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☆『世界の四大花園を行く』(野村哲也・著、中公新書)☆
一面に花々が咲き誇った場所を花園というならば、花園へ行った経験はあまりないほうだろう。それでも昭和記念公園のコスモス畑や根津神社のつつじ苑を初めて見たとき、その美しさや眺めに少なからず感動した。しかし、さすがに「花酔い」の経験はない。野村哲也さんは南アフリカの花園(ナマクワランド)を訪れたとき「花酔いに気をつけろよ!」と注意され、野村さんも「花酔い? いったい何のことだろう?」と思った。ところがナマクワランドデイジーが大群生する丘の中央にたどりついたとき、蛍光オレンジ一色の輝きに頭がクラクラしてきたという。そんな「花酔い」しそうな世界の四大花園を、本書は野村さんが撮った多数の写真と文章で紹介している。新書版なので大判の写真集の迫力には及ばないが、花園の見事な景観は十分に伝わってくる。
ペルーの花園は「ロマス・デ・ラチャイ国立保護区」にある。この「ロマス」とは「砂漠の花園」の意味であり、文字どおり花園はなんと砂漠の中にある。さらに不思議なことに、四大花園はすべて砂漠の中にある。生命を寄せつけない乾燥した砂漠に恵みの雨が降り注いだとき、砂漠に奇跡の絶景が出現するというのだから驚きである。花園の規模も、たとえば南アフリカの花道は600kmにもなるというから、狭い国土に棲む人間には想像すらできない。
四大花園に咲く花々も多種多様である。オーストラリアの花園(ペレンジョリー)では1万2千種にも及ぶという。チリの花園(アタカマ砂漠)に咲く「世界で最も美しい」ガラ・デ・レオンなど、珍しい花も少なくない。なかでも最も目を引かれるのは、オーストラリアの花園に咲くリースフラワーではないだろうか。その花の環のかたちは、自然が作り上げた造形の妙とでもいうべきだろう。オリオン座が北半球と逆の形で昇ってきたあと撮られた、満月とリースフラワーが一枚に収められた写真は、神々しささえ感じる。
これまた不思議なことに四大花園はすべて南半球にある。その起源は、過去に存在したゴンドワナ大陸に求められるともいう。起源を一にするからなのか、南アフリカ、オーストラリア、チリの花園はすべて南緯30度線上に並び、花の盛りもすべて9月前後だという。この情景を宇宙から俯瞰したら、地球がちょうどリースフラワー(花の環)に抱きしめられているように見えるのではないか、と野村さんはいう。野村さんのイメージを自分なりに思い浮かべてみると、青い地球とはまた別の、色彩と生命にあふれた、暖かな地球が見えてくる。
人が“エコロジー”に目覚めるきっかけは、難しい思索や議論の末なのではなく、たぶんもっと原初的なものである。(余談ながら、何事にも思索や議論は必要だろうが、世の中には思索のための思索や、議論のための議論があまりに多いように思う) 「天に星、地に花」のように、夜空を見上げて星々の輝きにこころ打たれ、丘の上に咲き誇る花々に目を奪われること。そこから生命や人に対して敬う気持ちも生まれてくるのではないだろうか。「天に星、地に花」の後に「人に愛」が続くように。本書のメインテーマはもちろんエコロジーなどではない。けれども、へたな専門書よりもよほど“エコロジー”を感じさせてくれる本である。
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一面に花々が咲き誇った場所を花園というならば、花園へ行った経験はあまりないほうだろう。それでも昭和記念公園のコスモス畑や根津神社のつつじ苑を初めて見たとき、その美しさや眺めに少なからず感動した。しかし、さすがに「花酔い」の経験はない。野村哲也さんは南アフリカの花園(ナマクワランド)を訪れたとき「花酔いに気をつけろよ!」と注意され、野村さんも「花酔い? いったい何のことだろう?」と思った。ところがナマクワランドデイジーが大群生する丘の中央にたどりついたとき、蛍光オレンジ一色の輝きに頭がクラクラしてきたという。そんな「花酔い」しそうな世界の四大花園を、本書は野村さんが撮った多数の写真と文章で紹介している。新書版なので大判の写真集の迫力には及ばないが、花園の見事な景観は十分に伝わってくる。
ペルーの花園は「ロマス・デ・ラチャイ国立保護区」にある。この「ロマス」とは「砂漠の花園」の意味であり、文字どおり花園はなんと砂漠の中にある。さらに不思議なことに、四大花園はすべて砂漠の中にある。生命を寄せつけない乾燥した砂漠に恵みの雨が降り注いだとき、砂漠に奇跡の絶景が出現するというのだから驚きである。花園の規模も、たとえば南アフリカの花道は600kmにもなるというから、狭い国土に棲む人間には想像すらできない。
四大花園に咲く花々も多種多様である。オーストラリアの花園(ペレンジョリー)では1万2千種にも及ぶという。チリの花園(アタカマ砂漠)に咲く「世界で最も美しい」ガラ・デ・レオンなど、珍しい花も少なくない。なかでも最も目を引かれるのは、オーストラリアの花園に咲くリースフラワーではないだろうか。その花の環のかたちは、自然が作り上げた造形の妙とでもいうべきだろう。オリオン座が北半球と逆の形で昇ってきたあと撮られた、満月とリースフラワーが一枚に収められた写真は、神々しささえ感じる。
これまた不思議なことに四大花園はすべて南半球にある。その起源は、過去に存在したゴンドワナ大陸に求められるともいう。起源を一にするからなのか、南アフリカ、オーストラリア、チリの花園はすべて南緯30度線上に並び、花の盛りもすべて9月前後だという。この情景を宇宙から俯瞰したら、地球がちょうどリースフラワー(花の環)に抱きしめられているように見えるのではないか、と野村さんはいう。野村さんのイメージを自分なりに思い浮かべてみると、青い地球とはまた別の、色彩と生命にあふれた、暖かな地球が見えてくる。
人が“エコロジー”に目覚めるきっかけは、難しい思索や議論の末なのではなく、たぶんもっと原初的なものである。(余談ながら、何事にも思索や議論は必要だろうが、世の中には思索のための思索や、議論のための議論があまりに多いように思う) 「天に星、地に花」のように、夜空を見上げて星々の輝きにこころ打たれ、丘の上に咲き誇る花々に目を奪われること。そこから生命や人に対して敬う気持ちも生まれてくるのではないだろうか。「天に星、地に花」の後に「人に愛」が続くように。本書のメインテーマはもちろんエコロジーなどではない。けれども、へたな専門書よりもよほど“エコロジー”を感じさせてくれる本である。
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