《GENE[ゲーン]》シリーズの第7巻『螺旋運命』が如何に五百香ノエルのミスを示すものかこれ以上はないくらいに、それを証明していると言えるでしょう。それこそが、この「4 青春の終わり」で“バルトは口もとを押さえ、爆笑の衝動をこらえて声をひそめる。「イリ、俺は国王の質問に答えるつもりはいっさいないんだ。どうしてかというと、俺はヤンアーチェ国王とはなんの取引もしていない。親友だったホークァンの役職が奪われても、あの親父殿が喜ぶとは思えない。責任の取り方はさまざまだが、俺は信用のできる人間以外との取引はしないことにしている。なにより一番大切なのは、俺が相手を気に入るかどうかだ。俺が国王の人となりを知る術があるか?これまではホークァンがその橋渡しだった。ホークァンがいなくなったら、今度はお前が出てくるのか?だがお前と俺との関係は、国や組織とは無縁のはずだ。だからお前の口から、お前自身でなく、他人の聞きたがっている質問が出てくることが納得いかない」「…………」口調こそ穏やかだったが、バルトの言い分には、罵倒にも似た響きが込められていた。イリは苦痛を感じて唇を噛み、目を上げてじっと相手を見つめる。”(P.171~172)とイリを傷つけ罵倒し、ヤンアーチェの人となりを知ろうとしなかったくせに知る術がなかったと言い張り、彼を信用できないし取引するつもりはない、とイリの愛するヤンアーチェを侮辱することでイリをも侮辱し切り捨てた、恥知らずな最低のロクデナシなのに、バティの末弟が…バルト・デナルトン・バティが“こんなに勇敢で立派な男だぞ”と五百香ノエルは書いたつもりでいるのですから呆れるしかありませんね
呆れた事にバルトはイリに不義密通の濡れ衣を着せようとした のです。「5 新しい明日へ」で“イリはヤンアーチェの視線を感じて戸惑う。「お前から王様に説明してくれ」「いったいなんの話をしている」ヤンアーチェはムッとしてイリとバルトを交互に睨んだ。「俺の知らないところでお前たちが通じているのを、わざわざ教えようと言うのなら、よけいなお世話だ」”(P.203)と、それがイリを見守り続けてきた男の言う事か
おまけに、“「信じるために結んだ同盟じゃない」厳しい声音で、ヤンアーチェは告げた。「信じていないから結んだ同盟だ」「王様、だったら俺を信じてくれ」真摯な面持ちになったバルトは、身を乗り出して訴える。「親父殿が亡くなったために、帝国と同盟のパイプは途切れた。これがどういうことか、王様にもわかるだろう?帝国は世界と断絶したんだ。自分で世界との繋がりを切ったんだよ」「…………」ヤンアーチェは積み上げたクッションに半身を預け、うろんな眼差しになった。バルトの言っていることはよくわかる。だがそれは、本来こうした席でヤンアーチェが軽々しく応答できる問題ではない。(P.204~205)”とあるように、自分はヤンアーチェを欠片も信じていないくせに、ヤンアーチェには自分を信用しろ
なんて、最低です。信頼関係の鉄則とは“相手に信じて欲しければ、まず自分が信じなければいけない”という事です。それを、ロクデナシゆえにバルトは知らない
人身売買組織の頭だけに最低です
「序章」には“己の重責を負う力と意思とがバルトにはあるけれど、ヤンアーチェにはない”と断言し、ヤンアーチェを侮辱する言葉の数々が鏤められ、はらわたが煮えくり返る想いです。“私は彼を誇りに思う。彼が私のものでなく、そして二度とその手で愛されることがなくても、私は彼を愛するだろう。愛が私の中にあることを、若きチャンシャン国王は教えてくれた。だが私の中の愛をつねに探しつづけ、いつも行く先の炎をたやさずに灯しつづけてくれたのは、ほかのだれでもない、バルトであった。それは忘れがたい、私の青春の光。永遠に巡る螺旋の運命の中で出会った、ただ一人の存在だった。”とあるけれど、これではヤンアーチェは単なるチャンシャン王国の国王というだけの存在であり、イリが愛しているのはバルトだと言っているようなものです。この第7巻だけを読んだ人がいれば、きっとイリは愛するバルトに捨てられてしまったと誤解することでしょう。
これもまた呆れるしかない のですが「終章」で、“だが、その苦く哀しい季節の中で、バルト・デナルトン・バティという存在は確かに輝く宝石だった。大切な、愛しい宝石。私は彼を失った時、青春の終わりを感じた。だが彼かヤンアーチェか、選ばなければならない瞬間があったとするなら、それはもう、出逢いの瞬間に他ならなかったのだろうから、修正は出来ない。私が選んだのはヤンアーチェだった。そして青春は失われたのだ。”とあるけれど、ロクデナシのバルトとの最初から平行線の道を歩いてきた無意味な関係が終わってメデタシメデタシであり、イリの青春がいつ終わるのかはわからない、しかし、バルトとの関係がめでたく終わったこととは無縁です
綺麗さっぱり腐れ縁を永遠に断ち切って欲しいけれど、イリは愚かにもコイツを甘やかしてしまった
イリの生涯で唯一の罪と呼べるものがあるなら、人身売買組織〈自由同盟〉の頭の息子であり跡を継いで新たな頭となったバルトを許したことです。
天空帝国を滅ぼした真・天空帝国に…ラカに人体実験のモルモットとして島に残った生き残りの民草を差し出し、それ以前にラーチョオ王朝皇室と市井の民草をも含めた全国民を皆殺しにしたのは…イリのバックボーンとなり得るモノを13年前に失わせたのは〈旧・三国同盟〉を結ばせた自由同盟の先の盟主であり、ラカの手先であったバルトの父フィアルドでした。しかし、そのフィアルド以上の大罪を犯したのはバルトです。第1巻『天使は裂かれる』の「5 ロッサの崩壊」で“お前と俺の道が交わることはないだろう。あの日、三年前に俺がお前を救い出せなかったとき、俺の役目はすでに終わってしまった。俺は当たりクジを目の前にしながら、指をくわえて見送るしかなかっただらしない男だ。そんな男でもお前が欲しいと言うならくれてやってもいいが、閨(ねや)で腰を振るくらいしか能のない男でもいいか?”と言いながら、チャンシャンの獅子身中の虫でありバルトと同類のロクデナシでしかないホークァンが、王政改革の名の元にイリを捨て駒として悪用するだけだと知りながら、比喩ではなく本当に売り渡したのです。
それなのに、真・天空帝国と闘うのに必要な力になり得ないと自分を打算で切り捨てたバルトの罪を知りながら、このロクデナシを甘やかして許した事こそがイリの唯一の罪であり、それはヤンアーチェだけを愛しているイリにバルトを愛していると言わせ、バルトに都合よく利用され捨てられるキャラに貶めた五百香ノエルの罪でもあるのです