Andrew Harnik/AP
たまに古書の値段をネットで当たってみることがある。すると新刊時の倍以上、中には数倍になっているものまであるのがわかる。
いったいなにが、或いはいったい誰が値段をつり上げているのか。
理由はいくつかあるが、基本は他の物資同様、需要と供給のバランスによる ------ なにかしら特別なニーズが生じると、名うての古書肆の店頭価格が敏感に反応するだけでなく(瀬取屋さんは更に敏感である)、店主がここぞと利益勝負に出る。小遣いの範囲で買われる一般読者相手の本なら利幅より数で稼げるので高騰するのは稀だが、学術分野に組み込まれると大学などから予算が付くので、これまた本屋の主人の稼ぎ所となる。
と言うわけで、古書に新刊時の倍以上の価格が付いていれば、まあ、後日なにかしら曰く付きになった(新たな評価が付いた)ということの証しだ。
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日本ではほとんど無名だが、ピューリッツァー賞作家であるアニー・ディラード(1945~)という米国人がいる。彼女は、いろんなジャンルのものが書けるプロ中のプロだ。著作の中に『ライティング・ライフ(1989)』というのがあって、その日本語訳(『本を書く』柳沢由実子訳)に今、初版時の倍ほどの流通価格が付けられている。
さて、この本だが、筆が進まなくなったときに読むとなぜか想像力が湧くというので、実はプロの作家達が相当数隠し持っているようだ ------ うっかりなのか、それを自著でリークしてしまった者さえいる。
かつて、版元が売れない暇な作家と結託して小遣い稼ぎに『小説の書き方』などという本を度々上梓してきた ------ 決してベストセラーにはならないが、確実に、そこそこの販売冊数が見込める。そもそも売れない作家の書いた、そんなものを読んで作家になれた者の話など聞いたことがない。結局、若い作家志望者達が出版社一味にまんまと騙されるわけだ。というその手の本と比べると(実際は比べようもないほどのレベルの差だが)、アニーさんの著作は他とは一線を画している。松岡正剛さんが『千夜千冊(第717夜)』で分かり易く書評してくれているので、興味のある方は、そちらを参照してもらう方が確実に有益であり、時短になる。
ぼくはすでに原書も翻訳も所有済みなので、この先、古書『本を書く』の日本での価格上昇に加担する機会はない。
【This Time 小森義也 - あなたに会いたくて】
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