ぼくの部屋の本棚の一隅が、時折遊びに来る水口イチ子のために空けてある。
今、近寄って見てみると、エスニックな料理本や雑多な小説、写真集、DVDやCDなどが特に分類するわけでもなく雑然と並べてあった。中には外国語で書かれているものも少なからず混じっている。
小説では、邦訳が手に入らなかったのか、ジョン・ドス・パソスの『マンハッタン乗換駅』やケルアックの『俳句』の原書。そして、ぼくの影響か、バロウズの『裸のランチ』の文庫本。その隣に会田雄次の『アーロン収容所』なんてのもある。他に映画のDVD ----- カーク・ダグラス主演『逢うときはいつも他人』やホ・ジノの『春の日は過ぎゆく』なんていうのも見える。彼女は国際線乗務だったから、きっと、フライトに携えて行ったのだろう。
棚の端に大振りのリングノートに書かれた旅の記録が1ダース程あった。フライト先によってノートを使い分けていたらしい。随分といろんな国へと行ったもんだ。
さて、イチ子は、七年ほど勤めた航空会社を先月あっさり辞めて、それまで蓄えていた貯金で世界旅行に出かけてしまった。お金を使い果たしたら帰って来ると言い残して...。それが半年先のことなのか、一年先のことなのかは今のところ不明と言う他はない。
イチ子は今頃、どこかの国のリゾートの、ブーゲンビリアの薫るプールサイドの木陰で優雅にまどろんでいるのか、はたまた、一度乗ったら最後、数日をシャワーなしで過ごさなくてはならない、辺境を行く、大陸横断鉄道の乗客の中に紛れているのか...。
***
だが、それから何日もしないで ----- ぼくのMacにイチ子から最初のメールが届く。
外国では主要空港や鉄道のターミナルなどによくある時間貸しのPCブースから送ってよこしたようだ。夕陽の写真が一枚添付されていて、本文は、あなたに見せたくて思わずシャッターを切りましたと一行だけ。だから、イチ子が今どこにいるのかは、結局、不明のまま。
***
本棚にポツンと忘れられたようにDVDが一枚 ----- 懐かしいイラスト・ジャケットに『NIAGARA SONG BOOK/Niagara Fall of Sound Orchestral』の文字。ぼく達が知りあった頃、飽きもせず日々エンドレスで聴き続けていたっけ。
久し振りに再生してみる。
見覚えのあるタイトル映像にかぶせて、あのなつかしいオープニング・チューンが聴こえてきたではないか。
【Niagara Fall of Sound Orchestral / "オリーブの午后" And Others】
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