書棚脇のキャビネットを整理していたら、見覚えのある古ぼけた赤い箱を見つけた。フォーマルな靴でも入っていたような蓋付きの古い板紙の箱だ。床に置き、両手でそっと蓋を開けると、中に未整理の写真が百枚ほど —— アルバムに整理する前のストックかもしれない。
一番古そうなのは、高校に入った頃のモノクローム。
さて、そのなつかしい一枚は、水泳部の夏合宿で房総館山へ行った時のスナップ。写っているのは、高校一年生の水口イチ子。
館山の鏡ヶ浦という湾に面した浜で撮った記憶がある。
彼女が着ているワンピースは、確か小さな向日葵をあしらった柄だったと思う—— 手に濡れた砂が付いているところを見ると、砂団子でも作って遊んでいたか。
イチ子は、もちろん今でもあの頃と同じ笑顔で笑ってくれる。今またイチ子が、あの向日葵のワンピースを着たら、ふたりとももう一度十代に戻れるだろうか。
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イチ子によれば、あのワンピースの柄は向日葵ではなく、ポピーだと言う。