あと2週間ほどで公開されるインド映画『SANJU/サンジュ』。今日は、サンジュことサンジャイ・ダットを巡る女性関係のお話です。
Photo by R.T. Chawla
1981年に22歳でデビューして以降、いい意味でも悪い意味でもずっと注目される男優だったサンジャイ・ダット(以下、サンジュ。上の写真は1990年代半ば頃)。本作の最初では、2013年に武器不法所持罪で再び収監されようとしていたサンジュ(ランビール・カプール)が、妻マニヤタ(ディヤー・ミルザー)の勧めもあって、有名な女性伝記作家ウィニー・ダイアス(アヌシュカ・シャルマー)に会いに行くシーンがあります。いい加減なライターが書いた自分の伝記本に懲りたサンジュが、収監前の猶予期間、1カ月の間に何とか自分の口から真実を語っておきたい、とライターを探していたところ、妻がウィニーの力を見込んで推薦したのです。サンジュは彼女と会って、話を1時間聞いてもらう約束を取り付けますが、その後ウィニーに接触してきたサンジュの旧友であり、悪友でもあるズビン・ミストリ(ジム・サルブ)が、ウィニーにこう言います。「サンジュはとんでもない女たらしだぜ。これまでに寝た女の数を聞いてみろ。200人以下の数だったら大嘘つきだ」
©Copyright RH Films LLP, 2018
で、サンジュの自宅を訪ねたウィニーがサンジュに質したら(上写真)、その答えが「プロの女を除くと308人か? いや、忘れた人もいるかも知れないので350人にしとこう」というもの。このあたり脚本がとてもうまく、ウィニーだけではなく観客も、「サンジュって、ホントにダメな奴」と「案外いい奴かも」の間を行き来して、すっかり物語に引き込まれて行きます。そのあたりの見事な呼吸、ぜひ楽しんで下さいね。
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こうしてサンジュはウィニーに「1時間」という約束で半生を語っていくのですが、その中に登場する恋人がルビー(ソーナム・カプール/上写真)です。明確には語られていませんが、グジャラーティー語が母語であるパールシーの家庭の娘という設定のようです。ここで、見ている人はあの女優がモデルだな、と気がつきます。その女優はティナ・ムニーム。サンジュのデビュー作『Rocky(ロッキー)』で相手役をした、当時人気上り坂のモダンな感じの美女でした。ティナ・ムニームの家庭は、グジャラーティー語が母語のジャイナ教徒ということで、ちょっと設定は変えてあるのですが、雰囲気は少し似せてあります。下が、ティナ・ムニームの当時のブロマイド写真です。
ティナ・ムニームは1975年、17歳の時にティーン対象のミスコンで優勝して注目され、当時の、というか一時代前の大物俳優兼監督デーウ・アーナンドの作品で1978年にデビューしたのでした。当時すでに55歳だったデーウ・アーナンドと、若いティナ・ムニームという取り合わせはずいぶん奇妙だったことを憶えていますが、当時は今の状況―50歳台の3人のカーン作品に若手女優が起用されて相手役を演じる、という状況と似た、若手男優が育っていないヒンディー語映画界だったのです。『Rocky』で共演したティナ・ムニームとサンジュはたちまち恋に落ち、つきあい始めます。ですが、サンジュは酒とドラッグに溺れることが度重なる上、ティナの相手役に嫉妬したサンジュが相手役リシ・カプールの所に乗り込んで事件を起こすなど、問題行動も目立つようになります。さらに、他の女優との噂は出るは、泥酔して発砲事件を起こし(銃所持の許可証は持っていたらしく、事件後没収されたと伝えられています)逮捕されるは、ということで、結局ティナはサンジュのもとから去ってしまったのでした。その後ティナは、大財閥アンバーニー兄弟の弟の方、アニル・アンバーニーと1991年に結婚し、現在では大実業家夫人として日々を送っています。こんな大物の奥様なので、あまりあからさまに描くわけにもいかなかったのか、サンジュの恋の相手を凝縮したキャラクターとして、ルビーが登場したようです。
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その後サンジュは実際の生活では、ティナと並ぶ人気若手女優ラティ・アグニホートリーと恋仲になったりもしますが、ドラッグ中毒から脱するためにアメリカで治療を受けたりしているうちにその恋も終わり、その後彼に大きなチャンスが訪れます。マヘーシュ・バット監督作『Naam(名前)』(1986)への出演です。1984年に妹ナムルターと結婚したクマール・ゴゥラヴとのダブル主演で、サンジュの方はネガティヴな主人公でしたが、映画がヒットして注目されたのはサンジュの演技でした。そしてこの映画の撮影期間中に、サンジュはデリー生まれでアメリカ育ちの新人女優リチャー・シャルマーと出会います。映画の成功が後押しをする形で、サンジュとリチャー・シャルマーは1987年10月にニューヨークで結婚、サンジュは28歳、リチャーは23歳でした。そして1988年には、女の子も誕生するのですが、その後間もなくリチャーには脳腫瘍がみつかり、闘病生活を余儀なくされます。リチャーを見舞うためたびたびニューヨークに飛んでいたサンジュでしたが、その陰では共演の女優と次々と浮き名を流し、やがて1992年頃になると、サンジュは離婚を考え始めます。その原因となったのは、下の女優との恋愛でした。
Photo by R.T. Chawla
この人は、そう、今も活躍している人気女優、マードゥリー・ディークシトです。サンジュとは1991年の『サージャン 愛しい人』で共演、2人は恋に落ちます。
『サージャン』の物語は、養護施設育ちで、足が不自由なアマン(サンジャイ・ダット)と、幼い時からアマンをかばってくれる金持ちの息子アーカーシュ(サルマーン・カーン)という親友同士が主人公。アーカーシュの両親に引き取られて大学を卒業したアマンは、「サーガル」というペンネームで詩を書き始め、多くのファンができるようになります。一方、大学を卒業してもフラフラと女の子と遊んでばかりのアーカーシュでしたが、プージャー(マードゥリー・ディークシト)と出会い、真剣に恋するようになります。ですがプージャーはそれ以前にアマンと出会っており、「サーガルの詩が大好き」というプージャーにアマンもいつしか惹かれていたのでした...という三角関係の恋物語で、最後は身を引こうとしたアマンにサーガルが恋を譲り、めでたしめでたしとなります。インドでは大ヒットした作品で、少し前に日本公開された『めぐり逢わせのお弁当』(2013)でもこの映画の主題歌が効果的に使われていましたが、日本でも1996年にNHKで放映されました。
さらに『サージャン』のあと、サンジュとマードゥリー・ディークシトの共演作が大ヒットします。『Khalnayak(悪役)』(1993)です。まるで、その後テロ準備罪と武器不法所持で逮捕されるサンジュを暗示したようなタイトルですが、サンジュは刑務所から脱走する悪人役、マードゥリーは踊り子に化けて彼を捕まえようとする女性看守役でした。この映画を特に有名にしたのが、サンジュを前にマードゥリーが意味深な歌詞を歌い、セクシーな踊りを見せる「Choli Ke Peeche Kya Hai(ブラウスの下には何がある)」のソング&ダンス・シーンでした。
Choli Ke Peeche Kya Hai - Khalnayak | Alka Yagnik & Ila Arun | Sanjay Dutt & Madhuri Dixit
この作品で2人の仲は決定的になったようで、サンジュは離婚を考え、1993年には離婚申請をします。一時は脳腫瘍を克服していたリチャー・シャルマーでしたが、この頃またガンが再発し、闘病していたことも知りながら、サンジュは離婚を切り出したのです。しかしながら、その直後にサンジュは逮捕され、マードゥリーとの仲も自然消滅。傷心のマードゥリーは兄を頼って渡米、そこでお見合いをしたアメリカ在住の医師シュリーラーム・ネーネー氏と1999年に結婚します。今は子供もできてすっかり家庭婦人となっているマードゥリーですが、最近も『Total Dhamaal(大騒ぎ総決算)』をヒットさせるなど、まだまだ女優として活躍するようです。また、先日公開の『Kalank(汚点)』ではサンジュと共演、人々をアッと言わせました。
サンジュの方は、リチャー・シャルマーが離婚後の1996年に病死したあと、1998年にはモデル兼女優のリア・ピッライと再婚します。ですが、リア・ピッライとも2008年に離婚し、同年に今の妻マニヤタ(マニャター)と結婚しています。マニヤタはディルナワーズ・シェイクが本名のイスラーム教徒で、マニヤタは女優として映画に出演した時の名前です。なかなか賢夫人のようで、その姿は『SANJU/サンジュ』の中でも好意的に描かれています。
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とまあ、やはり長ーくなってしまいましたが、本当にサンジュの半生はジェットコースター人生で、女性遍歴一つを取っても350人の1、2%を紹介するだけでこの長さです。『SANJU/サンジュ』でリチャー・シャルマーとの結婚・離婚や、マードゥリー・ディークシトとの恋愛について取り上げられていない、という点を批判するむきもあるようですが、ラージクマール・ヒラニ監督は本作を、父と息子の愛情物語、親友カムレーシュ(このキャラも、何人もの友人を落とし込んで作られたようです)との友情物語にしぼり、時代と映画界の裏面を背景に描いて見せたかったのでしょう。まずは、6月15日(土)からの劇場公開でご覧になってみて下さい。公式サイトはこちらです。ヒラニ監督のコメントの入った予告編を付けておきます。
『SANJU/サンジュ』ヒラニ監督コメント映像♪