文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

回収騒動を巻き起こした衝撃の問題作『キャスター』

2021-12-22 00:00:42 | 第7章

『週刊スペシャル小僧!』の連載開始から遡ること三年前、そのプロトタイプとなった赤塚漫画が既に存在していたのを、読者諸兄はご存知だろうか……。

光文社発行の隔月刊誌「ポップコーン」に連載された『キャスター』(80年4月創刊号~81年2月号)という作品がそれで、こちらも『スペシャル小僧!』同様、梨元勝をカリカチュアした突撃レポーターと、それを補佐する美人アシスタント、異常なまでの性欲過多で、完全に職務放棄している番組ディレクターの三人が、様々な現場を生中継によりレポートする、疑似ルポルタージュ漫画とも言うべき意匠を湛えたシリーズだ。

当時、舞台演出、放送作家として活動していた喰始に、一部シナリオ協力を仰ぎ、執筆されたこのシリーズは、ポイゾナスなギャグが異常なテンションで炸裂する怪作中の怪作で、その過激な内容ゆえ、回収騒動を巻き起こした問題作としても知られている。

問題となったのは、創刊第2号となる80年6月号に掲載された第二話だ。

話題の人肉料理専門のレストラン〝ふともも〟に訪れたキャスターが、この店自慢のフルコースをレポートするという内容で、これらの料理がまた、上物の死体で作られた人肉刺しにヘソの緒ヌードル、脳ミソどんぶりに胎児ピザといった、グロテスクの概念を通り越した、トラウマ必至のメニューのオンパレードなのだ。

また、このエピソードのハイライトでは、赤ん坊の丸焼きや、心臓の踊り食いが、オーナーにより実演披露され、ラストでは何と、シェフがチェーンソーを振り回し、フックに掛けられた遺体を切り刻んでゆくという、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』(主演/マリリン・バーンズ)を彷彿させるスプラッターな展開を迎える。

このように、過剰に走り過ぎたスプラッターギャグと、酔狂下におけるおどろおどろしいカニバリズム描写が、各種団体より問題視され、前述の通り、後日、掲載誌が回収される運びとなった。

そのため、80年8月号では、『キャスター』のみ新作(第三話)が掲載されたものの、一部の連載漫画は、回収号に発表された作品がそのまま再録されるという、奇妙な事態を引き起こす結果となったのである。

こうしたトラブルも災いしてか、本誌「ポップコーン」は、翌年の2月号(第6号)をもって休刊。

版元である光文社は、81年5月から「ポップコーン」をリニューアルする形で、青年向け漫画誌「ジャストコミック」を新創刊し、再出発を図ることになる。

『キャスター』は、連載終了より四〇年余りの時を経た現在も、未だ封印されたままの状態だ。

掲載回数僅か六回と、赤塚作品の中でも、極めてマイナーな部類に入る傍流派ともいうべきタイトルだが、一部シナリオを発注し、新たな血を注入するなど、赤塚としても、並々ならぬアティテュードを示した一作であり、商業ベースに直結したコンテンツにはなり得なかったものの、ギャグの切れ味は滅法シャープで、いずれのエピソードも、読む者の心を突き刺す衝撃に満ちている。

赤塚漫画史に暗い影を落としたこの問題作が、いつかその封印が解かれ、単行本化という形で再び陽の目を見ることを、ファンとして気長に待ち続けたい。


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