「白秋」に想ふ―辞世へ向けて

人生の第三ステージ「白秋」のなかで、最終ステージ「玄冬」へ向けての想いを、本やメディアに託して綴る。人生、これ逍遥なり。

道は険しい―『お天気おじさんへの道』

2009年10月24日 | Ecology
☆『お天気おじさんへの道』(泉麻人・著、講談社文庫)☆

  コラムニストとはどんな職業をいうのだろうか。やはりコラムを書く人ということになるのだろうか。短い文章で時評などを書くのがコラムだから、コラムニストは発想や見識が命という感じがする。本書はコラムニスト泉麻人さんの気象予報士受験記である。
  たまにテレビで見る泉さんは丸顔で温和な感じだが、コラムニストらしく豊富な雑学を元手に一味ちがったものの見方をしているように思う。そんな泉さんが実は子どもの頃から「天気予報」オタクだったとは知らなかった。気象情報やラジオでやっている気象通報のアナウンスを聴くと気分が昂揚するという。その趣味が昂じて気象予報士を目指すことになる。
  ところが泉さんは文科系の出身(慶応の商学部卒)で、純粋理系っぽい気象予報士試験の内容に戸惑う。しかし持ち前のコラムニスト的発想で、理数系の内容を読み替えるなどしながら勉強を進めていく。気象用語の「条件付不安定」を世相に当てはめてみたり、さらには「相対渦度」を使って中年男の生態を描いたりする。この発想力はやはり並ではない。ちょっとニヤリとさせられるところもある。少しアブナイ話題に触れそうになるところもあるが、そこはそこで中学以来の慶應ボーイの品の良さが救っている感じだ。
  気象通報にロシアの「ルドナヤプリスタニ」という地名が出てくるそうだが、泉さんはこの地名がどこにあるのか確かめようとする。筑波にある高層気象台は、高層気象資料に出てくる旧地名の「館野」にある。泉さんはこの「館野」にも執着する。「天気予報」オタクだけでなく、実は「地名」オタクでもあったのだ。
  泉さんの「地名」オタクについてはさほど以外には思えなかったが、何事かに執着する性癖が気象予報士試験に限らず、試験一般に対して重要な役割を果たすのかもしれない。何事かにこだわり続ける心を持つこと、ある種のベクトルを維持することが、具体的な受験対策以前に必要なのだろう。
  いつかは自分も「お天気おじさん」になりたいという希望を持っている。しかし、何となく気象に興味があるからだけで受験を続けていても、気象業務支援センターに高額(1万円以上!)の受験料を寄付しているようなものだ。泉さんは3回目の受験で見事に合格を果たした。次回久々に受験するとなると、泉さんの受験回数を超えることになる。少しは肝を据えて勉強しなければ、合格などいつになってもおぼつかない。
  道はけっして平坦ではない。道は険しい。しかし、道の先にある景色に憧れているだけでは、いつになっても景色を眺めることなどできはしない。気力をつけて道を上り始めなければならない。
  

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