文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

ファンタジックなイメージの交錯『タトル君』

2020-05-23 21:33:57 | 第3章

壺のような不思議なUFOで、地球へと不時着した謎の亀型ミュータントの、好奇心溢れるハッスルぶりに心が沸き立つ『タトル君』は、1977年に小学館より新創刊された「マンガくん」の巻末ページに毎号四色カラーというVIP待遇で掲載されながらも、連載回数全一〇回(77年1号~10号)と泡沫の如く終了した、数ある赤塚の連載漫画においても、傍流派の位置に片付けられるであろうレアシリーズだ。

タトルくんの壺型UFOは、実は彼の甲羅で、その中は、後楽園のように巨大な野球スタジアムもあれば、お菓子の国もあり、はたまた巨大恐竜が蠢く原始の世界もあるという、世にも不思議な世界が広がっていた。

タトルくんは、まるで遊園地のようなスリリングなアトラクションを孕んだ巨大な異次元空間を、友達となった地球の子供達に提供し、時には甘美なメルヘンに満ちた夢の世界へ、また時には悪夢のような戦慄のアドベンチャーへと誘うのであった。

ファンタジックなイメージの交錯が、絶えずして引き起こされつつも、タトルくんが地球にやってきた真の目的や登場理由などの詳細は、結局最後まで語られることなく、まさに前後不覚の状態で、意識の赴くまま慣性的に描かれた点からも、脱力ギャグの支流に分け入る不自然さが感じ取れる。

ドラマの展開が読者に欲求不満を残してのラストを迎えている遺憾な相からも、読者の歓迎を受けるまでには至らなかったであろうことが、安易に想像の付く『タトル君』であるが、そのSFマインドに貫かれた初期設定の奇抜さは、他のシュールで先鋭的な赤塚ワールドと比較しても、群を抜いており、子供達に粋な引き回しを展開するタトルくんの、向日性と(野次馬的な)興味性が共存する稀有な気質から転じたストレンジなドラマの数々には、理屈抜きにハラハラさせられること請け合いだ。

また、無限に広がる密室性という、不条理で逆説的な視覚的演出の鮮烈さも、作品世界を危うい魔力を有したデペイズマンへと引き上げ、緩さを纏いつつも、独自の超現実的な発想を極限までに深化させている点は、本作の旨味を引き立たせる隠し味と例えても差し支えないだろう。