黙って耳を傾けていたジョンが、首を傾げた。「仲間になる……ゆうのは、同化、なんとちゃいますやろか」「同化?」「はい。一体になる、ゆうことで。せやから、同じような立場の人や、同じようなことを考えている人を欲しがる、ゆう気がするんです。例えば自殺しはったお方の霊がいたとしますやろ?そうすると、自殺を考えるような人を呼ぶ……ゆうか」「ああ――寂しくて仲間が欲しいから、自分と同じように自殺しそうな人を呼ぶわけだ」「はい。もっと悪辣やと、そこに追い込んでいく」……うーん。分かるような、分からないような。救いを求めてナルを見たら、ナルは溜息をついた。「そうそう簡単に霊のことが分かったら苦労はない」そりゃ、そうでしょうが。「ただ、霊として残る要件は強い思いだ。霊とは基本的に残存した強い意思――思念だ、と看做すことができる。この家の場合は、仲間が欲しいという欲求がそれだろう。なぜ同世代の仲間に限られているのかは分からないが。とにかく、それは仲間を求める。欲しいという欲求のみの存在なのだと言うべきなんだろうな」ナルは言って、部屋の隅に凝(こご)った闇を注視する。「仲間を求めるのは、それがそういう存在だからだ。求めた結果、仲間が増える。増えた存在は大本の存在と同化する。少なくともこの家の場合、子供たちは集団で一個の霊存在を形成している。互いに互いを引き寄せてエネルギーを補い合う関係にあるから、個々は決して強い存在ではないのに、除霊しても弾き飛ばされるだけで消えない。引き寄せられて戻ってくる」「ああ、なるほど」「ただ、同化するためにはそれが均質なものである必要がある、ということなんだろう。少なくとも似通っている必要がある。たとえば、寂しい子供の霊が仲間を欲した場合、同じく仲間が欲しい子供が死亡するか、同じく寂しい子供が死亡する必要があるのだと思う。前者の場合は『仲間が欲しい』という欲求が一致しており、後者の場合は『寂しい』という心性が一致している。最低でもどちらかが一致していることで初めて、両者は同化することができる」「でも、ミニーはすでにいっぱい仲間を持ってるじゃない。とっくに満足してそうなもんなのに」「そうだろうか?たとえば仲間の欲しい霊が、新しく仲間の欲しい子供を得たとする。その両者が同化する――だが、仲間とは連帯する『他者』のことだろう。同化したら他者じゃない」「あ、そうか」「仲間を得たところで、新入りが望んでいるのは仲間だ。同じく仲間を欲している。両者の思いが同化したところで、欲望が強化されるだけだろう。寂しい子供の場合は、同じく寂しさが積み重なるだけで満たされるわけではない。つまり、同じものが積み重なっても、加算されこそすれ減じることはないんだ。だからいつまでも仲間を求め続ける」……そっか。欲しいという思いだけがどんどん強くなるんだ。「だから、礼美ちゃんを孤立させようとしてるわけね?心性を一致させて、できれば欲求を一致させるために」「だろう。しかも礼美ちゃんは、そもそも連中の心性に対して親和性があるんだ。引っ越して友達と別れ、新しい友達ができずに寂しかった。ある意味、親和性はキーポイントだろう。大沼さんの孫も一人遊びが多かったと言っていた。大人は病人の介護で忙しく、充分に構ってもらえない。大沼家の末娘もそうかもしれない。身体が弱くて、兄弟や友達と均質でいられない。その孤立感をきっかけにして、犠牲者にぶら下がる」……取り込まれる、ってことだ。どんなに人間関係に恵まれた子供でも、ふっと孤立感を感じる瞬間があるだろう。それをきっかけに連中は目をつける。目をつけたら、目的を完遂するまで諦めない。
最新の画像[もっと見る]
- 9番目のムサシ サイレントブラック 第9巻 7年前
- ベルサイユのばら 第14巻 7年前
- テラスモール湘南のクリスマスツリー 7年前
- 保護猫に幸あれ 7年前
- オスカルのドレス姿はアニメ版が良い! 7年前
- 消防隊隊長と俳優の不祥事 7年前
- ゼイチョー!~納税課第三収納係~ 第1巻 8年前
- 新装版 天を見つめて地の底で 第3巻 9年前
- パズルゲーム☆はいすくーるX 第8巻<完> 9年前
- ミステリーボニータ 2016年3月号 9年前