アジア映画巡礼

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2021年映画納めの2本『マンデラ』&『心のままに』

2021-12-29 | インド映画

外回りの大掃除も先週暖かいうちに済ませておいたので、今日は吉祥寺と新宿で本年の映画納めをしてきました。1本目はUPLINK吉祥寺でタミル語映画『マンデラ』@IDE(インド大映画祭)。コメディアンのヨーギ・バーブ初主演作となる『マンデラ』は、インドではNetflixで配信されたようですが、日本のネトフリのラインアップには入れてもらえず、やっと今日見ることができました。監督はMadonne Ashwinという名前から女性監督かと思っていたのですが、YouTubeで監督インタビューを捜してみると、名前はマドン(ネ)・アシュヴィンと発音するらしく、髭面の青年監督でした。タミル語のインタビューで字幕なしだったため内容は不明であるものの、動画のタイトルが「マーリ・セルヴァラージ監督が私を助けてくれた」となっていて、どうもパー・ランジット監督から始まったダリト(被差別カースト)映画ネットワークが、彼の助力でデビューしたマーリ・セルヴァラージ監督を通じてさらに広がっているようです。

Mandela 2021 poster.jpg

『マンデラ』の舞台は、タミル・ナードゥ州にあるソーラングディ村。この村は北部と南部とで人々のカーストが違い、互いにいがみ合っていました。今朝も、新しく政府の援助で作られたトイレを、北が使うか南が使うかで大もめの大乱闘に。村長がやってきて止めようとしますが、元はと言えば村の二分割は村長の息子たちが原因でした。村長は村の融和のため、2つのカーストそれぞれから妻を娶ったものの、母親を異にして産まれた長男ラトナムと次男マディは、成長すると反目し合うようになってしまったのです。今回のトイレ騒動で村長が倒れ、体が不自由になってしまったため、後継者選びの村長選が実施されることになります。

この村の床屋(ヨーギ・バーブ)はみんなから「スマイル」と呼ばれていましたが、貧しくてまだ店舗が持てず、大樹の下で人々の髪を切ったり髭を剃ったりしていました。被差別カーストなので人々からはぞんざいな扱いを受け、各家庭に出向く時は裏口からしか訪問できません。呼び名も時には「バカ」と言われたりしていましたが、スマイルは父の遺志をついでいつか理髪店を建てるのだ、と、助手と共にがんばっていました。しかしながらある時、その日の儲けを隠し場所から盗まれてしまいます。郵便局に貯金すればよかったのに、と教えてもらったスマイルは、村の郵便局に出向き、唯一の局員テンモリ(シーラ・ラージクマール)に助けてもらって、口座開設に必要な身分証明書も役所で作ってもらうことができました。そして、肌身離さず持っていたこれまでの儲け4,000ルピーを貯金します。それまでは自分の正式な名前も知らなかったスマイルでしたが、身分証明書を作るにあたりテンモリのアドバイスから、「ネルソン・マンデラ」という名前を自分の名前にすることにしました。

その頃村長選挙が公示され、ラトナム陣営とマディ陣営は現ナマも使って票固めをした結果、獲得した有権者が同数であることがわかってきます。選挙の行方を決するのは、最近になって身分証明書を手に入れて有権者となったスマイル、ではない、マンデラだ、というわけで、両陣営ともマンデラに猛烈アタックを掛けてきますが...。

物語の構成は寓話的で、のほほんとしたヨーギ・バーブのキャラクターがよく似合っています。床屋というか理髪業への差別は目からウロコの部分もあり、そのためか、理髪業組合の人々からの反発もあったようです。最後の思わぬ逆転劇には溜飲が下がりますが、脚本が少々くどい部分もあり、また音楽の処理があまり上手でなくてうるさく感じられるなど、力足らずの部分も目に付いた作品でした。「ネルソン・マンデラ」という名前を付ける、というのは荒唐無稽に思われるかも知れませんが、『その名にちなんで』(2007)の主人公「ゴーゴリ」がロシア人作家から名前を取って命名されたように、インドでは珍しいことではありません。映画監督にも「レーニン・ラジェンドラン」という人がいましたし、役名ですが『囚人ディリ』(2019)には「ナポレオン」巡査も登場します。映画の中にも登場しましたが、ネルソン・マンデラはインドでも切手が出ており、人種差別に対して闘った人なので、ちょうどいいネーミングですね。予告編を付けておきます。

Mandela - Trailer

 

もう1本の『心のままに』@IMWは、新宿ピカデリーの夜の回でした。暮れも押し詰まってからなのに結構席が埋まっていて、半分近くに達していたのでは、と思います。開場を待っている間、お隣で待っていらした若い男性の方が声を掛けて下さり、聞いてみると以前スペース・アーナンディのインド映画連続講座に来て下さったとのこと。アヌシュカー・シャルマーの回だったそうなので、2018年の1月ですから4年前ですね。香港映画もお好きとのことで、頼もしいです。少し前『囚人ディリ』を見た人から、「麻薬をクレジットカードで分けたりするので驚いた」という感想を聞いたことがあるのですが、香港映画好きならそんなのお馴染みの風景ですよね。おっと、話が逸れましたが、原題を「Manmarziyaan(勝手気身勝手身勝手)」という本作を『心のままに』という邦題にしたのは、『ミモラ 心のままに』(1999)にかけているとしたらなかなかの策士だ、とソニアさんが少し前にツイートしていて、ほほう、そうなのか、と注意して見ていたら、なるほど主人公3人が『ミモラ』の3人に重なる作品でした。

舞台となるのはシク教総本山ゴールデン・テンプルのあるアムリトサルの街。ヒロインのルーミー(タープシー・パンヌー)はDJのヴィッキー(ヴィッキー・コウシャル)と深い仲で、いつもヴィッキーが真っ昼間彼女の部屋に忍んできます。ルーミーは親代わりの叔母一家に世話になっていることもあって、早く彼と結婚したいのですが、その話になるとヴィッキーはなぜか逃げてしまいます。父親と一緒に結婚の申し込みに来てほしい、というルーミーの願いをヴィッキーはすっぽかし、反発したルーミーは別の海外在住男性ロビー(アビシェーク・バッチャン)とお見合い。ルーミーとロビーは結婚することになります。ですが、いざルーミーが結婚するとなると、ヴィッキーは未練たらたらで彼女の結婚式場に貼り付く始末。一方ルーミーも、ロビーと新婚旅行に行ってもヴィッキーのことが気になって気もそぞろ。ロビーはそんな妻を辛抱強く見守りますが...。

くっついたり離れたり、面倒くさいストーリーなのですが、アビシェーク・バッチャンのハマり役とも言える演技で、最後まで引っ張って行かれます。しかし、アヌラーグ・カシャップ監督作品とは思えぬ人情の機微を描いた作品で、ちょっと意外でした。あと、出てくるのがいずれもシク教徒家系の人々なのですが、ヴィッキーは髪を切り、しかもモヒカンのテッペン部分を染めていたりして他宗教のパンク青年と変わらず、またロビーも髪が短い上からターバンを被っている、という、シク教の教義を守らぬ青年たちの姿も意外でした。ヴィッキーのキャラにいまいち魅力がなくて残念でしたが、さすが力のある監督の作品だけあって、退屈せずに見られました。予告編はこちらです。

Manmarziyaan Official Trailer | Abhishek Bachchan, Taapsee Pannu, Vicky Kaushal, Anurag Kashyap

 

さて、来年はどんな映画が見られるでしょうね。映画始めは1月5日の予定です。

 


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2 コメント

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Unknown (ASARYU)
2022-01-01 22:42:53
「心のままに」の会場前に突然話しかけてしまいまして申し訳ありませんでした。少しの時間でしたがお話させて頂けて嬉しかったです。 アヌシュカの回の講座はMさんに教えて頂き参加して大満足でした。 インド映画はOSOで興味を持ち、それ以後・・気になった映画を鑑賞する程度なので初心者ではありますが、少しでも勉強できればとブログを愛読されて頂いています。 インド映画以外では、香港映画、またお気に入りの俳優ドニーイェンに関しても詳しく紹介されていて嬉しいです。
今後も素敵な記事を楽しみにしています。 
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ASARYU様 (cinetama)
2022-01-02 01:35:59
ご丁寧なコメントをありがとうございました。

あの日はここに書いたようなスケジュールの最後が新ピカだったので、ゆったりした気分のところにお声を掛けていただいて嬉しかったです。
ドニーさんは私も、1988年の映画『特警屠龍(邦題:タイガー刑事)』を香港で見た時からのファンで、その後カンフーの達人役であれよあれよという間に人気スターになってしまってびっくりしました。
まだまだ活躍してくれそうで、希望の星ですね。

あと、新ピカではもうお一人、昔からの知り合いのパゴールさんからもお声を掛けていただき、幸せな映画鑑賞の一夜となりました。
ASARYUさんも、またどこかでお目にかかったらぜひお声を掛けて下さいね。
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