きみの靴の中の砂

○が三個

 

 

 湘南から東京の大学までの距離を自宅から通うのはめずらしく、通学に時間を取られ、大学の友達とはほとんど遊ぶ機会はなかった。だから、休日に遊ぶのは中学・高校からの友達に限られた。

 大学の講義がない日の早朝や夕方、いい風が吹いていれば決まってディンギーを出した。夏休みも同じスケジュールだったが、日中は風が落ちるのと海水浴客が砂浜に陣取るため、ヨットは出艇する場所が制限された。

 陸(オカ)に上がっている夏の日中に地元の仲間が集まる場所があった。そこは防波堤のはずれのテトラポットの陰で風を避けられる一角だった。
 そこへ行けばいつも男女取り混ぜ四、五人は顔見知りがいて、雑談としか言いようのない会話で時間を費やせた。

 たまにせがまれて後輩の女子をディンギーに乗せることはあったが、地元以外の女子を乗せることは絶対に無く、万が一乗せたりしようものなら、ヨットを出汁に誘ったと誤解され、ヒンシュクを買うのは必至だった。

 そうする中、みんな大学生や社会人になると段々海とは疎遠になり、大人になっても残っているのは自宅通勤者か地元の商店の跡継ぎくらいのものだった。

 子供の頃と比べて海と疎遠になったとは言え、休日に気が向けば、例の防波堤下に顔を出すことはあった。さすがに町を出て家庭を持ったものとはほとんど会うことはなかったが...。

 

 しかし、最近は世情も変わり、結婚をご破算にしてカムバックするのがいる。
 男はめずらしくないが、女の中にもバツがひとつならずふたつ付く剛の者が複数いて、
「アタシも今度結婚すると三回目になるから、先輩がもらってくれるなら今度こそは頑張って添い遂げるけど...」などと売り込んでくるのがいる。
「うん、考えておこう。当てにしないで待っていたまえ」と昔馴染みの気楽さからこんなことを言って寸前かわすこともないことはない。

 そんなカムバック組女子の会話を聞いていて感心させられることがあった。
「結婚に失敗すると、みんなバツの数で品評するけど、昨今は結婚まで漕ぎ付かない人もいるんだから、アタシ等はバツいくつではなく、めでたく結婚したんだからマルいくつと言ってもらいたいよネ」。
 まあ、そこまで楽観的に生きられるなら、手のかかるオイラとでも結婚生活が出来るかも知れない、と思ったりもする。

 

 
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