独裁少女サヨ子ちゃん
議案6 『厄介な部下』
「加戸尾!! これは一体どういう事なのッ!? 暴走族と舊車會1団体ずつ、それに白賊と緑賊まで今四半期を最後に助成金打ち切り? 誰がこんな指示を出したというの!?」
「? 市長の出された指示通りに各案件処理する様に関係各部署には伝えておきましたが。 ♪ ボンネットに旭日旗を塗装したヘイト行為と色賊の二つはそれぞれ欧米系、イスラム教徒以外は加入を許さない多様性尊重義務違反とレイシズムに関する国際基準抵触の為です」
いつもの事、だが。 今回もだった。
加戸尾は命令を聞かない。
正確には、誰よりも私の命令を忠実に守る形を取りそれでいて意図した事とは正反対の事を行い私の意志を実質全く実行に移さず出力する。
「だから………! その義務を負うのはあくまで日本人だけで移民に適用するのは逆に差別行為に当たるの! ちゃんと制度の趣旨を理解しないままで処理しないで! もうッ! 解った?」
「ん~~っと、 それなんですが走り屋さん達は殆ど日本人でして色賊については幹部級のうち斬り込み班長や集会係長に移民二世でもう既に日本人になっているのも…」
「もういいッ! もういいッッ!! 当該全団体みんな助成打ち切りは不可! 支給継続で決定!!」
「御意」
結局、走り屋関係は旭日旗や日章旗や菊花紋章よりも星条旗やユニオンジャックのような欧米風の意匠の塗装を推奨し色賊には主流以外の人種民族や信仰(※流石に緑賊に別宗教でも多神教徒は押し付けられなかった為同じ 『啓典の民』 たるキリスト教徒やユダヤ教徒を名義のみでも少数加入させるので納得させた)のメンバーも加わらせる事を新たに決めた。
とにかく面倒極まりなかった。
一事が万事この調子だ。 加戸尾が全く以って私が求めているのと正反対の決定を各部に伝えてその度に私がそれをオーバーライドする形で 「それは全然間違い! 本当の命令はこっち!」 と改めて伝え直す案件が何と多い事か。 でも私はこの男が居るのを必要とした。
何せこの男、加戸尾が幾ら命令を聞かない奴でもこいつが私の命令を一割か二割だけでも聞けば市政は確実に回るのだ。 その意味で私の政治生命には欠かせない存在なのだ。
しかしこいつは私にとって一体何なのだ? 友人? 違う。 積極的に楽しみ、安らぎをもたらしてくれる奴じゃない。 主従? それも違う。 前述の通り、コイツは私の命令を全然聞かない。 家族ぐるみのお付き合い? 完全にハズレではないがどこか違う。 私の両親や祖母ですら理想的な 「ご学友」 としてのコイツには価値を感じていたようだがどうも違う。
恋人?彼氏? 完全に違う。 私はコイツに恋心など0.1ピコキュリーだって抱いてはいない。
「市長、コーヒーどうぞ。 はい」
「…加戸尾君は、ずっと変わらないね。 いつも缶コーヒーは私が赤缶で加戸尾君が青缶なの。 中学の頃くらいからかな」
「でしたかね…。 4年前だったでしょうか」
「それだと高校の頃よ。 中学だと6年前じゃん。 私達って歳と学年計算し辛くて面倒ね」
「違いない。 逆に市長以外の学校の友達の歳や学年がもう全然分からなくなりましたよ」
私と加戸尾は令和3年に市立さくら小を四修、つまりは10歳で卒業し同さくら中に入学。 1年で卒業し令和4年に11歳で都立市ヶ谷高に入学、同校を2年で卒業し東大入学は令和6年、13歳の時で2年後の令和8年に15歳で卒業…ってもうこの時点で計算できなくなりかけてきた。 …まあ、標準年齢より7年早く就職の年に達したと計算すれば良いのだ。 同い年で標準学年の級友たちは今年高2だ。 一説には国は人口減少時代の労働力確保より特権階層を作りたかったようだ。
以下、市職員たちの生の声だ。
「見ろよ。加戸尾副市長だ。 全く、17歳であの行政手腕は凄いよな。理辺市長にはあの人しか仕えられない」
「三鷹市でも15歳大卒は過去に市長と副市長のあの二人しかいない。 神様仏様もよくもまあ、あの二人を同じ地元に引き合わせたものだ」
「副市長、お蔭で助かりましたよ」
「…? いえ、自分は特別な事は何もしてはいませんよ。 ♪」
「特別な事はしていないって… 議会対策でも反社のアレにしても副市長がいなかったら私たち市職員は今頃確実に何十人か死んでいます。 本当にみんな感謝しています」
「市長はともかく自分についてはそれは、過大評価ですよ」
「私たち職員は… 市長と副市長をずっと誤解していました。 勉強だけはできる金髪の小娘、赤毛の小僧だなんて思っていましたがそれこそが思い上がりでした」
ふう… 会話をちょっと傍受しただけでも私はともかく加戸尾はとにかく断然人から好かれる、信頼される才能がある。 まあ当然だな。
議案6 『厄介な部下』 完
次回予告
つまらない記憶に限って本当によく覚えている。 私も16歳で、この歳でこうも老いたのか。 小さい頃の大切な思い出…って恩着せがましくて偽善でくだらない。 最低。
大いに役立つ記憶ですらすっ、と忘れる事もあるのに何故くだらない記憶がこびり付いたヨゴレみたいに頑固に残るの!? いまいましい!!
次回 議案7 『八年前』
思い出に、価値は無い。
From now I want to leave it to Judgement of future historians.
真実を直視せよ。
©小林 拓己/伊澤 忍 2679