第二次新漫画党(寺田、藤子、つのだ、園山)に、石ノ森とともに入党を果たしたこの年の8月、赤塚は、『嵐をこえて』に続く二冊目の単行本『湖上の閃光』(曙出版、56年8月25日発行)を脱稿する。
前作同様、少女向けの貸本漫画で、版元も同じく曙出版だ。
『嵐をこえて』同様、女学生を主人公とした少女漫画だが、そこにアクションもののテイストを加味した意欲的な一本で、全編にミステリアスなムードと幻想性が漂った、当時の貸本向け少女漫画とは一線を画する不思議な味わいを纏った長編作品である。
森へと繰り出した少女が連続して失踪するという奇妙な事件を知ったみどりは、強い好奇心に駆られ、友達とともに事件解決に乗り出すが、事 件現場となった深林では、林立する木の木の葉が全て散ったほか、火の玉のような物体が霧の中を覆うなど、不気味な現象が相次いで目撃されていた。
少女の連続失踪事件とこれらの不気味な目撃情報との関連性を見出だしたみどり達は、更に独自の調査を進めてゆくが、その失踪事件には、彼女達が予想だにしない、恐るべき真相が隠されていた。
そして、その想像を絶するクライシスは、今まさにみどり達の行く手にも迫ろうとしていた……。
静寂に包まれた森と湖、舞台となる霧に閉ざされた謎の西洋風の古城等の風景描写には、ゾクゾクさせられるほどの妖しさと美しさがあり、景色の中でキャラクターを丸ごと捉えようとする斬新な演出がキラリと光っている。
また、構図のキメが前作以上に尖鋭となり、コマの移動とともに揺らぎ立つ耽美なイマージュが、作品世界に神秘的光彩を纏った広がりある空間を宿している点も特筆すべきだろう。
物語のクライマックスでは、湖畔にそびえ立つ古城が、実はロケットで、朝靄の中、轟音とともに宇宙に飛び立つというSF的な表現様式を垂直軸に捉えた壮大なスペクタルシーンが堪能出来るが、版元の社長(土屋弘)には全く歓迎されなかったという。
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