私の師匠の一人である、早川和男先生(神戸大学名誉教授)が新刊を上梓なされた。
先生が生涯をかけて説いてこられた、「住居は基本的人権」という思想があますところなく詰め込まれている。一人の建築学者が、人生の多くを費やし、積み重ねてきた仕事の厚みと重みを感じさせてくれる一冊だ。
年越し派遣村でも明らかになったように、我が国では、住居というものに対して、それが公の性格を持つとはあまり考えられてこなかった。家の賃貸や取得は、すべて個人まかせであったため、ひとたび社会が激流にもまれはじめると、そのしわ寄せは全て弱い立場のものたちに集中することとなった。
住宅ローンを組んでマンションや家を買った人は、返済にこまると直ちに住むところを失い、それは賃貸に住む人々も同じであった。
家を借りたり買ったりするコストがべらぼうに高いため、一度、あるところに居を構えると、その家や土地があわず引っ越したいと思っても、容易にはできない。町並みは不揃いになるばかりであったし、個の領域にこだわるあまり、公と私の間にある領域も減るばかり。
「こういう持ち家政策が続くと危ないぞ!」
著者は、
そう叫び続けてきたが、その重要性に気づくものは少なかった。
そして、あの年越し派遣村の衝撃的映像がお茶の間に流れた。
雨露をしのぐ部屋に住みたいと願う人々の切実さを、逆手にとるようにして展開されたビジネス構造に組み込まれた人たちは、経済危機は生じた瞬間、屋根の外に放り出された。
「いつか必ず起こるぞ!」
もう数十年も前から、著者が警鐘を鳴らしてきたことが、本当に目の前で起こってしまった。
住むとは何か?
住宅政策とはどういう視点から行われなければならないのか?
あるいは、なぜ、我が国の国民は、諸外国から「うさぎ小屋」と揶揄されるような家に住むしかない、住宅貧乏な状態が続いているのか?
なぜ、ネットカフェ難民が生まれるのか?
なぜ、ホームレスを見ても、そうたいして驚かない社会が形成されているのか?
こうしたことを知りたい方には、ぜひ、手にとって頂きたい書である。
きっと、「住まう」ということに対する考え方が180度変わることだろう。
『早川式「居住学」の方法―五〇年の思索と実践』
↑↑オススメです。
【書評】 水月昭道(『
高学歴ワーキングプア』著者)