ニューアルバム『LOVE』のレヴューで、今までにない数のコメントを頂いて皆様に感謝しつつ、過去アルバムのレヴューも8カ月ぶりに書いてみようかと思い立ちました。
嵐
『Time』
2007/7/11リリース
ジェイストーム
JACA-5064/5065(初回盤)
JACA-5066(通常盤)
前作『ARASHIC』からキッチリ1年でリリースされた7枚目のアルバム。松本くん主演ドラマの主題歌2曲と翔くんの映画のエンディングテーマというタイアップシングル3曲が収録され、売上的にも完全に成長軌道に乗った作品です。
レヴューの為に、改めて集中して何度も聴いてみたのですが、最初に聴いた時に比べて“あぁ、良く出来た楽曲が多いアルバムだなぁ”と思いました。
冒頭の4曲の高揚感、6曲目の切れと勢いに満ちたグルーヴ、10曲目のアーバンスタイリッシュポップの真骨頂から11曲目のソフィスティケートされたミドルポップへの流れ・・・・・所々に“なんでコレ?”と思う部分はあるものの(苦笑)、前2作に比べて相当作り込んだと思える印象。
それと、5人の声が無垢で素直な感じがするんですよ。かなり聴き手に訴えてくる様な真っ直ぐな感じ。その辺りも個人的には好ましいと思います。
簡単に楽曲についても書いておきますね。
・「Oh Yeah!」は、オープニングに相応しい押し出しの強い疾走ポップチューン。ドラム:河村徹、ベース:人時、ギター:西川進という布陣が勢いを後押しします。
・「Love so sweet」は言わずと知れた(笑)“花男2”の主題歌。ここ最近、テレビサイズでばかり聴いていたので、こんなにディテールに気を使って作ってるんだと驚いた(苦笑)Sweetなのにちゃんと力強いバックトラックはやはり、ドラム:河村徹、ベース:ha-j、ギター:奥田健治という生音の賜物。特に好きなのは間奏のギターカッティング~Cメロ~ブレイク~ラスサビという流れ。とても丁寧に繊細にクリエイトしているのが解ります。
・そこから「WAVE」のイントロが鳴りだす瞬間がホントに好き!(笑)大好きな安部潤のアレンジもさることながら、当時TOTOのドラムだったサイモン・フィリップスと、リー・リトナーやラリー・カールトンとの共演で知られるベースのメルヴィン・リー・デイヴィスをリズムセクションに配し、ギターに“セッション王”ポール・ジャクソン・ジュニアという布陣を敷く贅沢さ。印象的なサックスブロウは元T-SQUAREの宮崎隆睦。
・「We can make it !」は、スウェーデンのアニエス・カールソン「Love Is All Around」のカヴァーだが、鈴木雅也のアレンジによって原曲以上にドライヴ感を感じるグルーヴチューンに仕上げられている。特に、奥田健治によるカッティングが秀逸。
・「Firefly」については・・・・・・・アレンジによっては、森進一辺りが歌う演歌にしか聴こえなくなるよね、コレ(苦笑)ここで流れがブッツリいくのが残念。
・「太陽の世界」はホントに大好きな1曲です。元セルフィッシュの大坪直樹がアレンジしただけあって、ホーンの切れが素晴らしい。トランペットはエリック宮城と横山均(角松敏生とも演ってましたね)、トロンボーンが清岡太郎(彼もTokyo Ensemble Labで角松氏と仕事してるな)、サックスは竹上良成で、間奏のフレーズなんかはスペクトラムを彷彿とさせるんです(涙)工藤毅のスラップベースもビンビン響いてるし、俄然テンション上がります。しかしながら、歌部分はちゃんとアイドルポップの王道を行ってるのも好感度高し。
・「Carry on」は、どうもフォリナーやジャーニーの様な産業系の印象を受けてしまうのです。オーケストラルヒットらしき音が懐古感を感じてしまいますし(苦笑)
・「ROCK YOU」は意外と楽しめます。打ち込みらしいんだけど、ニューオリンズスタイルのトランペットと軽快なピアノが『Popcorn』収録の「旅は続くよ」のプロトタイプと言えなくもない気がします。
・「Cry for you」はギターの音が印象的なデジタルロックアッパー。リズム隊は「WAVE」と同じサイモン・フィリップス&メルヴィン・リー・ジョーンズ。ギターソロは「ARASHIC」にも参加したヌーノ・ベッテンコート。ha-j氏のアレンジが力強い曲調の輪郭をハッキリさせていると感じました。
・そして、このアルバムのみならず嵐の全楽曲中でもかなりお気に入りの「Love Situation」。嵐流シティポップの見本の様な名曲。奥田健治のギターカッティングにしても、佐野聡(Tb)・佐々木史郎(Tp)・本田雅人(Ts,As)によるホーンセクションの音色にしても、実に軽快で粋。作曲・アレンジ・打ち込みは、「きっと大丈夫」に引き続き名曲を提供してくれたSOUL'd OUTのShinnosuke氏。個人的には、間奏のカッティングに乗せて紡ぎ出されるサックスソロからCメロ(言葉のたたみこむ感じが素晴らしい)が大好きです。
・「風」も良いです。多田慎也のペンによるミドルポップは、miwaやケツメイシとの仕事で知られるNAOKI-Tのアレンジと弦一徹のストリングスによって、非常に格調高くセンスの良い作品に仕上げられました。イントロ終わりから歌い出しの辺りで、スティーヴィーの"I Just Called to Say I Love You"を頭に浮かべてしまうくらい流麗なメロディが聴ける1曲。
・「Be with you」は、彼らのバラッドの中でも出来の良い作品だと思います。ベタだけど求心力のあるサビメロと、流麗な弦一徹ストリングス、青山純と渡辺直樹というリズムセクション・・・全てを上手く纏めたha-jのアレンジの勝利といったところでしょうか(笑)
・「LIFE」も悪くないんだな、これが。石塚知生のアレンジの安定感。林部直樹の多彩なギター。翔ちゃんのラップも上手くハマってるし、ニノのヴォーカルはこーいうミドルポップで生きると個人的に思います。素直な5人の声が、ユニゾンの深みをもたらしていると思うのです。
・「アオゾラペダル」については多くは語らないです(苦笑)個人的に思うのは、タイアップじゃなければスガシカオはどんな曲を嵐に書いたんだろうか、というコトです(笑)
・通常盤には「Everybody前進」という曲が収録されています。この曲は、ホントにジャニーズポップのメインストリームを行く曲。アイドルポップかくあるべしというお手本の様なモノと思います。若手アイドルがデヴュー曲にこんな曲をもってきたら素晴らしいと思いますよ。
さて、初回盤には各人のソロが収録された別ディスクが付いているのですが、個人的には翔くんの「Can't Let You Go」が一番好きです。森大輔くんが書いたアーバンミドルグルーヴを吉岡たく氏がスタイリッシュにアレンジ。控えめに主張するボブ・ザングのフルートが柔らかさを演出しています。歌唱部分の翔くんの声が実直で好感が持てるのもイイんです。
ちなみに潤くんの「Yabai-Yabai-Yabai」も好き。文句なしに楽しいポップグルーヴ。聴いてて、ブラック・ビスケッツを思い出した(笑)クールな方向じゃなく、こんなファニーな彼も魅力的だと思うのです。好ましい末っ子感が漂ってる歌だと思います。
他の3人については、特筆することは無いかな・・・・・楽曲のフックが弱いなと感じました。
という訳で、前2作から相当に楽曲を吟味したのが感じられる良作になった本作。ディレクター:井上純の手腕がやっと軌道に乗ったアルバムなのかな(ドリアラから“Directed by~”の記載は見えなくなりますが)と思います。そして、嵐が国民的人気グループへ駆け上がる序章になる作品であったと評価できると感じた1枚でした。