小学生の頃に交通事故で両親を失い、自身を引き取った親戚の住む沖縄で育つ。当時はまだ保護が必要だったとはいえ親戚一家とは馬が合わず、仕事の都合で上京したのに伴い一人暮らしを始め、親友の通う「城南一高(私立城南第一高等学校)」に転入した。両親を失ってから誰も信じられなくなり、親友の良一すら信じ切れずにいた。グレずに済んだが何をする気にもならない「無気力症候群」に陥って、グレる気力が無かっただけだった。
2000年(平成12年)、高2の5月に「城南一高」に転入して4ヶ月後の9月に良一が事故死し、1ヶ月後の10月20日に転入生として潜入した篠塚に協力を要請され、良一の死の裏事情を教えられ愕然となった。即ち、篠塚が16歳となった年の9月、銃犯罪撲滅に尽力した国会議員が射殺された事件とほぼ時を同じくして起きた良一の事故死、一見して無関係だと思われた2つの“死”は「UB」の調査の結果、富士山に向かう道すがら良一が撮影した1枚の写真により密接な関係にあることが判明し、彼女が男子生徒「篠塚高」として潜入したことを知る。結果的に良一を殺した竜童を慎悟自身が捕縛し、篠塚が「UB」と共に彼の所属していた暗殺組織「タイガース・アイ」を壊滅させたが、それで降り掛かる火の粉は消え去ることは無かった。半ば“伝説”とされた“幻の組織”が実在することを知り、竜童から自分達の組織に類が及ぶことを怖れてルーキーゆえの効果を期待し手先を差し向けた香港マフィア「白龍(パイロン)」も壊滅したが、爆弾使いであり竜童の弟のローだけはいち早く異変を察知し仲間を見捨てて逃走した。
護衛される内に熱い想いを篠塚に対して抱くようになり、チャレンジャー精神で砕けても砕けてもアタックを繰り返した。しかし、生きる世界の違いから諦めねばならないと自身に言い聞かせるも膨れ上がる一方の篠塚に対する想いを抑えることが出来ずに疲弊して精神の均衡を崩してしまう。逃避により慎悟の告白を無かったことにした篠塚の態度も強く影響していた。任務終了による別れの時が迫り、狂おしい想いと彼女の背中を見送らねばならないという相反する感情が鬩ぎ合い、任務の間だけしか一緒にいられない篠塚と共に在りたいと願う余りにローの脅迫状を隠滅して学校内部に侵入を許し、母校の“全校生徒・全職員”を危険に晒し彼女の任務を妨げてしまったため、自身の愚かな願望と激情を怖れ、まだローの脅威が去っていないにもかかわらず篠塚の保護下から失踪してしまう。
S県の山奥の農家の知人夫婦を頼って彼らの許を訪れ、静かな山の暮らしで落ち着きを取り戻しかけた矢先、テロップ事故を装った呼び掛けて居場所を知った篠塚が駆けつけ、パニックを起こして衝動的に崖から飛び降りかけるが彼女に秘めたる想いを告げられ、自身もまた篠塚を追い詰めていたことを悟り、密かに身を引く決意を固めた。冬枯れのススキが風に揺れる12月の雨の夜、見えない力に引き寄せられるように篠塚と結ばれるが、独り善がりの逃避に走った篠塚が死を偽装したため、深い絶望に突き落とされ地獄を彷徨った。そんな篠塚のコマンドーとしての優秀さと任務のためなら町一つを作ったり消したりも容易い「UB」の力を肌で知っているため、篠塚の“死”が「顔の無い屍体」トリックを利用した彼女自身による自作自演の狂言であることを悟り、篠塚の不実に傷つきながらもその願いを汲んで学校に戻り虚しい日々を過ごした。所在不明のUB日本支部の目印である「防衛庁」に通い続けて1年後、密かに見守っていたイックに「UB」絡みの事件で再会し、言外に篠塚の生存を明かした彼に励まされ篠塚を求めて旅立った。
それから更に1年後に骨休めで一旦帰京した際、旧友の森田に篠塚が助けた予備校生の純に引きあわされ、No.77を介してイックの情報で現行任務に従事する篠塚のいる渋谷に誘導された。その後、篠塚が任務で関わった「K大付属第一高等学校」のアウトサイダー的頭脳集団(シンクタンク)の「Ω」のメンバーに出会い、「駐日ブロジニア大使人質事件」解決に臨む篠塚に再会、テロリストの最後の足掻きで投げつけた手榴弾から篠塚を守り爆発に呑み込まれた。が、エレベーターの屋根裏に潜んで密かに慎悟を救ったイックが“入院の末に死亡した”と死を偽装し、2年前の茶番を悔い改めて“閉ざした想い”を漸く解き放った篠塚と和解した。
第1シリーズの「DUTY32:標的
」で、篠塚と待ち合わせていた慎悟。
本作のもう一人の主人公。
篠塚高(No.9)が“女”として愛する“最初で最後の恋人”という名の夫。恋人(夫)にして家族であり友人でもあるという篠塚のすべて、彼女に“男”として認識される存在でイックの親友である。篠塚が組織のトップとしては動けない場合、「No.9」の自己を保持したままでも立場を捨て個人で命を賭ける唯一無二の存在である。一般人。高3の冬に高校中退し、その1年後、紆余曲折の末に思い切りよく秘密組織の女性エージェントに婿入りした専業主夫。作者には、文庫版第2巻のあとがきで“究極のパートナー”と呼ばれている。住居はセキュリティの問題もあり組織の世話になるとしても生活費は自身でと考え、勤労精神に則りアルバイトに勤しむフリーターである。山歩きを趣味とする両親の影響で山をこよなく愛し、難易度はエベレスト級でプロの登山家でも事故死の危険が伴う“冬期の富士登山”を可能にするスキルを有する“山男 / マウンテン・クライマー(mountain climber)”である。秘密組織のエージェントである篠塚ゆえに事実婚であり挙式自体は可能でも法的婚姻はあり得ないため、同棲が実質的な夫婦生活である。仲睦まじい逆転夫婦で主夫歴3年目に突入した。
初登場時は17歳。第1シリーズは17→20歳、第2シリーズは21歳、第3シリーズでは22歳である。
誕生日は1983年(昭和58年)9月21日で、星座は天秤座寄りの乙女座。出生地は神奈川県藤沢市。東京都・沖縄県と転々とし、高2の5月に転入という形で東京に戻って来た。
未だに高校生(篠塚に出逢った17歳当時くらい)に見られてしまう童顔が悩みの種で、任務に都合が良いからと童顔を気にしない任務仕様の思考しかない篠塚に言われると一番こたえる。過ぎた歳月が同じでも「城南一高」の旧友や「Ω」を含めた世の人間とは異なる世界を生きるため、篠塚ほど尋常ではないという程ではなくても独特の雰囲気を纏い、元の世界の時の流れから置き去りにされて“少年”のような風情である。身長は出逢ったばかりの頃は篠塚やイックと同じ175cmだったが、2年後に篠塚と和解した際は彼女より少々高い178cmになり、イックは更に高身長になった。篠塚を除いて2人とも少し伸びたらしい。人間的な温もりを加味した美貌を有しており、第1シリーズ終盤「DUTY32:標的」でバイト先のチャイニーズ・レストラン「鳳凰楼」で結城(張)に拮抗して女性客の半数の視線を集め、第2シリーズの終盤「MISSION5~試練の冬~」ではイックの采配で篠塚を手伝うべく潜入した清北高校で「ENU」のタラシ担当のハンスを向こうに回し女子生徒の半数の人気を博した。嘗ては直情径行だったが、彼女を愛することで妙なる変容を遂げ思慮深い青年に成長した。基本的に泣いて笑って怒ってと感情表現が豊かでストレートな性格だが、篠塚の立場と「UB」の特性ゆえに自重自戒を常に心掛けている。そのため、繊細な心を有していることも影響し、何も知らない人間の眼には“穏やかな美少年”に映る。
No.9の恋人ゆえに“最重要機密事項”として扱われ、「コード405」と呼称される。トップナンバーである篠塚の片腕のイックが上官である彼女を罠に嵌めてまで仲を取り持った一件と観念した篠塚が元「護衛対象者」という一般人の自身を伴侶に迎えたことで組織内が騒然となり、元々の篠塚に対する高評価に加えてつとに有名な存在である。笑顔で「いってらっしゃい、気をつけて」と篠塚を送り出し、帰宅時には「お帰り。シャワーを浴びる?それとも食事にする?」とやはり笑顔で迎えており、温かい家庭を営んで最愛の妻に甲斐甲斐しく尽くしている。
男も女も関係のない環境で育ったため、肉体は“女性”でも内面に“女”がないばかりか“男”を意識することのない篠塚の中に眠る“女”を呼び起こし、彼女の中に“女としての意識”を形成する唯一の“男”たりえる存在である。慎悟は篠塚が初めて“女”として愛した男で、彼女が愛するのは後にも先にも慎悟ただ一人であるのと同様に、自身もまた生涯にただ一度の愛を篠塚に捧げている。任務にかまけて見失いがちな“人の心”をイック(No.19)達に思い起こさせ、ゆったりとした時間・心地良い空気・任務を忘れられる深い安らぎを誰よりも必要とする篠塚に“それら”を与える慎悟は、篠塚が寛ぎ心癒される“帰る場所”で機械に徹した弊害で心を凍てつかせた彼女の心の中に巣喰っていた“巨大な氷塊”を溶かし、その心を“愛”で満たし“春の幸せ”で包み込む存在である。
1つの任務が終了し次の任務が発令されるまでの短い時間は篠塚と一緒にいられるが、報告を受けるだけで定時に帰宅する筈が急遽任務に就いたり、前倒しに早まったり事件が起こり緊急出動することもある。更には、帰宅予定を超過して帰らず音信不通というのは一緒に暮らし始めてから“日常茶飯事”なので慌てふためくことはないが、不安ではあるので一番早く再会できる場所に毎日通うこともある。愛する女性に対する絶大な信頼が待つことを、押し寄せる不安が場所を選択させる。
欧米人から5~10歳くらい年少に見られがちな日本人の目から見ても実年齢より幼く見え、女性ではあるのだが初対面で女性であることに気づく人間は皆無であり、幼く見える外見に加え性別不明な容姿と男性的な物言い&所作が原因で大抵は“容姿端麗な美少年”と性別を誤認される。但し、「城南一高」篇で男子生徒として潜入した際に女性を連想させるモノを可能な限り排除し、周囲を男子生徒に囲まれたからか、男だと思われつつも“線が細くて変に色気があるし、眼鏡を取ると凄ェ女顔だ”と評された。髪を切ったことで女顔が際立ち、本能的に女性だと正しい性別を認識されたものと思われる。髪の長短に関係なく女性として認識されることはないため、精神的な女性としての覚醒が大きく関与しており、任務では敢えて“女性としての部分”を封印していると思われる。
慎悟を捨ててから2年後の「DUTY18:幻想の森」でテログループと後に外部組織の一員となる浅見に“証拠物件(乳房)”を提示することなく「女性」だと認識されたが、一時的にフェロモンが活性化しただけらしく、それ以降は、相変わらず男性だと間違われマシな場合でも性別不明であり、女性らしい装い或いは「女性」を指し示す“記号”が無ければ「女性」とは認識されない。が、ひとたび女装すれば、アジアを体現するかのようなエキゾチック美女の“ジャパニーズ・ビューティー”に変身する。
その容姿と圧倒的なオーラから良くも悪くも男女の別なく強烈に惹きつけ、恋愛感情と敵愾心の双方を周囲に生じさせ、非常識な思考による言動で混乱を引き起こしてしまう。人目を引く容貌と相まって性別を問わず相手のあらゆる欲望を掻き立てて狂わせる“麻薬”であるため、女装すると“傾城・傾国の美女”と化して“誘惑の色香”を放ち、同性の女性にすら恋情に近い狂気を孕んだ強烈な感情と独占欲を沸き立たせ、大なり小なりの騒動が巻き起こるのは避けられない。任務遂行の妨げになるトラブルを自身が原因で続出させてしまう。普段の“色気も素っ気も無い格好”は単なる篠塚の嗜好だが、それが幸いにも“フェロモン隠し”の役割を果たしているらしい。