文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

『おそ松』版ウエスタンの最高峰「こしぬけガンマン」

2020-01-12 14:36:19 | 第2章

『おそ松』版ウエスタンで、紛う事なき最高峰と断言出来るのが、「こしぬけガンマン」(68年34号)だ。

本作でのチビ太は、バカボンのパパ(とおぼしきキャラクター)の孫という異色のキャスティングで、バカボンのパパは、孫のチビ太に、その昔、自分は二〇〇〇人のインディアンから街を救った西部一の英雄だったとホラを吹く年老いた酒浸りの腰抜けガンマンを熟演している。

かつて、街を牛耳っていた荒くれ者のデカパンと六つ子の子分達が、バカボンのパパとチビ太が住む街に帰って来た。

強盗や殺戮、非道の限りを尽くすデカパン一味。バカボンのパパは、自分を信じてくれているチビ太を裏切りたくない想いから、恐怖に晒されながらも、デカパン一味のいるサロンへと決闘を挑みに向かい、ギラつく太陽の下、壮絶なガンファイトへと雪崩れ込む……。

闘いに命を懸ける男の背中に漂う哀切と諦念に焦点を当てながらも、敢然と悪へと立ち向かう勇気、信じる者に真の強さを伝える誇り高さといった正義を貫く真っ直ぐな生き様を熱くスタティックに描破した赤塚のウエスタン讃歌。

戦々恐々とした不安が去来する中、ジリジリとデカパンに歩みよるバカボンのパパの魂の震えと呟きが、息詰まるストーリーの臨場感を生々しく、そしてドラマティックに高めている。

西部開拓時代のレクイエムを鮮烈な熱情をもって奏でるこの作品は、地べたを這うような鬱屈した老雄の、しかし凛とした勇魂が、自己犠牲の美意識に準えて描かれ、その悲壮なまでの覚悟と深いペシミズムは、読む者に胸詰まる感涙を投げ掛けること請け合いだ。

他にも、O・ヘンリーやロバート・ルイス・スティーヴンソンなど、赤塚自身が愛読していた掌編小説や児童文学を意欲的にコミカライズしたエピソードも『おそ松くん』には複数存在する。

掌編小説に原作を得て描かれた作品は、いずれも、本来の質の良いストーリーラインに支えられた展開に統一されるものの、ヒューマンナイズされた爽やかな感動のシノンプスを換骨奪胎し、笑いを織り交ぜた軽妙洒脱な、それでいて、人間の生き方における美学が二重写しとなったショートショートに仕立て上げることで、古典的名作から独り歩きしたオリジナルエピソードへと昇華させている。