DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop56.碧空

2022年10月31日 | 星玉帳-Deep Drops
【碧空】


あの星の森で最初に出会った人は


名前も知らない行きずりの旅人だった


背の高い樹木の隙間から共に空を見た


他愛のない時間


垣間見えた空は


まるで無限であるかのような広がりの青だった


別れが成せるのは


ただ永遠に近づこうとする記憶なのだ


青くどこまでも青く


碧空は




drop56『碧空』


drop55.魔夜

2022年10月29日 | 星玉帳-Deep Drops
【魔夜】


魔法使いが棲むという森に入った


森の奥深くに分け入り


長く彷徨った


彷徨う意味は問うてはならないと


森の番人をする長老は言う


問いがなければ答えもない


ただ


魔法使いの魔法が起こすという


白濁の冷たい夜の霧雨に包まれて




drop55『魔夜』



drop54.抱

2022年10月07日 | 星玉帳-Deep Drops
【抱】


思い出すことは哀しみであり


と海辺の詩人は詠っていた


哀しみの果て


水平線と霧にのまれぬよう


それはこの「箱」に閉じ込めるのですよ


そしてただ夢を


箱に入らなかった夢を


詠めばいいではないですか


記憶に責められることも無く、と



海辺の詩人は箱を抱き


星の海辺で今宵も



drop54『抱』



drop53.海馬

2022年09月26日 | 星玉帳-Deep Drops
【海馬】


海の見える丘で知り合った海馬


体を傷めて海で暮らせなくなったのだと


ここで幾日も海を眺めていた


ある日丘に登ると


彼はいなかった


船に乗ったのだろう


遠い星へ往く船に乗るのだと会うたび言っていた


遙か沖に船が往くのが見える


さよならは言わず言えず、


遠い汽笛は消えてゆく



drop53『海馬』



星玉のお話について少し

2022年09月24日 | 自由帳
星玉のお話(星玉幻灯話)

古いepisode順に
(現時点で)

〇BlueLetters編 100話【既刊「星玉幻灯話」(しおまち書房刊)に収録】
〇StarFlakes編 100話(ツイッターとこのブログで読めます)@hoshidamastory
〇DeepDrops編 (現在)50話超え(こちらもツイッターとブログで)

現在進めているのがDeepDrops編です。
50話め(やっと)超えました。
図らずも長い道のりになってしまいました。

書くことは何かしらどこかしらすり減ることなのだと
しみじみと実感。もう何年も実感。


続けられるでしょうか。
いや、続けたいのかさえわからくなってきました。


生き続けていると、不確実なことばかりです。
不確実に浮遊するばかりです。

書くことも生きることも
困難な旅
行き先のない行程は独りひとり コドク




drop52.夢間

2022年09月16日 | 星玉帳-Deep Drops
【夢間】


目の前の霧は瞬く間に広がり白い闇に変わる


方向を失ったまま彷徨うことは幾度もあった


それは大概、夜毎の夢に向かう


この夢があの夜から続く夢であればよいのに


あの人がとうにこの星から旅立ってしまったことを除けば


別れの霧景色はいつも闇の夢間に浮かぶ



drop52『夢間』


drop51.自鳴琴

2022年09月06日 | 星玉帳-Deep Drops
【自鳴琴】


川辺を離れ行き先を決めぬまま歩いていると


どこからかオルゴールの音色が聞こえてきた


そこは乗り物の停留所なのか


ベンチに人が座り小さな木箱を開いていた


声をかけ道を尋ね


音色を聴き


とりとめのない言葉を交わした


時が経ち彼の顔も思い出せないというのに


あの音色だけは今も



drop51『自鳴琴』





drop50.水鳥

2022年08月30日 | 星玉帳-Deep Drops
【水鳥】


岸辺で向こう岸をながめていた


ある時水鳥が飛んできて向こうへ行きませんかと尋ねてきた


背に乗った


鳥の背は氷の板のように冷たかった


向こう岸から吹き付ける風は冬の嵐のようだった


置いてきた岸辺のあれこれが風と共に浮かぶ


凍るほどに日々残したものたちは痛く

そして遠く



drop50『水鳥』

@hoshidamastory


drop49.夜話

2022年08月11日 | 星玉帳-Deep Drops
【夜話】


気紛れにやって来るキツネ


嘘ばかりの話を並べては


あれもそれも嘘ではない、


正真正銘真実ばかりですよ、


憂うことなど何もない、


などとよくわからないことを言い


笑う


夜通し


キツネの嘘話を聞きながら


私は眠る


目覚めると


誰も居ない


きっとあなたがここにいたことも


真実と笑う嘘なのでしょう。



drop49『夜話』


drop48.鳴声

2022年08月02日 | 星玉帳-Deep Drops
【鳴声】


橋を渡る度に欄干に止まっている鳥に出会う


鳥はその鳴き声で


直に橋は無くなりますよ、


と教えてくれた


私の驚きと哀しみを察してか


慰めるように鳥は良い声で鳴いてくれる


しばらく聞き入りまた歩き始める


橋のたもとで振り返ると


あっさりと君はいない


橋がなくなればもう会うことは



drop48『鳴声』




drop47.青霧

2022年07月26日 | 星玉帳-Deep Drops
【青霧】


崖の下には青い霧が広がっていた


霧、あれは霧なのか


もしかしてあれは空かもしれない


空を見下ろす地まで来てしまったのだろうか


通りかかった旅人にここはどこなのか尋ねてみたが


この地に名前はないという


どこまでも青く底のない「空」に手を伸ばす


堕ちますよ、の声は次第に遠く



drop47『青霧』




drop46.暗夜の詩

2022年07月16日 | 星玉帳-Deep Drops
【暗夜の詩】


たった一つ詩歌を綴り


詩人は彼岸の惑星に旅立った


詩には彼だけが描く星の情景が語られていた


終わりになると再び始まり


始まりが始まるとまた終わりを迎えるという、


読み続ければ永久に手が届きそうな長い長い詩だった


星の隠れた夜


文字をなぞる


いつかこの星で会えるのだろうかと



drop46『暗夜の詩』






drop45.岸辺

2022年06月23日 | 星玉帳-Deep Drops
【岸辺】


星の岸辺に転がる欠片は雨に散った星屑たちだ


雨の季節、雨粒が当たるとその僅かな力で欠片は細かく砕けてゆく


時に放つ光は仄かであるのに鋭く目に痛い


この瞬きは二度とは訪れないと


現世果たせない約束を雨の刻に見る


星の岸辺に雨と欠片


他に何もなく


ただ一瞬


永劫の痛みを負い



drop45『岸辺』


drop44.ラグリマ

2022年06月10日 | 星玉帳-Deep Drops
【ラグリマ】


金星塔の屋上で


流星を数えていると


微かに弦の音色が聞こえてきた


流星群の夜だけ


ここに訪れる弦楽師が


塔のどこかでつま弾いているのだ


狂おしく刺さる旋律は


土星に旅立った人と聴いた曲


見送った後も繰り返し聴いた曲


音色に合わせ謳ってみる


遠い昔


名も無い作家が綴った


流星の詩



drop44『ラグリマ』

drop43.夢物語

2022年05月27日 | 星玉帳-Deep Drops
【夢物語】


夢物語を千話


紡げば夢の中で生きられる


それは遠い国の語り部が謳っていたことと


教えてくれたのは


若い詩人だったか


読書家の老キツネだったか


何も確かなことのない夢と現の


行ったり来たりは


ひどく空虚なものですよ


と彼らは嘆き


やがて忘れてしまう物語を数えては


幾千も夜を送り



drop43『夢物語』