「週刊少年サンデー」での掲載終了以降に描かれたリバイバル版『おそ松くん』についても、纏めて本章にて言及しておこう。
ブタ松薬品の研究所の所長のデカパンと助手のチビ太が開発した、食あたりも一発で治るという新薬をモルモット代わりのココロのボスに投入したことにより、薬の異常性が発覚。次々と予期せぬトラブルが勃発する中、ボスが死んでしまうことを会社ぐるみで隠蔽しようと企てる、赤塚キャラのオールスターキャストによる異色超大作『最後の休日』(「週刊少年サンデー」70年12号、『もーれつア太郎』の単行本への収録時に「まっ黒しっぽを東京でなおせ」と改題)をラストに、おそ松ファミリーは小学館系各児童誌より撤退する。
その後、学年誌掲載版の『もーれつア太郎』にイヤミやチビ太がゲスト出演するが、『おそ松くん』が本格的な復活を遂げるのは、連載終了から三年、舞台を「週刊少年キング」に移してのことだった。
数ある『おそ松くん』のエピソードの中でも、赤塚自身、一番のお気に入りだという「チビ太の金庫やぶり」に大幅な加筆を加え、リライトした読み切りが『新おそ松くん』(単行本への収録時に「リバイバル・チビ太の金庫やぶり」と改題)のタイトルで、1972年5号に掲載される。
1988年にスタートしたテレビシリーズでは、こちらの「週刊少年キング」版をベースに同エピソードが作られたことからも窺えるように、リライト作品とはいえ、背景のディテールやドラマの時間的経過における緊迫性に神経を注ぐなど、作品総体の完成度は前作を凌ぐ結果となった。
ストーリー構成もまた、人物描写に重きを置くことで、高い純度と哀切に満ちた深みが表出され、その演出の完璧性は、膨大な赤塚作品の中でも無類と言っても良いだろう。
同号には、60年代、「少年画報」、「週刊少年キング」の看板作品だった藤子不二雄Ⓐの『怪物くん』がリメイクされた以外にも、時同じくして、「週刊少年サンデー」で、武内つなよしの『赤胴鈴之助』や、川内康範、桑田次郎の『月光仮面』、水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』といった作品が、短期連載でリバイバルされ、かつて一世を風靡した懐かしの名作漫画を復活させる試みが、この時期、少年漫画各誌で次々と展開された。
この『新おそ松くん』もそうした時代の要請から描かれた単発の企画物であったが、読者と編集部からの熱烈なラブコールを受け、同年13号より新連載として本格的に復活。翌73年53号まで、約二年に渡りシリーズ化されることになる。
しかし、リメイク版「チビ太の金庫やぶり」のイメージから、「週刊少年サンデー」時代の『おそ松くん』に原点回帰した良質のストーリーギャグ路線が展開されるのかと思いきや、13号より再び『おそ松くん』のタイトルで再々開したシリーズは、毎回ドラマティックな盛り上がりもなく、荒れ果てたギャグが濁流する、まさに「週刊少年サンデー」版とは同名異作とも言うべき支離滅裂なナンセンス路線へとシフトチェンジされていた。
ナンセンス路線を指標としつつも、同時期に連載されていた『天才バカボン』や『レッツラゴン』における先鋭的なギャグ感覚と比較すると、明らかに質の劣る展開を見せ、読者を置き去りにしかねないダーティーテイストとユルユルな脱力ムードを共存させた笑いは、当時危機的状況に喘いでいた「週刊少年キング」を盛り返すまでの人気を得るまでには至らなかった。
また、後半になると、『ギャグゲリラ』の連載開始と重なり、更にスケジュールがタイトを極めてきたせいか、精彩を欠く、手抜き加減の作品がその大半を占めるようになる。