インドでは、国が主催する映画賞「National Film Award」があり、毎年山のような賞が授与されています。「国家映画賞」と訳したりするこの賞を出すのは、情報放送省傘下にあるDFF=Directorate of Film Festivals(映画祭事務局)で、毎年ゴアで開催されるインド国際映画祭(IFFI=International Film Festival of India)もこの部局が運営しています。「国際映画祭」と対になっているのが「国内映画祭」で、そのメインイベントが「National Film Award(以後、国家映画賞)」なのです。
国家映画賞のカテゴリーは、大きく3つに分かれています。①劇映画、②劇映画以外の映画、③出版物、で、それぞれに審査員がいて、「Golden Lotus(金の蓮)賞」「Silver Lotus(銀の蓮)賞」あるいは「スペシャル・メンション」といった賞の受賞者を選んでいます。受賞者には賞金も授与され、「最優秀作品賞」と「最優秀監督賞」は一番高額の25万ルピー(約37万円)が授与されます。あとはメインの賞がその半額から20万ルピー、俳優やスタッフに与えられる賞は5万ルピーとなります。5万ルピー(約7万円)はムンバイでなら、数人で5つ星ホテルに行って飲み食いすれば一晩でなくなる金額ですが、ま、気は心、という奨励賞的なご褒美ですね。では、3月22日に発表された今年の劇映画部門の、主要な賞の受賞結果を書いておきましょう。
第67回国家映画賞
<金の蓮賞>
最優秀作品賞:『Marakkar: Lion of the Arabian Sea(マラッカル:アラビア海のライオン)』
マラヤーラム語/監督:プリヤダルシャン
Marakkar Arabikadalinte Simham Official Trailer | Mohanlal | Priyadarshan | Manju Warrier
最優秀監督賞:サンジャイ・プーラン・シン・チャウハーン監督
『Bahattar Hoorian(72の天女)』ヒンディー語
新人監督賞:マトゥクッティー・ザビエル監督
『Helen(ヘレン)』マラヤーラム語
最優秀娯楽映画賞:『Maharshi(偉大なる聖人)』
テルグ語/監督:ヴァムシー・バイディバッリ
最優秀児童映画:『Kastoori(カストゥーリー)』
ヒンディー語/監督:ヴィノード・ウッタレーシュワル・カンブレー
<銀の蓮賞>
国民統合最優秀作品:『Taj Mahal(タージ・マハル)』
マラーティー語/監督:ニヤーズ・ムジャワル
社会問題最優秀作品:『Anandi Gopal(アーナンディー・ゴーパール)』
マラーティー語/監督:サミール・ヴィドワンス
環境保全最優秀作品:『Water Burial(水葬)』
モンパ語/監督:シャンタヌ・セーン
最優秀男優賞:マノージュ・バージペーイー『Bhonsle(ボーンスレー)』ヒンディー語
Bhonsle-Teaser | Premiere | BMO IFFSA Toronto 2019
ダヌシュ『Asuran(悪魔)』タミル語
Asuran - Official Trailer | Dhanush | Vetri Maaran | G. V. Prakash Kumar | Kalaippuli S Thanu
最優秀女優賞:カンガナー・ラーナーウト『マニカルニカ~ジャーンシーの女王~』
『Panga(ぶつかり合い)』共にヒンディー語
映画『マニカルニカ ジャーンシーの女王』予告編
Panga | Official Trailer | Kangana | Jassie | Richa | Dir: Ashwiny Iyer Tiwari | 24th Jan, 2020
最優秀助演男優賞:ヴィジャイ・セードゥパティ
『スーパー・デラックス』タミル語
最優秀助演女優賞:パッラヴィー・ジョーシー
『The Tashkent Files(タシケント事件)』ヒンディー語
最優秀子役賞:ナーガヴィシャール『K.D.(カルップ・ドゥライ)』タミル語
最優秀男性歌手賞:B.プラーク
”Teri Mitti(お前の大地)”『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』
Teri Mitti - Kesari | Akshay Kumar & Parineeti Chopra | Arko | B Praak | Manoj Muntashir
最優秀女性歌手賞:サーウニー・ラヴィンドラ
"Raan Petala"『Bardo』マラーティー語
最優秀撮影賞:ギリーシュ・ガンガーダラン
『ジャッリカットゥ』マラヤーラム語
(以下省略。詳しくはこちらのWikiをどうぞ)
最後に挙げた『ジャッリカットゥ』は、昨年のアジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された作品で、字幕を担当したため受賞して嬉しいです。海外でもたくさん賞を取っていて、インドでの賞がまた1つ加わった、という感じなのですが、逃げた水牛を村人が総出で追いかける話で、ものすごい原始的なエネルギーを感じる作品でした。このほか、各言語の映画でも最優秀作品がそれぞれ選ばれているのですが、ヒンディー語映画は『きっと、またあえる』が受賞。インドのニュースサイトで話題になっていました。『きっと、またあえる』と同様に日本でも公開された『マニカルニカ~ジャーンシーの女王~』や『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』も受賞するなど、何となく嬉しい今年の授賞発表でした。各部門の歴代の受賞作&受賞者はこちらのWikiから全部見ることができます。ご興味がおありの方はチェックしてみて下さい。
主演女優賞のカンガナー・ラーナーウト(上写真はWikiより)は、ここのところよく受賞しています。第62回(2014年)には『クイーン 旅立つわたしのハネムーン』で、そして第63回(2015年)には『タヌはマヌと結ばれる』で主演女優賞を獲っているんですね。これに助演女優賞も入れると、4つの「銀の蓮」トロフィーが彼女の手元には揃っていることになります。演技派の証と言えるかも。そのカンガナー・ラーナーウトの作品で4月23日から公開されるのが『Thalaivi』で、タミル・ナードゥ州首相を長く務め、2016年末に亡くなった元女優のジャヤラリタの伝記映画です。「thalaivi(タライヴィ)」は「thalaivaa(タライヴァ/ボス、大将、リーダー)」の女性形だと思うのですが、ヒンディー語版とタミル語版、テルグ語版のトリリンガルで作られたようで、細身のカンガナーが特殊スーツを着てジャヤラリタに扮しています。相手役のM.G.R.ことM.G.ラーマチャンドランには、『ボンベイ』などでお馴染みの男優アラヴィンド・スワーミが扮しており、予告編を見る限りではこれがもう、そっくりさん。監督は『神さまがくれた娘』やヴィジャイ主演作『Thalaivaa』の監督A.L.ヴィジャイ。そして、脚本を『マニカルニカ』の、というか『バーフバリ』シリーズのK.V.ヴィジャエンドラ・プラサードが担当している、というので、今、インド中の注目が集まっています。ヒンディー語版の予告編を付けておきますが、いい出来なら日本公開の目もあるかも、です。
Thalaivi | Official Trailer (Hindi) | Kangana Ranaut | Arvind Swamy | Vijay | 23rd April
こうして映画館での上映が今年初めから復活してきているのですが、ここ2週間ほどまた感染者数が急激に増えているインド。今日のニュースでもアーミル・カーンの新型コロナウィルス感染が伝えられ、現在自宅で隔離療養中、という報道が流れてみんなを驚かせました。3月初めは1日1万人台の増加だったのに、それが2万人、3万人と増えて、現在では1日の増加が5万人台に。日本だけでなく、インドの状況も心配な今年の新型コロナウィルスです。