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いつまでも心の中に消えずにいる“淡い恋”の光
誰も、誰しも、こんな“恋の形”に触れているはずだ
■監督 中江 功
■脚本 水橋文美江
■原作 山田詠美(「風味絶佳」文藝春秋刊)
■キャスト 柳楽優弥、沢尻エリカ、夏木マリ、高岡蒼甫、大泉洋、板倉俊之、佐藤二朗、チェン・ボーリン
□オフィシャルサイト 『シュガー&スパイス 風味絶佳』
主人公・志郎(柳楽優弥)は、大学に進学せず、両親の大反対を押し切って、大好きな車に関わるためにガソリンスタンドで働いている。 ある日、新しくバイトに入ってきた乃里子(沢尻エリカ)。 彼女を見て、志郎の胸は高鳴った。 その人は、高校時代、偶然志郎の目の前で、走ってくる車の前に飛び出した女性だったのだ。 あの時、急停車した車から降りてきた男を泣きじゃくりながら思い切り叩いていた彼女。恋の終わりを予感させる印象的な光景。 志郎の脳裏に残る記憶の中にいた切ない女性が、目の前でまばゆい笑顔を向けている。 初めて「恋をする」という感覚を知った志郎。 あの彼氏と別れてから、寂しい想いを抱えている乃里子は、女性に不慣れな志郎の、不器用だけど誠実な優しさに触れ、無邪気に寄り添っていく。 しかし、乃里子には元彼の影が付きまとっているのだった。
おススメ度 ⇒★★★☆ (5★満点、☆は0.5)
cyazの満足度⇒★★★☆
高校を卒業する血気盛んなころ、色んな“恋”の形の一つにこんな淡い“恋”も確かにあった。
独りよがりで、相手も自分のことをきっと好きだと思っていた。 でもそれは決してそうではなかったのだ。
この主人公と同じように、相手は女子大生で、儚く過ぎていった恋があった。 不器用ながらも一片の桜の花びらのように、短い“恋”は散っていった。
原作は読んでいないのですが、山田詠美さん“らしくない”真綿で包んだような甘く切ない若い男女の心情を映し出した作品だった。
主人公を演じる柳楽クン、『誰も知らない』、『星になった少年』等、若いのに独特の存在感を持っている役者さんだと思うのだが、この作品のプロデューサーが「柳楽君を主役に映画を撮りたい」と言っていたそうで、そのためにフィットしたのがこの山田詠美さんの原作だった。 最もたまたま本屋さんで見つけたのがこの作品だったそうだが、でもそのチョイスはまさしくグッド・ジョブだったと言えよう。
起伏のない彼が演じる志郎は青春の光と影を等身大の演技で見せてくれた。 若くして柳楽クンは独自の青年像を映し出していた。 オフ・スクリーンではとてもシャイだそうだが、そのいい部分をスクリーンでは見せることができるのだ。
彼が想いを寄せる女子大生や沢尻エリカ、多分等身大の年代だと思うのだが、僕自身の中の彼女は『パッチギ!』の印象があまりにも大きい。 以降、彼女の活躍は目覚しい。 彼女、日本人の女優さんと言うよりはむしろ、スクリーン上に映しだされる彼女は、男性が好む韓国女優の優しさと奥ゆかしさを持っているのではないかとぼくは勝手に思っている。
ストーリーは淡々として進む。 そこにはガソリンスタンドとBAR「Fuji」という空間で織り成す人間関係で構成される。
もちろん、メインは志郎(柳楽優弥)の乃里子(沢尻エリカ)に対する淡い初恋物語なのだが、それ以外に要所要所に配したキャスティングが実にいい。
軸に据えているのはやはり志郎のグランマである夏木マリだろう。 外見はアメリカかぶれのハイカラなぶっ飛び婆ちゃんってところなのだが、実はその理由はストーリーの進むほどに分かってくるのだ。 その外見やしぐさ、語り口とは別に内面にはやはり古いスタイルの大和撫子が存在していた。
この映画のグランマが彼女でなければこの映画は存在しないぐらい、ややオーバー・アクションながら、これまでの舞台経験は間違いなくこの映画に活かされている。
若い世代には、彼女がかつて歌手であったことは知りえぬところだろうが。
彼女曰く、「ガソリンスタンド」ではなく「ギャス・ステーション」なのだそうだ(笑)
BAR「Fuji」に飾られた一枚の写真、それは富士山の写真だった。 この1枚の写真が、二人の女性の過去と現在のキーワードとなっている。 その写真には、
彼との想い出を忘れられなくて写真の場所を探し続けているグランマと、
これがどこか知っているのに、彼との想い出を忘れたようとする乃里子。
ここにももう一つのストーリーが絡んでくる。
ここに、グランマ、乃里子、志郎、ここを中心にそれぞれの心の動きが、遊び心いっぱいのアメリカンスタイルバーでの空間の中で、その色彩を濃くしていく。
できれば、これは核心にも近いので触れないでおくことにする。 是非劇場で楽しんで欲しいから。
ちなみに、夏木マリさんのこんな記事があったので、映画とは直接関係ないが紹介しておきます。
僕が最近気に入って読んでいるサイトに「どらく」というものがあります。 ここのひとインタビュー第十回に彼女の記事があります。
乃里子が忘れようとして忘れられない元カレの矢野。 沢尻エリカと高岡蒼甫。この二人でまた『パッチギ!』を思い出してしまった。 二人は既に『パッチギ!』で共演していた。
志郎のバイト先のオーナーに金田昭夫、所長に大泉洋、同僚にお笑いインパルスの板倉俊之、同じく同僚の佐藤二朗。 彼らの絡みはなかなか面白かった。
このギャス・ステーション(笑)はこの映画のために木更津に作られたセットなのだが、周りに何もなく、何となく妙にアメリカの片田舎的な雰囲気を感じさせるSSだった。
そして、何といっても魅力的だったの音楽だ。
その中心があのオアシスだ。 彼らは初めて日本映画に楽曲提供をしてくれた。 要所要所に流れる音は何とも耳に心地良い。 そして対照的にスタンダード・ナンバーも効果的だった。 「アンチェインド・メロディ」(アンディ・ウィリアムス)が流れるときは、この瞬間きっとこの曲がかかるだろうと思いながら楽しんでいた。 最近、『ゴースト』も地上波でやってましたね。
最後に、やはりこういう“淡い恋”を潰さずに、志郎の恋の行方と、彼を周辺の日常を絡めて、少しの無駄もなく仕上げることができたのは、水橋文美江さんの脚本の秀逸さと、中江功監督の手腕によるものだろう。 それはTVドラマを培った演出家としての才能を、奢ることなく注ぎ込んだ結果だろう。 こんなに心の中に素直に優しく入り込んで来る映画は久しぶりだった。
“淡い恋”の行方を一緒に探してみませんか?
そして少しだけ涙してみませんか? 自分の中の“淡い恋”に・・・。
>男性が好む韓国女優の優しさと奥ゆかしさを持っているのではないか
男好きのする子だと思います。
それだけに今回は小悪魔的で、柳楽君の手には負えないな~と最初から思ってました~。
でも、「本気の恋」を知っただけでも彼はステップを一段上がりましたね。
>エリカちゃんってスクリーンでアップになっても超かわいいですよね。
そうですね^^
化粧品のCMに出るんですから短期間に大出世ですよね~♪
>でも、「本気の恋」を知っただけでも彼はステップを一段上がりましたね。
そうですね。彼の持つトーンは変えて欲しくないですが、役者としては一歩前進したと思います^^
前回(冷静と情熱の間で)の作品を観て、ちょっとガッカリしていたので、今回の作品はとても雰囲気も役者も良くて大満足でした^^
脇役の方々も脇に徹していたのがとても良かったし、柳楽くんが後半に進むにつれ、とても表情が良くなってきたのも良かったです。
この何とも言えない”甘いテイスト”とオアシスの音楽も合っていたし、強引なハッピーエンドでない所が、妙に初恋っぽくて良かったですね^^
というわけで、TBさせて頂きますね^^
>こんなに心の中に素直に優しく入り込んで来る映画は久しぶりだった。
正にその通りだと思いました。
中江監督の演出、水橋さんの脚本が上手く噛みあって
ステキな世界を魅せてくれたと思います。
私はこの映画で沢尻エリカという女優の一ファンとなりました。
表情が素晴らしい!
「アンチェインド・メロディ」
はThe Righteous Brothers ではなく
アンディ・ウイリアムスというところが心憎かったです。
この曲は恋愛映画にはフィットしますね~、実に自然に。
なんか今年は当たりの邦画が多くて嬉しい限りです。
シュガー&スパイス、、、
映画のタイトルどおりの作品でしたねぇ。
甘くて切ない気持ちを十分に味わうことのできる
いい映画だったです。
あたりの邦画ですね、まさしく!
>遊び心いっぱいの・・・
なんか良いですよね、あの雰囲気。ああいう所で、良い大人に囲まれて、みんな成長して行くのかなと思いました。
よろしくお願いします。
あとは、俳優さんたちですね^^沢尻エリカちゃんはこういう同年代の普通の女の子の感じがうまいなぁと思いました。客観的に見ると、結構小悪魔だとも思いましたが・・・(笑)リアルでした。柳楽くんもすごく成長していて、ビックリしました。また次の映画が楽しみになりましたねvv
まつさんとこでも告白されてましたね。
映画よりも映画っぽく受け止めてしまいました。
少年は今のもどかしい自分と
オジサンは過去のもどかしい自分と
どこかしら重ねあわせながら
見てしまうのではないでしょうか?
恋愛映画ってどっちかいうと女性が見たがるけど
こういう描き方をする作品って
男のほうが切なくなるかもしれないですね。
>中江監督と水橋文美江さんはご夫婦なんですよね。
そうだったんですか? 知りませんでした(汗)
>脇役の方々も脇に徹していたのがとても良かったし、柳楽くんが後半に進むにつれ、とても表情が良くなってきたのも良かったです。
結構いいチームワークだったように思います^^
大泉クンの雰囲気がそうさせたのでしょうか(笑)
>この何とも言えない”甘いテイスト”とオアシスの音楽も合っていたし、強引なハッピーエンドでない所が、妙に初恋っぽくて良かったですね^^
無理のない配慮がこの映画を素晴らしいものにしていると思いました! 淡い恋・・・したいですね^^
>中江監督の演出、水橋さんの脚本が上手く噛みあってステキな世界を魅せてくれたと思います。
そうでしたね! サトウノリコさんのコメントでお二人がご夫婦だと知りました^^ やっぱしって感じですね!
>「アンチェインド・メロディ」はThe Righteous Brothers ではなくアンディ・ウイリアムスというところが心憎かったです。
そ、そこなんですよね^^
こういうところが遊び心と映画に深みをもたらす中江監督の妙技ですね^^