きみの靴の中の砂

その夏へ向けて

 

 

 浜松町から羽田行のモノレールが目黒川と京浜運河の合流点を過ぎ、水面にその姿を映しながら対岸に八潮北公園が見えてくれば、モノレールが北部陸橋の上を通過するのは間もない。 

 

 自転車で家を出て、運河まで七、八分のサイクリング。 

 

 日曜の朝の午前七時、水口イチ子はコンクリートの堤防にあがり、久し振りに穏やかな運河を見おろしていた。

 初夏の熱気が早くも水面に漂うのがわかる。 

 

 就職もしなければ進学もしない。この決定ついて父は「オレに金があるうちだけだぞ」と笑ってはくれるのだが…。

 

 この春が終ろうとしていた頃、進路指導の先生は、こんな調子の父娘を前にして、ただただ呆れていた顔が記憶に残る。

 

 イチ子にとって知りうる大人の世界は、まだ想像の域を出るものではなかったが、自分の行動に責任を感じながら顔を上げて生きていく自信があれば、こんな自分であっても大人の仲間入りができるようにも思えた。 

 

 次の、或いはそのまた次の春、自分は人生の春から夏へ向けて、ためらうことなく船出して行くのをイチ子は期待のうちに夢見るのだった。

 

 

 

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