「COM」に読み切りとして発表された『らくがき』(67年10月号)は、東京から田舎の駐在所に新たに赴任して来た警察官の息子が、村の悪童達から除け者にされた疎外感から、土塀に落書きをし、一人寂しさを紛らわしていると、いきなり落書きが壁から飛び出し、彼の只一人の友達として一緒に遊び、その寂しさを埋めてあげるという、苦味あるペーソスを軸に、ファンタジーと児童心理に息づく情動を的確に捉えた伝統童話的雄編だ。
生命を宿したタブローが、カンバスから抜け出し、人間と交わるという即物的な着想は、その後『おそ松くん』でも執筆されるが、『らくがき』に至っては、ナンセンス度は極めて薄く、子供達が排他的感情を乗り越え、親和的な関わりを深めてゆく様が、素朴な肌合いを呈して描かれており、ドラマティックな面白さを越えた詩的感動が読む者のハートにずしりと伝わってくる。
『らくがき』は、前年に当たる1966年、「週刊少年マガジン」(2号)に描かれた短編『らくガキ』をリライトしたもので、その後、時を経た75年、キャラクターデザインや基本設定を大幅に変更し、「読売新聞日曜版」(3月9日付~12月7日付、月1回連載)に『ラクガキ』のタイトルで三たび掲載される。
この新版『ラクガキ』は、『まんが・ろーどしょ~』と銘打たれた企画物で、石ノ森章太郎、ちばてつや、望月三起也といった現代漫画のトップスターらと月一で競作連載された。
毎回、民家のコンクリート塀に落書きされた少年が、夜になると、塀から抜け出して街中をさ迷い、様々な出来事に遭遇する涙あり笑いありの冒険譚を、独特のカラーリングと伸びやかな筆遣いで綴った遊び心満載の、シュールな位相に属する作品として完成を見た。
ヤンチャだけど、何処かシャイな性格であるラクガキが、ある日、神様の力で人間に姿を変え、彼を落書きした男の子と再会し、友達となる最終回は、形象化した童話作法上の骨組みに委ねた唐突な展開でありながらも、赤塚本来の作家性が読み取れる、語り口に思慮深い優しさを滲ませたコアなワンシーンだ。