きみの靴の中の砂

夢の中の景色のよう





 1974年7月26日の日付のあるきみからの手紙は、ホテルの紙ナプキンにブルーの色鉛筆で書かれている。

 あの頃のインドネシアのリゾートでは、航空郵便用のレターペーパーは手に入らなかったのだろうか。しかも封筒すらタイプ用紙を貼り合わせた手作りで、縁を写生用のチョークで着色してある。

 その頃、きみの髪は、もうすっかり細く、しかも赤みがかって、何年か後に流行るソバージュヘアみたいだったよね。
 病が、きみを少しずつ老けさせていたんだ。

 その手紙できみは、ガドガドという食べ物を気に入っていると知らせている。暑いところだから、火照った身体を冷ます、一種の野菜サラダ ----- どんな香辛料が入っているか分析不能なピーナッツソースで和えてあるという。それをおかずにご飯と交互に食べるのだとか。

 きみが気に入った、そのガドガドは、いつかぼくも食べに行きたいと思っているよ。

                             

 写真が一枚同封されていた ----- 泊まったホテルのプールだとか。
 インスタマチックカメラのレンズの中心を残して、回りにマンゴージャムのゼラチン質をいたずらに塗って写したのだと説明がある。
 不思議な写真 ----- 夢の中の景色のよう。

 その頃、きみのお父さんが娘の旅のスポンサーであり続けた気持ちを、その時のぼくは、まだよく理解していなかったように思う。



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Kenny G / The Shadow Of Your Smile


 

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