卯の花の 咲くとはなしに ある人を 恋や渡らむ 片思(かたもい)にして
首:どういう歌?
遠智:たとえ片思いでも愛し返されることがなくても恋することをやめることはできないという意味ですのよ。
首:悲しい歌なの?
遠智:いいえ。愛の不思議さをうたっているのですわ。想いは通じなくとも見ていてくださいます――いつも。
首:だれが?
遠智:恋は孤悲とも書くのです、人を愛して初めて人はみな独りなのだと気づくのですね。
史:(野に咲く百合のほのかに紅い少女の夢から醒めて、白く透明な高みに翔ぶのか)
[卯の花が咲くのか咲かぬのかわからないような――私を愛しているのかいないのかわからない、心を開いてくれない人に私は恋し続けるのでしょうか…]
古代幻想ロマン・シリーズ
葦の原幻想-あしのはらげんそう-
「孤悲歌」
遠智:(この道を行けば三輪へ帰れるはずだったのにもう何も見えなくなってしまった。私は――この道を引き返したところで、あの方を知らなかったころに戻れるわけではないのに……私の手を取りながら心の半分も見せてはくれない人に私はなぜ、こんなにもひかれるのか。母様、母様、私はだれに問えばいいのでしょう。)