道が悪いのとサリーを着ているのとで無理なのですが、バンコクやシンガポール、香港では毎日1万歩以上、時には2万歩近く歩いていました。2年余りそういう経験をしていないため体がなまってるに違いないと危惧していたものの、おお歩けるじゃん、と少し自信を取り戻しました。とはいえさすがに疲れて、本日は部屋の片付け等事務仕事に専念。その中で、この2冊は面白かったなあ、という本が出て来ましたので、ちょっとご紹介しておこうと思います。

上羽陽子・金谷美和編「躍動するインド世界の布」昭和堂、2021.10.28、¥1,900+税

インド映画を理解しようとすると、言語を始めとする地域学の諸側面をいろいろ勉強しないといけないのですが、日常生活の衣食住だけでも知らないことだらけ。この本は、その中で「衣」の特に「布」という切り口から、インド亜大陸のいろんなシーンを解説してくれるもので、「そうなの? そうだったのか!」という点がすごく多くて勉強になりました。第1部「場をくぎり、人をつなぐ布」では、戸口飾りや花嫁に贈る布、ターバン、ヴェールから、布で作った建築というか催事用デコレーションの「トロン」まで、映画のシーンによく登場する物が解説されていて、呼称がわかっただけでも大収穫でした。

(しばし目の休憩用:寺院にお供え物を持っていったら、僧侶がお返しにくれた布と花 )

第2部「神にとどく布」では、布の上に構築されるヒンドゥー教の神殿模様や神様絵に着せられる布、聖者廟に捧げるダルガー(ハ)・チャーダルと呼ばれる覆い布、そしてブータンの空にたなびく祈りの旗などが取り上げられます。第3部「政治を動かす布」では、頼まれても着たくない(笑)”愛国”模様サリーから、国旗、ナショナリズムを象徴するネパールの布などと共に、刺繍で被災経験を記録した布作家の話も登場します。そして最後の第4部「布がうみだすグローバル経済」では、舞踊衣裳の話のほか、少し前に日本でも公開されたドキュメンタリー映画『人間機械』(2016)にも登場した、西アジアやアフリカ世界とインド亜大陸を結ぶ布のことが出てきます。いずれも写真を多用した、簡潔な文章の短めの記述なので、とても読みやすい本です。インド亜大陸の「布」がお好きな方は必読の書です。

 

池亀彩「インド残酷物語 世界一たくましい民」集英社新書、2021.11.22、¥880+税

続いては、まだ最後が少し読み終わっていないのですが、カルナータカ州の社会人類学的研究が専門の池亀彩さんの著書をぜひご紹介したいと思います。池亀さんには、アジアフォーカス・福岡国際映画祭で2018年に上映されたカンナダ語映画『腕輪を売る男』の字幕翻訳を担当した時、カンナダ語の監修をやっていただき、すごく助かりました。それ以前からお名前と業績は知っていたのですが、お人柄のよさにもこの時感服した次第です。

(イーレー・ガウダ監督作『腕輪を売る男(Balekempa)』)

その池亀さんが一般読者向けに本を書かれた、というので早速購入したのですが、最初は「インド残酷物語」という刺激的なタイトルにギョッとしました。でも読み進めてみると、現在のインドで起こっているいろんな問題が具体的な事例をあげてわかりやすく解説してあり、研究者視点とジャーナリスティックな視点がミックスしていて、非常に面白い読み物となっています。ハッと気づかされる点も多く、第1章の「iピル」の話や第2章の被差別カースト用団地の話、第3章に登場するグル(宗教的導師)の実態や素顔、そしてこの本で随所に触れられているダリト(被差別カースト)にも存在するグルの話が第4章と、長い間フィールドワークに携わってきた研究者ならではの眼で、インドの人々と生活が活き活きと描写されています。これから読む第5章は「ウーバーとOBC」というタイトルで、OBCは"Other Backward Classes"つまり「その他の後進諸階級」を示す語なのですが、これも面白そうです。池亀さんはどの章でもツカミが上手で、第5章も、それ以前によく登場している運転手のスレーシュが、「マダム、僕ね、刑務所に入っていたことがあるんですよ」と衝撃?の告白をするところから始まります。本当に、時には思わず笑ってしまう部分もあるこの本、特に南インド映画に興味をお持ちの方は必読と言っていいと思います。

 

高倉嘉男・松岡環著/夏目深雪編著「新たなるインド映画の世界」PICK UP PRESS、2021.4.26、¥2,400+税

それから今年は、我々も「新たなるインド映画の世界」という本を出版したのはご承知の通りです。5年に1回ぐらいこういう本が出せると、日本におけるインド映画公開の記録として残っていくのでは、と思います。次の本は、高倉嘉男さんと安宅直子さんが中心になって、監督論や作品論(例えば「カースト問題映画論」や「ファクション(抗争)映画論」など)等も収録した、一歩先に進んだ本を出してもらえたら、と思っています。インド映画好きの皆さん、ぜひあなたにも将来執筆陣に加わってもらえるよう、ブログ等に映画評などをアップし続けて下さい。そしてできれば、インド映画研究にも歩を進めて下さる方が出てくるよう、心から願っています。

 

また、私が続けている「スペース・アーナンディ/インド映画連続講座」では、「新たなるインド映画の世界」をテキストにした講座が、あと2テーマ続きます。「インド映画と宗教」と題した講座は『PK/ピーケイ』(2014)と『ミルカ』(2013)を中心にお話しする予定ですが、満席の1月15日(土)を除き、あと2回はまだお席に余裕がありますので、年明けにまたご案内致します。それに続くテーマは「インド映画と踊り」で、高倉さんの論をもとに、コレオグラファーについてもまとめてみようかと思っています。やりたいことがたくさんある毎日ですが、あとは以前のように海外に自由に行けるようになれば、気分がかなり上向きになるのに、と思う日々。日本での第6波が小波のままで終わることを祈ると共に、世界中のオミクロン変異株流行が甚大な被害をもたらさないことを祈っています。

 


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