水口イチ子は幼稚園の頃からウチの母によくなついていて、夏休みなど、自分の家にいるよりウチに遊びに来ている時間の方が長いくらいだった。
お互いの家は垣根のない芝生の庭続きで、行き来するにも庭を横切るだけで済んだ。玄関に靴を脱ぐことはなく、もっぱら台所か縁側から自分の家のように勝手に上がった。
ぼくもイチ子もひとりっ子で、親同士も念願の性別の違う子供がもうひとり出来たようなもので、それが一層親しい近所付き合いの理由にもなった。
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朝から庭でイチ子の声が聞こえる。
起きて二階の窓から乗り出すと、イチ子が陽射しを避けて、テラス際の給水栓からビニールホースを引っ張り、家の陰でコンバースを洗っているのが見えた。