きみの靴の中の砂

アディオス・ムチャーチョス!





 午前八時半。
 東京・羽田空港、第2旅客ターミナル。

「正直言って、独身とは言え、五十になって転勤はホント厳しいすよ」と彼。
 離陸も迫った時間だったので、セキュリティゲート前は混雑が始まっていた。

 家族がいて一緒の転勤なら、気分もまた違っただろう。

「福岡じゃ遠隔地のうちには入らないよ。普通に週末に帰って来られるじゃないの」とぼく。
「そうすね。でも寂しいすよ」と言って彼は小さく笑った。

                             

 ゲートの向こう ----- 人混みに紛れて見えなくなる寸前、彼は振り向くと右手を高く上げ、
「アディオス・ムチャーチョス!」と叫んだ。
 アディオスのアクセントが『オ』にある。そう言えば彼は、大学はスペイン語学科だったっけ...。
 日本語で言うのが照れ臭かったのだろう。

 アディオス・ムチャーチョス! ----- 友よ、さらばだ!




George Martin and His Orchestra / This Boy


 

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