アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第32回東京国際映画祭:DAY 6

2019-11-03 | アジア映画全般

本日は2本、1本はコンペ作品でした。オンデマンドでも作品をちょっと見て、とか思っていたのですが、昨日のレポートを読み直して手を入れたり、宿題をこなしたりしているうちにもう出勤時間が。今日は1本目のQ&Aもパス、2本目のトークショーもパスしたのですが、その代わりすでに見ていたベトナム映画『死を忘れた男』のヴィクター・ヴー監督のQ&Aを取材させてもらうことができ、とても興味深い話が聞けました。このまとめも宿題です(どんどん増えるなあ。劣等生時代に戻った気分)。

『チャクトゥとサルラ』(画像はいずれも©Authrule (Shanghai) Digital Media Co., Ltd. ©Youth Film Studio)


 2019/中国/モンゴル語、北京語/111分/原題:白雲之下
 監督:ワン・ルイ [王瑞]
 出演:ジリムトゥ、タナ、イリチ


中国の内モンゴル自治区が舞台で、草原に家とゲル(中国語:包/パオ)を持ち、遊牧で暮らしを立てているチャクトゥ(ジリムトゥ)とサルラ(タナ)という若夫婦が主人公です。サルラは草原の生活に満足しているものの、チャクトゥの方はいつもどこか他所に行くことばかり考えており、羊を売ってはその金でふらっといなくなります。今回も、親友の郵便配達人バンブラ(イリチ)にサルラへの小包をことづけたものの、本人はいまだに戻ってきません。やっと帰ってきたと思ったら、チャクトゥはサルラの機嫌を取るように、指輪や洋服などのおみやげをプレゼントします。そしてしばらくは大人しくしているのですが、友人たちと町のカラオケで酔い潰れたり、草原を出て携帯電話屋に商売替えする友人を見たりすると、またどこかへ行きたい病が頭をもたげます。それにはまずは車だ、ということで、真冬におんぼろトラックを買ったチャクトゥは友人の兄が持つ納屋で、修理に夢中になっていました。その夜、チャクトゥを心配したサルラがやって来ますが、吹雪の中をやってきたサルラは納屋で倒れ、流産してしまいます。子供ができたのを知らされていなかったチャクトゥは驚き、もう子供はできないかも、と医師から言われて呆然とします。しかしサルラが元気になり、しばらくすると、またもやチャクトゥは姿を消し、次の子供を授かっていたサルラは、やむなく町に居を移す決心をします...。


サルラは実にしっかり者の奥さんで、草原での堅実な生活が描かれるのですが、放浪癖のあるチャクトゥの方がいまひとつ魅力的でなく、お話に引き込まれません。モンゴル人と漢民族との関係や、国外に出たバンブラの叔父が病を得て帰国し、草原を再訪した時の感想など、いくつか引っかかるエピソードも登場しますが、何を描きたい作品なのかよくわかりませんでした。最後に草原から町へとカメラが移動し、町全体を俯瞰するショットが出てくるので、「草原もこのように変貌を遂げようとしている」と言いたいのであろうとは思いますが、ありきたりな印象しか残らない作品でした。

コンペ作品なので、プレス上映ながら監督を迎えてのQ&Aがその後にあったのですが、おそらく私の印象を覆してくれるような話は出るまい、と思われたのと、司会者が苦手な人だったので、パスしてしまいました。


で、夕食のお弁当を食べて次に向かったのが、一般上映の『Blinded by the Light(原題)』最初のTIFFラインアップ紹介で「インド映画はゼロ」と書いたのですが、イギリス映画ながら、インド人監督の作品を見つけたのです。『ベッカムに恋して』(2002)の監督グリンダル・チャッダーの作品で、イギリス在住のパキスタン系住民の少年を主人公にした作品です。すでにポニー・キャニオンによる配給が決まっているため、来年には公開されるのではないかと思いますが、またまた人名表記で「あちゃー」な点が。監督の名前「Grinder Chadha」のカタカナ表記は「グリンダ・チャーダ」になっており、『ベッカムに恋して』の時に英語読みされ、誤った箇所に音引きが入れられて、それが今でも踏襲されている状態です。『ベッカムに恋して』の公開当時、演歌歌手「チャダ」さんも有名だったのに、せめて「チャダ」にできなかったものかと、今でも残念です。今度も監督名のほか、主演男優の名前「Viveik Kalra」が「ヴィヴィク・カルラ」になっているので、これも「ヴィヴェク・カルラ」に直していただきたいのですが、ポニー・キャニオン様。映画の反応の検索とかして、ぜひこのブログに来て下さい!

『Blinded by the Light(原題)』(画像はいずれも© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.)


 2019年/イギリス/英語語/117分
 監督:グリンダ・チャーダ(正しくは:グリンダル・チャッダー)
 出演:ヴィヴィク・カルラ(正しくは:ヴィヴェーク・カ-ルラー)、アーロン・ファグラ、ヘイリー・アドウェル

1980年、ロンドン郊外の小さな町ルートンからお話は始まります。両親がパキスタン人移民の少年ジャベド(ジャーヴェード)は、向かいの家に住む親友マットと丘の上から「最低な町ルートン」を見ていました。マットは誕生日に買ってもらった自転車を得意げに乗り回し、いらない日記帳をジャベドにくれたので、その日からジャベドは毎日日記を付け始めます。数年後、ハイティーンになった二人は相変わらず親友同士でしたが、マットはシンセサイザーを使ったバンドに夢中で、ジャベドは時々マットに歌詞を書いてやっていました。ジャベドの父は工場勤めでしたが、ジャベドと姉(本当は従姉)と妹を抱えて家計は苦しく、母がミシで仕立ての内職をして家計を支えていました。父はカーステレオでもインド映画『サンガム(合流点)』(1964)の歌を流したりする旧弊な人物で、家計も自分が管理するワンマン亭主。高校を出てカレッジに入ったジャベドは、そこでクレイ先生という文学を教える女性教師に出会い、自分に物書きの才能があることに気づかされます。と同時に、シク教徒の学生ループスから、ブルース・スプリングスティーンの歌を聞かされ、その歌声と歌詞に衝撃を受けます。こうしてブルースはジャベドの神となり、彼は徐々に解放されていって、イライザ(ネル・ウィリアムス)という彼女もできます。ところが不況のために父が工場を首になり、家計はいよいよ逼迫します。そんな中、ジャベドの才能は学校新聞から始まって、様々なところで開花し始めるのでしたが...。


実在の人物で、ジャーナリストであるサルファラーズ・マンズールがモデルになっており、その親友でシク教徒のループスも、実在の人物がモデルです。映画の最後には、彼らがブルース・スプリングスティーンと写したツーショット写真が登場し、彼らがいかにブルースの濃いファンであるかが説明されます。また、グリンダル・チャッダー監督がブルースと写した写真も使われていて、ブルースのお墨付きも得ている作品であることがわかります。もちろんブルースの曲はふんだんに使われていて、途中ジャベドがブルースの曲の洗礼を受けるシーンでは、歌詞が画面に現れて、ウォークマンを聞いているジャベドの耳から流れたり、彼の周囲を巡ったりと、とても楽しい画面に仕立て上げられています。音楽面だけでなく、1980年代後半のイギリスの雰囲気を出すために、服装や車などの大道具・小道具の再現に加えて、移民への蔑視、差別などの社会の現実もきちんと描かれています。

Viveik Kalra in Blinded by the Light (2019)

グリンダル・チャッダー監督自身もケニアのナイロビから幼い時にロンドンに移住し、似たような経験をたくさんしてきたのでしょうが、年代が20年ほど違うためか脚本にはサルファラーズ(あちゃー、「サーフラツ」なんて表記になってる!)・マンズール本人にも参加してもらい、上手にまとめています。ちょっと主人公が幸運すぎるような気もするのですが、おそらく「盛って」はいないのでしょう。途中、ソング&ダンスシーンも入れたりするところは、グリンダル・チャッダー監督の面目躍如です。そして、何よりもブルースの歌声が、歌の歌詞が、我々に魔法を掛けてくれます。日本でもまだまだファンは多いと思うので、この映画で涙する人もたくさんいることでしょう。今日は一番大きいスクリーン7での上映でしたが、結構席がうまっていて、若いカップルとかが楽しそうに見ていました。また、笑うシーンでは私と同じくらいの年代の声がよく聞こえ、オールドファンも見に来ていることが感じられました。最後には拍手が起きましたし、公開されると人気を呼ぶのではと思います。人名表記さえ正しく直して下さったら全力で応援しますので、ポニー・キャニオン様、ぜひご検討下さい! 下に、予告編を付けておきます。「ベーター(息子よ)」等ヒンディー語というかウルドゥ語も聞こえますので、見てみて下さいね。

 BLINDED BY THE LIGHT - Official Trailer - Now Playing In Theaters



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