きみの靴の中の砂

もう二度と





 あの夏の日、森戸海岸で水口イチ子といち日中ディンギーで遊んだ後、葉山のデニーズで悠長なお茶をしているうちに閉店時間がきた。
 週末のモータープールを埋めていた車は、ヨットマンやサーファーを乗せ、次々と闇へ消えていく。

 車のエンジンをかけてラジオのスイッチを入れると、軽快なポップスのエンディングが聞こえていた。フェイドアウトしていく中、辛うじて "Never Be The Same..." と歌詞が聞き取れた。『ニューヨーク・シティ・セレナーデ』と同じ声だからクリストファー・クロスが歌っていることはすぐにわかった。

 レコードを買おう!

 ラジオでオンエアされるくらいだから新曲に違いない ----- そう思ってリリース時期の新しい方から遡ってアルバムを買っていった。ところが、どうしてもその謎の曲に行き当たらない。判明しないのだ。とうとう根負けして、探すのをあきらめた。

                              

 それから何年かして、イチ子と鎌倉で暮らし始めた頃、彼女がぼくのレコード・コレクションからクリストファー・クロスのアルバムを見つけて気に入ったらしく、それからしばらく集中して聴いていたようだった。

 数日後、
「他の曲も聴きたくて、レンタルで、コレクションにないのを借りてきちゃった」と言って、イチ子がキッチンの彼女専用のオーディオで再生を始めた時のことだった。

 突然、あの曲が聞こえてきたではないか!

「それ、なんて曲?」と声をかけると、『もう二度と』だという。
 何年振りの邂逅だろう。根負けして、最後まで買わなかったデビュー・アルバムに収録されている曲で、しかも邦題付き。道理で見つからなかったわけだ。

                              

 その曲は今でも年に何回も聴く。すっかりメロディーが耳に馴染んだ『もう二度と』 ----- もし、それを二度と聴けないとしたら、それこそ "Never Be The Same" だ。



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Christopher Cross / Never Be The Same


 

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