文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

ウェットな節回しが効いた「友情空中ブランコ」

2020-01-14 20:09:22 | 第2章

「ボーイズライフ」(66年10月号)に発表された「友情空中ブランコ」もまた、慎ましい生活を送る若い夫婦が、お金を工面し、クリスマスの日にお互いにプレゼントを贈り合う、その皮肉な行き違いを愛情深い眼差しで綴り、O・ヘンリーの最高傑作との呼び名の高い「賢者の贈り物」をヒントにした物語である。

このエピソードでは、若い夫婦の役どころをイヤミとチビ太の空中ブランコのコンビに変換しているのがミソ。

失敗の連続で、ショーが盛り上がらない苛立ちから、二人は仲違いするが、お互い、コンビ結成の記念日に贈り物を持ち寄り、再び友情を取り戻すというハートウォーミングなショートドラマで、こちらもまた、躍動するスラップスティックなギャグと、胸にジーンと染み入る人間の深い優しさへの賛美を融合した、初期の赤塚作品独特のウェットな節回しが効いた一編である。

因みに、『おそ松くん』以外にも、O・ヘンリーの短編を下敷きにして描いたエピソードもあり、『天才バカボン』の連載開始前に「週刊少年マガジン」に読み切りとして発表された『ケイジとゴエモン』(66年49号)も、青年時代の二人の親友が、長い歳月を経て、警察官と指名手配犯となって再会するその数奇な運命を切り取った『二十年後』をアレンジした中編で、心温まる余韻を残すラストシーンに演出の才を感じさせる隠れた名編の一本だ。

一人の刑事が、犯罪者となったかつての親友を諭し、罪を償うよう改悛させるまでの心の揺れを描き込んだヒューマニティーの香り高いこの作品は、物語の核となる二人の少年時代の反芻シーンが現実と交錯して進むものの、決して念押しの状況説明ではなく、エモーショナルな心情をリアルに伝えることで、二人の男のお互いに対する意識の内面を掘り下げており、その結果、読者の感情移入度を高揚させるのだ。

このように、シチュエーションからモチーフ、人物配置におけるテンプレートに独特のプラスアルファがワンアイデアとして付与されており、豊富なマテリアルを変幻自在なコメディーセンスで、自家薬籠中のものとして消化し、独自性を堅持している点は、流石としか言いようがない。