文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

ナンセンス漫画の概念を突き抜けた異色のルポルタージュ漫画 『週刊スペシャル小僧!』

2021-12-22 00:00:02 | 第7章

こうした人物ニュース漫画は、成人向け作品のみならず、少年誌を発表媒体としたシリーズでも描かれるようになる。

1983年から「週刊少年チャンピオン」誌上で、およそ一年余り連載された『週刊スペシャル小僧!』(83年44号~84年53号)は、ナンセンス漫画の概念を突き抜け、ブラック・ルポルタージュ漫画ともいうべき新ジャンルを開示したエポックメイキングな一本だ。

このシリーズの主人公・スペシャル小僧(ナシトモくん)は、トップ屋の直撃取材をそのままテレビの世界に持ち込み、一躍芸能レポーターという存在を世に知らしめることになった梨元勝を模倣した謂わばトリックスターで、毎回、当時の社会情勢や話題の人物を滅多斬りするというスタンスは、『今週のダメな人』、『今週のアダムとイフ』の延長線上に位置するものだが、テーマの危険性、ハイスパートなギャグが全編に渡り埋め尽くされているといった点においては、少年誌掲載作品でありながらも、既述の二作品とも異質な、より斜に構えた毒々しさを放っている。

1981年、アメリカ・ロサンゼルス市内で、輸入雑貨販売業を営む三浦和義が、第三者と共謀し、妻を殺害し、多額の保険金を詐取したものと、「週刊文春」をはじめとする日本のマスメディアによって嫌疑を掛けられ、一大スキャンダルに発展した「ロス疑惑」、別称・「疑惑の銃弾事件」も、本シリーズでも繰り返し、モチーフとして選ばれている。

「三浦さんごっこをしよう」(84年16号)は、平凡な生活に飽き飽きした一家が、ある日突然、名字を三浦姓に変えたとたん、家庭に様々な悪弊が勃発し、新たなトワイライトゾーンが出現するという、ホラー風味漂うグロテスク系ナンセンスで、物語の最後には、夫が突然現れた愛人を生き埋めにしてしまうなど、皮肉を通り越した痛烈な諧謔が鳴り響く。

尚、本作品は、連載終了後の1985年に、日本文芸社の「ゴラクコミックス」レーベルより『赤塚不二夫の巨人軍笑撃レポート』と改題され、一冊の単行本に纏められるが、このタイトルからも分かるように、巨人軍ネタも多く扱われている。

V9達成以降、低迷の一途を辿っていた読売ジャイアンツの不甲斐なさに茶々を入れたぼやき節が、シリーズのおおよそを占めていることからもわかるように、赤塚自身、ジャイアンツに対する愛憎入り乱れた複雑な感情を、長年抱き続けていたに違いない。

尚、巨人軍をネタとして扱ったエピソードに関し、赤塚は『スペシャル小僧!』以外にも、前記の『ギャグゲリラ』や『ギャグ屋』等、多数のシリーズを舞台に執筆している。

読み切り短編においても、赤塚は、恐らく自身の苦悶をそのまま隠れジャイアンツファンの主人公の心情に投射させたとおぼしき『かくれジャイアンツ』(「週刊漫画ゴラク」80年8月18日増刊号)なる一読忘れ難い佳品も寄稿しており、膨大な数に昇る赤塚漫画の中でも、巨人軍の成績不振を批判、ディスリスペクトしたギャグは、数え上げれば切りがないのだ。

時折ネット等において、赤塚が熱烈な阪神タイガースファンであるかの如く、語られることがあるが、生前、漫画でもインタビューでも、そのような旨を赤塚自ら発したことは、筆者の知る限り、一度たりともなく、この言説もまた、風説、誤説の類いと見て、まず間違いないだろう。


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