きみの靴の中の砂

キッチン・ピエロ

(op.20250301-2 / Studio31, TOKYO)





 地下鉄新宿御苑前、区立図書館の斜向かいに『キッチン・ピエロ』はあった。
 仕込みの都合なのか、定時開店ではなく、客に問われれば、ただ昼前頃と答えるだけだった。

 午後の休憩はなく、そのまま喫茶室になったり、夕方には早々と御酒を嗜む近所の隠居衆が集った。
 客が切れれば二十時頃に、軒に下がった赤地に白抜き文字の電光看板の灯りは落ちたが、客がいれば十時頃まで料理を出した。

 マスターの澤口さんもコックのセイさんも —— この共に還暦近いふたりが従業員のすべてである —— 誰が見ても曰く有り気なふたりに見えた。特にセイさんは、強烈な訛りでもあるのか、声を発することはなく、マスターの言うことにただ静かにうなずく程度で、声を聞いたことのある人は、殆どいないということだった。

 メニューは定番の五品と日替わりが二品。いずれの味にもレトロな洋食の正統が感じられた。
 セイさんの得意料理は、人気メニューでもある蟹クリームコロッケで、添えるタルタルソースのタマネギに存在感というか歯ごたえがあり、その刻み加減にこだわりが見て取れた。
 自家製と覚しきパン粉がまぶされ、揚げられたコロッケは、世間のおおよその店が出すような、ナイフを入れると中身が流れ出てくるようなヤワなものではなく、ぼくの知る限り、その硬派な出来上がりは他のレストランのものの比ではなかった。



【The Association - Never My Love】



 

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