
『酒仙人ダヨーン』が描かれた同じ頃、暫し休眠状態だった赤塚アニメの方も復活を遂げるなど、幸運が続く。
三作目の『ひみつのアッコちゃん』(東映動画)や『天才バカボン』の四作目に当たる『レレレの天才バカボン』(スタジオぴえろ)が、それぞれフジテレビ系、テレビ東京系で放映開始され、平成生まれの新世代にも、赤塚ワールドをアピールする好機が到来したのだ。
だが、1980年代後期~90年代初頭の赤塚アニメのリバイバルラッシュの時とは異なり、再び赤塚の手によるリメイク漫画が描かれることはなかった。
2000年、赤塚にとって久方ぶりとなるベストセラーが、二冊続けてリリースされる。
一つは、メディアファクトリーから刊行された『赤塚不二夫対談集 これでいいのだ。』、そしてもう一つは、『赤塚不二夫のさわる絵本 よ~いどん!』(小学館)という、視覚障害を持つ子供達を対象にしたバリアフリー絵本である。
『赤塚不二夫対談集 これでいいのだ。』は、生きている間に、赤塚らしい対談本を作って欲しいという眞知子夫人たっての希望で、実現した豪華対談集だ。
この時期、赤塚は食道癌の摘出手術により、声も出ないという最悪の健康状態にあったが、担当プロデューサーであった長薗安浩の積極果敢な働きもあり、タモリ、北野武(ビートたけし)、立川談志、荒木経惟といった旧知の間柄である人物や、ダウンタウンの松本人志や芥川賞作家の柳美里、山形弁を操る外国人タレント、ダニエル・カールといった異色のメンバーらがラブコールに応じ、99年の6月から8月に掛け、全七回の対談が執り行われる運びとなった。
弛緩とエッジが程好く効いた、七人の侍ならぬ七人の異才、奇才とのトークバトルは、当然、噛み合わない箇所も少なからずあるものの、その言葉の端々には、一般人の常識に固執した硬直思考を吹き飛ばす独自の美意識とダンディズムが溢れており、赤塚の底知れぬ人間力の一端を垣間見ることが出来る。
尚、同時期に『バカは死んでもバカなのだ 赤塚不二夫対談集』(01年)という、もう一冊の対談集が、毎日新聞社より刊行されている。
元旦、酒風呂で赤塚が溺死したという、些か冗談の過ぎた架空のシチュエーションによる、生前葬的な意味合いを込めた弔問対談で、「サンデー毎日」誌上(『赤塚不二夫の読む漫画 これでいいのか』00年1月16日号~01年7月30日)に連載された記事に加筆、訂正を加え、単行本化したものだ。
ゲストには、『月光仮面』の原作者で知られる作家の川内康範、野坂昭如、嵐山光三郎、タレントの所ジョージ、黒柳徹子、女優の秋野暢子、映画監督の若松孝二、森田芳光、手塚真、劇作家の唐十郎、考古学者の吉村作治、漫画家仲間の東海林さだお、藤子不二雄Ⓐほか、総勢二十七名による赤塚ゆかりの各界著名人が招かれ、こちらもまた、500ページ近いボリュームを誇るデラックスな対談集として編纂された。
各ゲストとの対談中、話の腰を折ってしまったり、酔い潰れて眠ってしまったりと、赤塚のトホホな現状をリアルに活写した、対談本としての体裁から幾分外れた構成が為されているが、赤塚と向き合うゲストらの対話の節々からは、然り気無い赤塚愛が感じられ、赤塚の人徳、人望がナチュラルに伝わってくるようで微笑ましい。
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