他よりも過ぎた文明や突出した科学力を望んでいなくても有している事がまるで“悪”であるかのように、そんなくだらない理由で結託した身勝手すぎる国々の暴挙により、後のチャンシャン王妃…二形(両性具有)の主人公イリ・イン・ラーチョオは祖国である天空帝国を失いました。鎖国する事情があるのだろうと思い遣らずに、傲慢な態度だと一方的に憤懣を溜め続けた末に、同盟を結んで滅ぼさないと矛先が自分たちに向くからという保身の為に、チャンシャン王国、そしてセルゲ・ロッサは、チーイン王朝最後の皇太子ラカ・チーイン・チーインが狂っているとも知らずに彼の虚像を真に受け、隷属したという自覚もなく、そうなっていました。
そして、チーイン王朝は真・天空帝国を名乗り天空帝国を滅ぼし、血族の片割れであるラーチョオ王朝を皆殺しにしました。300人以上いる皇族の末席に過ぎない、一般市民(コモン)と変わらぬ生活を過ごしていた“ラーチョオの名を冠する”イリは、13歳の時、愛する科学者の両親を処刑され、〈太(タ)大陸〉の北東側の〈嵐の海〉にある天空帝国だった島に残された民たちは皆殺しにされ、両親を失ったイリは、チーイン王朝の手先である自由同盟の先の盟主フィアルドの己の欲望を兼ねた人身売買で、他の皇族や天人の血を引く市井の民と共に奴隷として売られた事で皮肉にも生き残ったのです。
ラーチョオ王朝が光油を独占していると難癖をつけて国土は壊滅、皇族から市井の民に至るまで人身売買で奴隷として売り飛ばされたイリを含めた一部を除き殲滅…皆殺しにする、という虐殺を行ったチーイン王朝に加担したチャンシャン王国やセルゲ・ロッサは現実には同盟を結んだことで植民地化を受け入れるのを自ら承知した、という事に13年も経った今更になって気付くなんて、遅すぎるぞタワケどもが イリの愛する男がチャンシャンを愛する国王ヤンアーチェでなければ、チャンシャンが滅んだところで、私の心は少しも痛まない
自業自得だからです
共和制の恩恵に浴した飾り物の分際で、チーイン王朝に身売りし公王家による〈海下(カイカ)大陸〉の独裁を実現させたセルゲ公国なんか滅んだ方が良かった。イリにとってのエルネスト・ヤーゴ・レイダー公に比べればセルゲ公王に生きる資格はありません
ましてや、バルトの手駒になり得る存在となるディトリスがいたせいで、イリはフィアルド親父同様にロクデナシのバルトに捨てられたのだから
天空帝国の人々が皇族から市井の民に至るまで、そして後にセルゲ公王家を唆し攻め滅ぼしたイリの第2の祖国《ロッサ共和国》の人々も、その全てをラカの人体実験のモルモットに提供していたフィアルドの悪行を…自分とは逆にラカの手先だったと知りながらも諌める事を怠っていた愚かなバルトは、その父と同類ゆえに“凌辱処理の人形”と看做していた己を自覚しただけマシなロクデナシでした。イリの心に生きる意欲を…愛の炎を燃やして欲しい、と本気で願ったのでしょうが、自分に対する想いが上辺だけのものだとイリの無意識が…その本能が悟っていたからこそ何の変容もなかった。生半可な想いなど無能なのだと遂に悟れなかったバルトに世界を救えるはずがない…背負える筈がないのです その行動が示すようにバルトの世界に対する感情も“広く浅く”なのですから
望まぬ情交も含まれるけれど、長きに渡る男遍歴の中でデイトリット・ファーハンネイト・ドワウス・セルゲ(享年22歳)は“優しい想い出”となってイリの心の中にいられるだけ、至福と思って貰わないとイリが可哀想です。何故なら、第3巻『紅蓮の稲妻』の「1 国葬」での初対面で、「そうかこんなところに……この者はロッサの貴族、エルネスト・ヤーゴ・レイダーの愛人のイリに違いありません。卑怯にもレイダーは戦前に配下の者に財を分け与えて逃がし、みずからは歴史的価値のある〈千本針の城〉を焼いて自害した大罪人です。この者はレイダーと共に死んだとされておりましたが、よもや異国の情けにすがって生き長らえていたとは……この者を引き渡していただけるのですね?そのために殿下はこちらで待てとおっしゃられたんですね」(P.40~42)などと、あろうとかレイダー公を大罪人と罵倒しイリをセルゲの父王に重く処罰して貰おうと思っていたのですから。しかし、官能の妖精イリに溺れ虜になりました。無理もありませんね 亡きレイダー公が《理想の愛妾》とすべく調教し、文化文明の誉れ高きロッサ共和国の最高の教育を施し、夜のレッスンも欠かさずにイリを磨き上げたのですから
第7巻『螺旋運命』の「2 デナルドン・ファミリー」で「イリ、なぜ自分があの男に狙われているのか、心当たりはないのか?」「やはりお前もアイツは俺を狙っていると思うんだな、バルト」唇を結び、イリは青ざめた頬を伏せる。愚鈍なふりができても、気づかないふりをしてみても、現実は変わらない。“アイツ”と最初に会ったときから不安を感じていた。それは無垢だった自分に性技を仕込んだレイダー公に感じた畏怖ともまた、まるで異なる感覚だった。なにか嫌な予感、うすら寒い恐怖を感じる。あの美貌の裏側にある目に見えないなにかが、形をなさない恐怖を発しているのは間違いない。”(P.82~83)とあるように、チャンシャンは後進国の野蛮人と陰口をたたかれて屈辱を感じているようですが、本当の事を言われているだけの、近代国家からは程遠い蛮族に違いありませんね。国政改革の道具として、散々、利用した挙げ句に切り捨てたホークァンでさえ、まだ自由同盟を介して入手したチーイン王朝の皇女だという偽情報にあるワラウル・ドーテ・チーインが諜報・暗殺を司る〈影〉である事も、その〈影〉の存在自体を知らなかったド阿呆ですから。
流石は後宮に召し抱えても権勢欲とは無縁の女だとヤンアーチェが太鼓判を押しただけの事はあるヨンジャです イリ&ヤンアーチェの絆の深さをよく理解していますね、『螺旋運命』の「4 青春の終わり」で“ヤンアーチェはヤカテー神のうつし身なのだ。イリをなくせばヤカテー神は狂うだろう。それはチャンシャンの崩壊を意味している”(P.143)とイリの存在の重要性をリンゴやビエニィの次に准ずるとはいえイリ&ヤンアーチェの理解者ですね
血族婚を繰り返し“先祖返り”ゆえに天人の末裔の特徴である、光の加減で青銀の輝きを帯びるブルー・ブラックの髪と銀の漣のような銀灰の煌めきを宿す黒真珠の瞳、男でもなく女でもなく、そのどちらでもある完全な二形の肉体を有する《GENE[ゲーン]》シリーズの主人公イリ・イン・ラーチョオは、科学者でもある金髪碧眼の父母の許にラーチョオ王朝の末席として生を受けました。
イリが13歳の時、ラーチョオ王朝が2千年前に袂を分かったチーイン王朝とその三下に成り下がった三国同盟の他2国(チャンシャン王国、セルゲ・ロッサ共和国)に侵略&殲滅され、太大陸の近くの《嵐の海》にあった天空帝国の焼き払われ、辛うじて助ったと思ったのもつかの間で民も1人残らず皆殺しにされた後の島は真・天空帝国を名乗るチーイン王朝により植民地化されました。
知的資源となる事を拒んだ両親を〈旧・三国同盟〉によって処刑されたイリは〈旧・三国同盟〉の締結に暗躍した自由同盟の人身売買でエルネスト・ヤーゴ・レイダー公爵に性奴として身請けされました。レイダー公の居城〈千本針の城〉に迎えられ、〈理想の愛妾〉として育て上げるべく〈王蘭の間〉を与えられ調教されました。そして、公の理想どおりに…いえ、それ以上に素晴らしい存在となり、誰よりも深く公の寵愛を受け、〈第1位の愛妾〉として君臨しました。
ところが、その3年後に《真・天空帝国》に唆された“無駄にプライドの高い”セルゲ公王家に戦争を仕掛けられ、敬愛する養父レイダー公を失った16歳のイリは、流れついたチャンシャン王国の後宮で先の国王ユンヤミンの寵妃として…ユンヤミンの死後はタオホンに囲われながらも己の“女性器”を無用な肉体的欠陥だと思い、己に“それ”がある事にさえ嫌悪を抱き恥辱の象徴として忌み嫌っていました。山藍紫姫子先生の(株)宙(おおぞら)出版『イリス‐ 虹の麗人‐』の「Ⅱ」で“イリスは自分のなかの女を嫌悪してきたのだ。それを晒してみせるというのはどうにも耐えられないことなのだ。意識のうえでは、男として生きてきたのだから。男として、必死にやってきたというのに……。”と、己の肉体の“女”を嫌悪していた両性具有の主人公イリス・ネルロードのように。
但し、《GENE[ゲーン]》シリーズの二形(両性具有)の2人には生殖能力がなくヤンアーチェとの愛により卵巣から卵子が発生したイリは後にヤンアーチェの正妃となり王子を出産して次の世代を残す事が出来ましたが、既に狂っていたラカは“愛”を知る事は無く生殖能力を得る事はありませんでしたが、それを除いても決定的に異なる点は、山藍先生の描く両性具有とは、子宮のない不完全なタイプ(チバガイギー社の資料を参考 by 山藍先生)で、生殖能力の有無以前の問題です。
真・天空帝国が滅び、ロナン連邦が樹立され、チャンシャン王国・ロナン連邦・セルゲ公国の新三国同盟の調印式が行われた後にイリの許を訪れたヤンアーチェは不機嫌の塊でした。チャンシャンにいれば金髪銀髪赤毛のトリオ(金髪=ミハイル、銀髪=サーシャ、赤毛=リンゴ)に“何故、イリを連れ返らないのか ”と責められ、ビエニィには泣きつかれ
、と散々なのに、肝心のイリは調印が済むまではと沈黙を守ったままなのですから当然ですね。しかし、この完結巻でのバルトとホークァンの関係は逆転していました。バルトは世界の命運を背負っているヤンアーチェが“たった1人の人間の為に動くなど”とイリを切り捨て、ホークァンが“言うな!”とヤンアーチェを行かせた狂気の沙汰(今迄のホークァンの悪行のせいで正気の言葉とは信じがたい)でバルトを沈黙させたのは珍しいシーンでした。しかも、ミハイルまでもがイリを見捨てる言葉を、口走っていますが、これは明らかに五百香ノエルの明白なミスですね。
五百香ノエルはチャンシャン軍を全軍投入して真・天空帝国を倒せたとしても、“イリを盾にされた時、祖国をイリ一人の為に犠牲にするなんてバカげている!”と兵士たちがそう考えるに違いないから、真・天空帝国諸共にイリを滅ぼすだろう、とミハイルに言わせたかったのでしょうが、“世界がイリ一人の為に犠牲になる必要はないんだ”という言葉ではミハイルが“世界”如きの為にイリを犠牲にしても構わない、と見捨てる言葉を吐いたかのような、誤った印象を読者に与えてしまいます。真のミハイルは“死んでもイリを見捨てる言動とは無縁”の、見返りをイリの想いよりも優先させてしまうサーシャとは異なり、無限に“無償の愛”をイリに捧げる男ですから。
ところで、ホークァンに血迷って感心してしまったのもつかの間、“昔から、一国が突出した軍事力や資源を占有してはいけないという事さ”という愚かな持論を振り翳したのは相変わらずなので、呆れました。その愚考ゆえに“富を占有した”という言いがかりでしかない、理由にならない理由で、イリと同様に人身売買で離散した人々を除くラーチョオ王朝とその民を皆殺しにして国土を焼き捨てる、という許されざる大罪を犯したのですから。
本来ならば、チーイン王朝最後の皇太子ラカ・チーイン・チーインに尻尾を振っていた手先のフィアルドは勿論、フィアルドに騙されていた自由同盟の面々、他の“右ならえ右”をやらかしたチャンシャン王国、セルゲ・ロッサ共和国も皆殺しの報復を受けたって文句を言えません 投票によりロナン連邦の大統領に就任したジャコー・セリオンもその1人です
何故かと言うと真・天空帝国としてのチーイン王朝の罪はセリオンが最初の仕事として謝罪すべきなのに、彼らに滅ぼされた真に“天人の罪”を自覚するラーチョオ王朝の生き残りであるイリにチーイン王朝の罪
を謝罪させ、幽閉したからです。
画像は、宙(おおぞら)出版より復活した山藍先生の両性具有3部作(1つだけ性転換手術による人為的な両性具有あり)の1つである『イリス‐虹の麗人‐』です。但し、主人公のイリスは両親や兄姉に拒絶され、トラウマを抱えていたとはいえ、慢性ヒステリー&被害妄想の塊です
この、後年の主人公イリが回想し読者に語りかけるように各巻の本編の前後をサンドウィッチにしている《GENE[ゲーン]》シリーズは、私の知る限り珍しい形の小説ですね。
チャンシャン王国は後進国ゆえに劣等感を募らせ…分裂する前のセルゲ・ロッサ共和国(ロッサ共和国+セルゲ公国)は“無駄に高いプライド”ゆえに、後に真・天空帝国と名乗る、もう1つの天空帝国に君臨するチーイン王朝の…正確にはラカ・チーイン・チーインただ一人の命令による侵略に加担し、小さな島国の中でひっそりと終焉を迎えようとしたラーチョオ王朝の天空帝国を滅ぼし、王朝の末席に連なるイリはひとりぼっちになりました。
偉そうに自分たちを“必要悪”だと自惚れる人身売買の腐れ外道の集団である〈自由同盟〉に売られたイリを性奴として身請けし、〈理想の愛妾〉に育て上げるべく調教して夜伽の相手を命じ理想どおりに…いえ、それ以上に成長した〈第1位の愛妾〉イリを慈しんだ“お初の相手”にして養父エルネルト・ヤーゴ・レイダー公爵は、義母ゆえに報われぬ初恋の女性・藤壺の女院、その忘れえぬ面影の人に生き写しであり彼女の姪である紫の上を幼い頃に連れ去るように引き取り、〈理想の女性〉に育て上げ、妻とした光源氏のようですね。
そして、その死に様は叛乱により自ら城に火を放ち近習や妾妃達を道連れに命を絶ったサルダナパロス(サルダナパール)王を描いたアングルの名画《サルダナパロスの死》を思い起こさせます。しかし、サルダナパロス王の最期と異なるのはサルダナパロスは財宝や妾妃、馬etc…自分のモノは全て道連れにして、自分と共に燃やし尽くしたけれど、レイダー公はイリに黄金の騎士ミハイル&白銀の騎士サーシャを付けて、“死んではならない”と命じて落ち延びさせました。
自分ではヤンアーチェを憎んでいると思い込んでいたイリを愛するヤンアーチェと波乱万丈の果てに結ばれ、愛の結晶である子供を産み落とし、子を成す事も叶わぬ出来そこないの二形(ふたなり)と己を卑下していたイリを“幸福に包まれた光り輝く未来”へと導いたのは亡きレイダー公なのです しかし、憎しみを抱いたと思った“施し”を受けた時にフォーリン・ラヴ
という事は、イリは7歳のお子様に射落とされていたのですね
バルトは、生涯、イリの人生を見守り、その後見を続けるつもりでいた、などと自分で自分に言い訳をしているロクデナシです バルトは世界を救うのは俺だけだと自惚れた時に、“たかが一人の人間の運命など世界の命運の前には塵芥”だと、誰よりも許されぬ罪を犯したのです。
それにしても、五百香ノエルが書き忘れた、というか書ききれないと分かって書かずに逃げた…書き逃げの部分である、真・天空帝国の侵略に加担するようにユンヤミンを半ば脅迫した元凶の癖に“4年前、天空帝国ラーチョオ王朝が突然に征服され滅んだことは、いまでも気の毒に感じていますよ、イリ様”と天空帝国を侵略し残飯漁りをした宰相ラジャ・シン・ジュールの、初めて逢った時にイリにぶつけた暴言には呆れ果てました。
ラジャの補佐官でありイリを散々に利用した罪を償う気のない腐れ外道であるホークァンは、“受胎が可能でも自分達が滅ぼした“ラーチョオ王朝皇室の最後の生き残り”であるイリは“チャンシャンの罪の証”でもあり、先王ユンヤミンの腹上死やタオホン謀殺により存在を抹消した事も含め公にも王妃にも出来ないし、世継ぎの王子をイリが産んだとしても母子共に闇に葬り去るのがチャンシャンの為だ”と本気で考えていてラジャと共に実行したに違いなかったのに、どう改心したのでしょう サリア・ビキでさえも至尊の君(主君)ヤンアーチェの伴侶としては、認めがたく存在してはならない下賎の輩とイリを侮蔑し、チャンシャンが過去に犯したラーチョオ王朝殲滅の大罪を隠蔽する側に加担するのは明白だったのに、彼女の心に如何なる変化が生じて改心したのか
そこをきちんと書けなくてチョコチョコで完結させたのが、五百香ノエルの未熟と言えます。
画像は、ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングルの《サルダナパロス(サルダナパール)の死》です。寝台の上のサルダナパロス王は優雅で堂々としていて冷厳で、これから死にゆくようには思えませんね。そんな姿が威風堂々にして退廃的なレイダー公にピッタリ!





ところで、幾ら、“マーマ・エビータ”と呼ばれているからって、バルトやケダモノどもが“マーマ”と呼ぶのには呆れました。幾つになっても子供は子供と言っても、いい年をしたオッサンが




父の喪に服すべき息子達があろうことか、責任を問われる立場にあるとはいえチャンシャン王国の現国王ヤンアーチェの妾妃を凌辱した





この第7巻でのケダモノどもがイリを凌辱するシーンは不要なばかりか、話の流れの中に存在するには不自然です。何よりも、喪中ですよ




画像は、古代ギリシャの性風俗について描かれた、《EROTICA》です。
(株)徳間書店キャラ文庫、五百香ノエルの《GENE[ゲーン]》シリーズは、二千年前に袂を分かった同族のチーイン王朝に滅ぼされたラーチョオ王朝の末席であり、天人の血が色濃く顕現した“先祖返り”ゆえに老化の遅延で20代後半になっても10代にしか見えない二形(両性具有)の主人公イリ・イン・ラーチョオと、お子様ゆえに…愚父ユンヤミンの歪んだ純粋培養によりイリの身も心も傷つけ、愚行を繰り返したけれどイリに許され愛された6歳年下の“イリの運命の人”ヤンアーチェ・チャンシャンの愛の物語 です。
文字通り“心も体も裸”にして漸くイリ&ヤンアーチェが心も結ばれ、愛するイリがチーイン王朝に尻尾を振って〈旧・三国同盟〉をセルゲ・ロッサと共に結んで、チャンシャン王国が滅ぼした天空帝国の僅かな生存者の1人であり、ラーチョオ王朝皇室の最後の1人であるという衝撃の真実をヤンアーチェが知った第8巻『心の扉』から完結巻(第9巻)『天使はうまれる』でヤンアーチェ(20歳)と共にチャンシャンに還るまで26歳だったのにイリの回想を記した終章の手前の、完結巻と同じタイトルの“本編の最終章”「天使はうまれる」でいきなり1年後に飛び いつの間にか結婚
していて、27歳の正妃イリ・イン・チャンシャン(旧姓★ラーチョオ)が愛する夫王ヤンアーチェの息子を産み、次代のチャンシャン王となる世継ぎの君である王子を産んで“母”
となっていました。しかし、最後にチョコチョコっという表現だけで済ませて、五百香ノエルは妊娠や出産をなめているのでは
2005年11月12日の《三十路のBL読書日記》で、山藍紫姫子先生の作品の1つである『幾千の河もやがてひとつの海になる』が紹介されていますが、“恋愛で盛り上がり中の作家が恋愛小説を書けば、おそらくポジティブシンキングなハッピーエンドのお話になるでしょう。そして逆もまたしかり。壮絶なグロシーンと乱雑なストーリーにあぜんとした後で、あとがきを読んだら全てが腑に落ちました。これは今から16年前、作者が出産直後の精神混乱状態で書いた(書きなぐった?) お話だったのです。産後のホルモンバランスの乱れと、初めての育児による肉体と精神疲労による過剰ストレスを、極度に残虐で過激な小説を書くことにより発散していたようです。”
との事でした。
それ程に、妊娠・出産と育児は精神的にも肉体的にも過剰なストレスを齎すものなのに、あっさりし過ぎです。鎖国を徹底して完全に国交を断絶しただけで欠片も罪の無いラーチョオ王朝の皆殺し&天空帝国の殲滅というチャンシャン王国が犯した罪の贖罪も兼ね、末席とはいえラーチョオ王朝の唯一の生き残りである“イリ・イン・ラーチョオ殿下”との婚儀なのですから、盛大に執り行われた筈なのに省略しないで欲しい。妾妃を整理しただけではなくて、婚姻の儀とイリの正妃(正妻である王后陛下)としての戴冠式までも無いなんて、五百香ノエルの怠慢だ
ラカ・チーイン・チーインに唆されたセルゲ公王家に第2の祖国《ロッサ共和国》を攻め滅ぼされ養父エルネスト・ヤーゴ・レイダー公爵を失いチャンシャン王国に亡命したイリは、チャンシャンの先の国王ユンヤミン(享年39歳)を誑し込み、傀儡にしようと企んだホークァンにより正嫡の第1王子タオホン(享年22歳)にイリは密かに引き合わされ加虐的な情交を強要されました。年始の挨拶でホークァンに“異母妹”と騙されて紹介されたイリが“父王の愛妾”だと知りヤンアーチェが挫けた夜、ヤンアーチェとの年始での最悪な引き合わせにユンヤミンとの情交を無意識に避けようとしたイリに、まさか下の息子のヤンアーチェ(13歳)を憎み続けていると思い込んでいたイリ(19歳)が彼を愛しているからだとは想像だにしない中年オヤジは、まだ心の中にレイダー公がいるから気が進まないのだと嫉妬のあまりハッスルしすぎてイリとの情交中に腹上死、そして次の国王になる筈だったタオホンは13年前にラカの狂気に心を蝕まれ売国奴に転落してしまい、イリを巡り火花を散らしていたというのが本音ゆえに“妾腹の第2王子であり王位とは無縁”のヤンアーチェが謀殺しました。つまり、ヤンアーチェは一点の穢れも無い名君を装い、王位を簒奪したのです!
ラクチエ妾太后様、貴女は息子の養育に失敗しましたね 簒奪など言語道断と涙ながらにヤンアーチェと決別し、その3年後に幼いヤンアーチェが、チャンシャンを含めた旧三国同盟に祖国を滅ぼされ自由同盟に奴隷売買された13歳のイリに対して犯した罪をラクチエは知らされました。垂れ流しの同情が時には凶器となって人の心を傷つけるのだ!と。まだ7歳の子供だからと許される事ではありません。それでも、ヤンアーチェの罪を息子に代わって謝罪し救ってやって欲しい
とイリに懇願しました、母ゆえに。ヤンアーチェが己の罪を悟りイリを幸福にするまで、息子を許さなかったけれど。
しかし、ヤンアーチェの血族の男達と肉体関係にあったイリと進んで仲良くしたいと思わなかったのは、そうあらねば生きる道がない者の苛酷な運命を察せられずイリを捨て駒にしているホークァン・エイリーの戯言をラクチエが真に受けてしまったに他なりません! イリは微塵も悪くありません。何が…誰が悪いのか、を見誤り人を見る目を持てないラクチエの至らなさは、まさしく“この母にして、あの息子あり”です
ヤンアーチェを救えるのはイリだけだと救いを求めながら、その裏ではイリを快く思わない腹黒さを隠して謝罪すらしないとは。
それにしても、勝手にチャンシャンは傾いたのに“傾国の咎”でイリを廃園に幽閉するなんて、ヤンアーチェ(15歳)はとことん呆れたお坊ちゃまですね。朴念仁で無能の判を押し見限ったユンヤミンに…その死後は秘密裏に同衾させたタオホンにイリを囲わせ思い通りの傀儡にならないと知るやヤンアーチェに乗り換え、タオホン諸共にイリも用済みの道具だからと見捨て、むしろ邪魔なイリを抹殺すべく悪口を吹き込んで憎ませたヤンアーチェに死ぬ自由さえも奪われ、幸か不幸か生き永らえたイリを終身刑の幽閉に追い込んだホークァンは最低です
嘗て、ユンヤミンの後宮第1位の妾妃(しょうき)だった頃のイリが住んでいた宮居(ぐうきょ)〈しずく宮〉を気に入っていたので、タオホン謀殺の時の褒美として貰い受け自分だけは“我が世の春”を満喫していたホークァンが、“清童…つまり童貞君だった”
ヤンアーチェ(18歳)の筆下ろしをイリ(24歳)に持ちかけたのには呆れました。
愛人のアリー・ギソン(♂)を失ったとはいえ、イリを踏み躙り…そしてイリを守ってくれと頼んだバルトを裏切ったホークァンが、謝罪も罪の償いもしないまま、ヤンアーチェが落籍しイリの友人にもなったヨンジャを下賜されて妻に娶り幸福になるなんてそして、愛も友情も犠牲にイリを切り捨て踏み躙ったバルトに世界を救い、その命運を背負える力もなければ、それ以前に資格さえない
世界は、誰一人としてイリに対する仕打ちや犯した罪を償っていません
誰も彼もがイリに甘えて、贖罪を忘れている。
画像はレイトンの《ペルセポネの帰還》です。