DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop71.宙鳴

2023年05月06日 | 星玉帳-Deep Drops
【宙鳴】


何かの鳴き声なのか


その音は


小さく大きく


宙に舞い響く


何時の季節からだったろう


鳴き始めたのは



旅の始め、それは既にあったように思う


打ち寄せては引く波のように


森でさざめく木の葉のように


北極星の瞬きのように


あれは


今宵も ここに



drop71『宙鳴』



drop70.淡い光

2023年04月27日 | 星玉帳-Deep Drops
【淡い光】


集めた欠片を寝床に敷き詰める


欠片には仄かな光があり


それらは不規則な輝きで部屋を照らす



金星の旅人を思う


旅は別れの連続で


別れはそれぞれの淡い光を放つのだと


旅人は言っていた


色とりどりの旅の欠片は夜と共に漆黒となり


別れの淡い光を欲しがる



drop70『淡い光』





drop69.霧の向こうにゆくものは

2023年04月21日 | 星玉帳-Deep Drops
人々も世界も


静かに 


とても静かに



霧のように消えてゆくものだから



夢幻の中に


霞んだ物語を抱きしめて



霧の星の下に


傷む身体を抱きしめて




drop69『霧の向こうにゆくものは』





drop68.霞

2023年04月13日 | 星玉帳-Deep Drops
【霞】


辺りを覆う静けさは


この白い霞とともに広がるのだろう


遥か向こうに滲む灯り


あれは誰かが持つ灯火なのだろうか


それとも世界の終わりの標なのだろうか


霞の川面で


思い出したように水鳥が跳ねる


向こう岸に置き忘れた記憶がまた流れて往く




drop68『霞』



drop67.幻詠

2023年03月11日 | 星玉帳-Deep Drops
【幻詠】


詩人は幾年月も星を彷徨っていた


詠う言の葉はおおかた儚い虚言なのですよ、


と詩人は言う

星を渡り続ける彼女は


そっと棘や傷や哀しみの現を


(いわれのない)幻覚で


包むのみなのだ


あの夜


仰いだ漆黒の空に


ひとつ瞬く星を抱くように



drop67『幻詠』



drop66.キサラギ

2023年02月28日 | 星玉帳-Deep Drops
【キサラギ】



冬に交わした約束が



凍ったままだったので



白い小枝に



おみくじのように



結んで



春になって跡形もなくなりますように




  (如月の終わりに)




drop66.『キサラギ』







drop65.夜深

2023年02月23日 | 星玉帳-Deep Drops
【夜深】


凍てつく夜更け


スープ屋の湯気を探す


辛く甘く苦く熱いスープを


毎夜毎夜作っていた彼女は


もう湯気の下にはいないことを


時に忘れてしまい


探し続ける


「そこ」にいないということは


どこにもいないということだ


と誰が言ったのだろう


深まる夜


湯気は儚く


しかし火傷するほどに熱い



drop65『夜深』





drop64.難船

2023年02月13日 | 星玉帳-Deep Drops
【難船】


浜に打ち上げられた船は


時と共に静かに朽ちていた


ここに彼(魚)は棲んでいた


尋ねていくたび


この船は泳げなくなった魚の好物なのだと


微笑んでいた


私は怖かった


とても、とても怖かった


時も船も彼も


この風景さえも


無となり消えてしまうことがとても



drop64『難船』







drop63.流星

2023年01月25日 | 星玉帳-Deep Drops
【流星】


川辺の鳥は


おそらくは随分昔から川を見つめている


流れを見つめたまま


長い時をそこで過ごしている


ほら直に水底に星が見えますよ、


と鳥は言う


波の随に流れた星は


堕ちて往く刹那に一際輝くという


宙にある億万の星のたった一つが


長い時を経てここに重なる時は


終焉の哀しみなのなのか祝いなのか






drop63『流星』



drop62.宙

2023年01月12日 | 星玉帳-Deep Drops
【宙】

夜に
宙が
浮かぶ

見る星がすべて
過去のもの
であるならば

私は今
どこで漂うのだろう
時の中で失せてしまった
身と心を嘆くことは

それは愚かなことではないと
誰が言う
彼方の宙宙
宙で 誰が



drop62『宙』


drop61.夜行と朝

2022年12月27日 | 星玉帳-Deep Drops
【夜行と朝】


夢の欠片が


宵闇のハザマに刺さる時


まるでよく吠える夜行動物のように


夢に泣き絶望にむせび泣き


悲哀の夜の中


旅は明け暮れて


望むらくは


どうか真白な朝を



drop61『夜行と朝』




drop60.氷の森

2022年12月22日 | 星玉帳-Deep Drops
【氷の森】



樹木は凍りつき



行く手は厚い氷に覆われている



見上げる宙に無数の氷点の欠片が漂う



飛ぶ鳥の鳴き声が空気を切り裂いた後



やがて訪れる静寂の中



記憶の割れる音だけが途切れ途切れに身体に響く



割れた記憶は零度よりも遥かに低く



凍り付くのは


いつもいつも



この足元だけだ



drop60『氷の森』




drop59.瞬き

2022年12月17日 | 星玉帳-Deep Drops
【瞬き】


北の空に輝く星の瞬きが

この地に降り注ぐと信じた夜


朝など来なければよいと願った


永遠などというものは


どこにもあるはずはないとわかっていたはず


なのに夢見るかのように求めた


瞬く一夜は瞬く間にまぼろしに変わり


あの夜に私は私を置き去りにしたまま





drop59『瞬き』



drop58.言の葉

2022年11月20日 | 星玉帳-Deep Drops
【言の葉】


落ちた葉を拾い集めては


意味無い言葉をそこに書き溜めていった


溜まった葉をかばんに詰め深い森へ行く


火を起こし一枚一枚燃やす


言の葉はこうして灰にするのが良いと


焚火の番人をしている老詩人から教わった


枯れた言の葉も火になれば暖かい灰になり


やがて冷たい空に舞い消えるのだと




drop58『言の葉』


drop57.架橋

2022年11月08日 | 星玉帳-Deep Drops
【架橋】


雨の中


橋を渡った


先も後ろも雨に煙っていた


渡ればどこへゆけるのだろうか


尋ねる人もいない


飛ぶ鳥もいない


雨雲の切れた遠い空に


「虹」が見えた気がした


雨の橋は幻視を招くと聞いたことがある


幻ならば何よりだ


その七色はいつまでも美しい



drop57『架橋』