子供の頃に為された厳しい家庭教育 —— 口に合わない物を出されても『文句を言わずに食べる(これについては、世界中の料理好きの女子からとがめられたことは一度もない)』。そしてそれはまた、生涯続く慣習になった。
しかし、読書は、そうはいかない —— タイトルが気に入らなければ、冒頭を拾い読みすらしない。
『つまらない』と規定すると、この三十年、自室のテレビのスイッチも入れない。無用と定めた本を始末するのを躊躇しないのに、埃を被ったテレビが何でこれ迄部屋にあったか不思議。
人が口にする食べ物や酒、着るもののセンス、女性の好みについてもアレコレ言わないのと同様、他人の読書の嗜好についても意見は持たない。また、周囲に本を薦めることもしない。薦められる方にしてみれば、口に合わない本を読まされるくらいなら、口に合わない食べ物を丸飲みする方がよっぽど良い。後者は栄養素として身に付くが、前者は、そうならない。