伊澤屋

歴史・政治経済系同人誌サークル「伊澤屋」の広報ブログ。

ジオン第八連隊記  報告書9 『太陽の塔 (前編)』

2012年01月15日 19時30分00秒 | Weblog
機動戦士ガンダム0079  ジオン第八連隊記 復興(あす)への咆哮


報告書9 『太陽の塔(前編)』



「うぅぅぐおえぇぇ~~ぅ、ぅぶうえぇぇ~~っっ、おぉべっ、あぐわぁ~口ン中がモロ不味いわぁ~~」


俺は昨夜係長と呑んだ際にどうやら一歩間違えばジオン軍そのものが吹っ飛んじまいそうなトンデモなく重大なナニかを聞かされたようだ。絶対ド偉い事を聞かされたのは覚えている。
だがその肝心の内容が皆目思い出せない。


「シモムラ、随分と辛そうだな。原爆一度に5杯も呑むからだ。とことん学習しない奴だな」
「全く気持ち悪くなどないのであります!今すぐにでも無害区を離れ前線に配置されてもォ…」

「へっ、口だけは達者だな。 お前…昔士官学校と航空学生を受験したって言ってたよな」
「はい。でも私が受かる訳がありません。画に描いたような記念受験でしたけどね」

「なら…記念受験でなくてマジな話で、ノーマルスーツを着てやる仕事がある。するか?ウチと九連隊と四飛団は勿論キャリフォルニアベース整補連隊も加わる『一大国家的事業』だ」
「!絶対します。熱望します」

「お前ならそう即答すると思って中隊を留守にする間の交代の要員とかももう確保しておいた♪」


いざ志願して、やる当日になると軍服は不可で平服で行け。軍隊手帳は勿論様々な店舗の会員証類だの本人が確認できるような奴は持つな。とその時になって様々な追加注文が付いた。
「集合地点」に着けば、官用車のバスでなく…ってゆーかバスですらなく幌付きのトラックの荷台に隠れるように乗車し「要員」は若年の下士官兵は殆どおらず軒並み年配の将校か准尉曹長級の上級下士官ばかり。兵長以下は俺の他2人位しかいなかった。


「クソ。俺がくたばったら娘の学費が…まぁ、軍人になった時からこーいうのは覚悟してたがよォ」


それだけ高度な技術を要する任務に俺が? 胸が躍った。


「便所休憩の後車内でノーマルスーツに着替えろ。着替えの際は狭くても車外には出るな」


途中のSAで降りて標識を見るとワ・カヤマ県と。ラテンなノリの(←偏見っぽいが)遅刻坊主の巣窟のコーヤコーヤ山のある県だな。旧世紀から長期不況と人口減少でヘロヘロになっていた土地だがここで重要な任務とはなあ。遣り甲斐が有りそうだ。


「早く着ろォ!着方分かる奴は分からん奴に教えたれー」


慌しい。 その後更に2、30分ほど荷台で揺られて曇ったビニールの覗き窓から外に目をやると、 ああ…こういう事か。騙された。一杯喰わされた。階級と権限傘に着たクソジジイに捨て駒にされた。 もう恨みを晴らす手段も機会も無いかもな。

遥か遠くに、荘厳な古代神殿を思わせる原発の原子炉建屋とクーリングタワーが立ち並ぶ景色が見えた。 へへヘ…あのクソジジイ、やってくれるぜ。確かにノーマルスーツ着用でないと絶対できない仕事だ。
原発の敷地内に入るとちょっと場違いな、航空軍の赤い大型化学消防車が停まっている。


「核汚染の懸念で、元いたカ・ンサイ基地に戻れなくなったんだ」


小隊長の中尉が表情一つ変えず説明してくれる。


「降車、降車ァ! おいこら!お前ら兵隊は原子炉組じゃない降りるな。ヨコタ軍曹の指揮下に入って別の任務だ。な~に真面目な話本当に安全な場所だ。信用しろ。これが命令書だ。現場に着くまでこの命令書は開くなよ」
「追加ァ!原子炉組以外も作業中にヘルメットのバイザーは絶対開くな!」

俺たち10、20代の兵隊たちの配置は原子炉他主要部から遠く3、4kmか離れた発電所正門での報道(勿論完全に無許可取材だ)や地元一般人の(勇敢過ぎるぜ!→)野次馬への対応だった。


「確かにノーマルスーツ着用で完全装備でないとできない仕事ですね…ってゆーかこれノーマルスーツじゃなくて外見同じですけどフライトスーツですし!放射線防護能力ありませんよ!」
「シモムラ、ぼやくなよ。 と言うより線量計見てもココは平常値だぜ。判るだろ?」

「…『壊れてる線量計』ってオチじゃなくて計測器検定も通った信用できる奴ですからね」
「そういう事。ウチ等は命令書通りにやればいいさね」


別にプロパガンダ抜きで、この時要員に渡されていたのは「計測器検定」も合格し検定印も押されたちゃんと正常に作動する線量計だった。兵隊たちに対しこういった部分ではジオンは連邦より遥かに「面倒見が良かった」と言って嘘は無い。


「何故取材できないんですか!公国と暫定州との信頼関係を考えても、人々の知る権利…」
「この場所での放射能の値が許容限度を越えており特殊な装備も無く立ち入って取材する事が不可能だからです。この線量計の計測値をご覧になって下さい」

「……えっ?これって? おぁああっ、うわっ!ふんぎゃああぁぁ~~~!」
「逃げろーーっ!まじやべーー!!」


さっきまでジオン地上軍にスカウトしたくなるくらい勇敢だった報道陣、撮影クルーたちは顔面蒼白になり次の瞬間血相を変えて蜘蛛の子を散らすように一斉に帰ってしまった。


「おい、マジでここの放射線量ヤバいのか?」
「まさか!この線量計デモ機能で好きな数値出せるんですよ。命令書にも報道対応でこうしろって書いてありました」

「命令書って…よく隅々まで読んでるもんだ。シモムラ、お前って似非坊主になって御人好しのヤープト人どもに詐欺やりまくったらきっと儲かるぜ。『嘘も放便』だな」
「だからァ!似非坊主じゃなくてリアル坊主です」



だいたい同時刻。 キョ・ウト郊外のどこか。公式にはそれほど機密性も高くない戦略上重要でもないとされている補給処の整備場。


「砲身を黄色く塗って『災害派遣』のプレートを車体前後に付けて…か」
「安全通行の保障だよ♪」

「敗戦を実感するね」
「まだ敗けてねぇよ」

「しかし…放射線防護とか密閉性っていうの考えたらマゼラアタックに排土板付けるんじゃなくて捕獲品の61式の方が良かったんじゃあないかなあ」
「でもこいつだってキャノピーは鉛入りガラスの特注品だしその外側に中性子防護板も追加した頼れる奴だぜ」

「それより整備長。漢字で『災害派遣』って字がもし間違っていたら恥ずかしいぜ。その手のスカは連邦の笑い者にされると上層部からの評価がヤバい」
「大丈~夫。旧世紀の原発事故で出動した戦車の報道写真でもこの字と同じだったし中世語に詳しいネイティブの国語学者の最終確認も受けた」



以上は、現地で排土板装備のマゼラアタックを操縦して瓦礫と残骸の撤去任務に従事した機甲科の大尉から任務の全日程を終了した後の打ち上げで雑談がてらに聞いたやり取りだ。
関係者総員の所見として、マゼラアタックよりも捕獲品のロクイチがあったらそっちにしたかったという事だった。

しかし…俺はいわば「安全地帯」でノーマルスーツ(実際には、外見は同じだが放射線防護能力の無いフライトスーツ。地上配備のドップやワッパの乗員とかが着用する奴だな)で「コスプレ」して歩哨をしていただけなので任務終了後に軍病院の全身放射線計即ちホールボディーカウンターで数値を計っても全く異常は無く行く前と変わらない事が確認できた。
報道向けの信用性を高めるために軍とは関連性の無い都立や民間の病院の検査も受けた位だ。むしろこっちの方が俺的に面倒臭くてしかも辛気臭くてよっぽど病気になりそうだった。

一番最前線で任務に当たった原子炉組連の結果については不明だ。

俺は前にも言った通り地上軍に異動する前は宇宙攻撃軍の軽巡「イオージマ」乗務で所属は機関科。戦闘配置ではその恒常任務以外に適宜ダメコン要員という役どころだった。
自慢じゃないがズムシティの機関学校(その後暫くして航海学校と統合された)では学校長褒章を受章する位の模範兵だった。
その際座学で、艦船用機関か発電用かとか用途によって多少違いはあるが宇宙世紀の現在原子炉、反応炉(リアクター)はどんな旧式も含め皆「核融合炉」になっておりジオンの先端技術たる

「ミノフスキー・イヨネスコ型反応炉」

は別格として宇宙でも地球でもまだ融合炉になっていない、旧世紀時代の国宝か重要文化財?レベルな「核分裂炉」なんて運転コストはともかく制御不能の暴走や汚染の危険性もシャレになんねーから1台も残っていないと教官から教わった。

軍のあの警戒ぶりは?何より人的資源が貴重なジオンが現場の兵士の為、分裂炉でなくても念には念を入れていたのだと一義的には考える。

でもな、もしかして地球連邦として 「劣等種のヤープには、旧世紀の分裂炉で十分だ」 という判断でヤープトに危険極まりないバクダンを押し付けてたってセンもあるとしたら凄い気分悪いな。

まぁ、放射能で健康被害が表面化するって、自覚症状が出るまで俺が戦死せずに生きていられるって保証も無いんだが。

後で知ったことだが、俺が行ったワ・カヤマ第一原発を中世ヤープト語の略称で呼んだ 「ワカイチ」 とは同じ読み方で 「若い血」にも通じるのだという。いつの時代でも神仏は若者の命が大好物なようだ。


                                   報告書9 『太陽の塔 (前編)』 完



次回予告

知るのと、知らないのとどっちが幸せかって野暮なコト聞くねえ。 「人間、一生知らない方が幸せな事もある」ってそいつは当事者じゃないから「後世の歴史家」目線で酒のグラスを傾けながらカッコつけてキザに言えるってだけのハナシだ。 
知っても知らなくても結果どちらにしろ不幸だった。
美しい悲しみなんて、ねーよ。美しい悲しみよりも分からず屋の上司と阿呆なコウハイに挟まれてハンバーガーの具にされて毎日下らねードタバタ喜劇してた方がちっとも美しくねーけど実際よっぽど幸せだっての。


次回 『太陽の塔 (後編)』

不良債権処理、完了。 したと俺は伝える。見て確認するか? 



注)フライトスーツ
CWU-2/Gフライトスーツ。 ジオン公国軍で一年戦争の地球降下作戦に合わせ制式化。生産ラインが共通のM-73ノーマルスーツと外見が酷似している為、通称として「地上用ノーマルスーツ」とも呼ばれる。


                                       (C) 伊澤屋/伊澤 忍  2671   
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