![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/a3/e6880fd4fbca8564bbd942ff4c1efa73.jpg)
オペラが終わり早々にぼくらは品川へ向かう。しかし、京急のホームはすごい人出。
「なあなあ、ビールでも買ってのんびり行こうぜ」彼がこの現実を受け入れているのかいないのか、ちょっとわからない。
「この人出を目の当たりにして何のんきなこと言ってんだよ?」
「まあ、いいから、いいから、オペラ出してもらったから、ここは俺が」
ホームにあふれている人をかき分け、売店でエビスビールを2本買うヤツ。オペラの席が350mlの缶ビールに収斂されていく………。
乗った三崎口行きの京浜急行は案の定満員。ぼくたちはもちろん立っている。
「これって絶対リゾートではないような気がするんだが」
「お前はまともな通勤・通学をしてないからこの程度のことで文句を言うんだ」
「だって、わざわざ、体やすめに温泉行って、何が悲しくてラッシュの電車に乗ってんだよ。それはぼくの来し方の問題じゃないと思うぞ」とぼくはヤツのリュックに挟まっているエビスビールを見ながら行った。「温泉はな、スペーシアとかレッドアローとかロマンスカーとかで行くんだよ、通勤電車で行くもんじゃないんだよ」
「まあまあ」
「まあまあじゃないっ!」
結局横浜で座れ、そこから三浦海岸まで。
京急ストアというスーパーが三浦海岸駅近くにあったので、そこで夕飯を買う。スーパーで夕飯買うなんて、やはり、リゾートじゃあない。
マホロバマインズであてがわれた部屋は、広めのバスルームに、10畳ほどのリヴィング、8畳の和室、それに6畳のベッドルーム。ハネムーンで来るなら嬉しかったかもしれないが、何しろ男二人。
夕飯もそこそこにすぐに寝てしまう。
横になってるとヤツが話しかけてきた。
「あのさ、お前って俺の一生の友達だよ。変な顔すんなよ。俺さ、一昨年結婚したじゃん」
そう、ヤツは一昨年40になって結婚した。結婚式のとき、花嫁さんのどこが一番気に入りましたか? と尋ねられたヤツは「この人ならずっとついていけると思いました」と真顔で答えた。ぼくはヤツのそんなところが好きだ。
「あんときさ、嫁さんにさ、コイツを頼みます、あきれちゃうこともあると思いますが、根はいいヤツなんです。お願いしますって、何度も何度も頭下げて頼んでたじゃん」
照れくさかった。ヤツの話す声が湿ってるのにつられて、あのときの結婚式を思い出してぼくもなんだか………。
「あのとき、ああ、こいついいヤツだなあって気づいたんだよ」
「お前、気づくの遅すぎっ!」
あの子に振られたとき、何軒飲みに連れていったか。アパートの隣の部屋に電話を呼び出しに行ったら、住人死んでて、死体の目からうじがわいていた、アパートに帰りたくないって、あんときお前はうちに半月も泊まってただろう。バイトもしないで食えないお前を塾教師のバイトをしてたぼくがどれだけ食わせたか、そのくせ、血を売ったり人体実験のモルモットのバイトとかそんな安直なもんばっかやりやがって、しかも担当の看護婦さんがきれいなんだよ、などと下らねえ自慢して、お前バカか? 気づくんならそんときに気づけよ!
「なあなあ、ビールでも買ってのんびり行こうぜ」彼がこの現実を受け入れているのかいないのか、ちょっとわからない。
「この人出を目の当たりにして何のんきなこと言ってんだよ?」
「まあ、いいから、いいから、オペラ出してもらったから、ここは俺が」
ホームにあふれている人をかき分け、売店でエビスビールを2本買うヤツ。オペラの席が350mlの缶ビールに収斂されていく………。
乗った三崎口行きの京浜急行は案の定満員。ぼくたちはもちろん立っている。
「これって絶対リゾートではないような気がするんだが」
「お前はまともな通勤・通学をしてないからこの程度のことで文句を言うんだ」
「だって、わざわざ、体やすめに温泉行って、何が悲しくてラッシュの電車に乗ってんだよ。それはぼくの来し方の問題じゃないと思うぞ」とぼくはヤツのリュックに挟まっているエビスビールを見ながら行った。「温泉はな、スペーシアとかレッドアローとかロマンスカーとかで行くんだよ、通勤電車で行くもんじゃないんだよ」
「まあまあ」
「まあまあじゃないっ!」
結局横浜で座れ、そこから三浦海岸まで。
京急ストアというスーパーが三浦海岸駅近くにあったので、そこで夕飯を買う。スーパーで夕飯買うなんて、やはり、リゾートじゃあない。
マホロバマインズであてがわれた部屋は、広めのバスルームに、10畳ほどのリヴィング、8畳の和室、それに6畳のベッドルーム。ハネムーンで来るなら嬉しかったかもしれないが、何しろ男二人。
夕飯もそこそこにすぐに寝てしまう。
横になってるとヤツが話しかけてきた。
「あのさ、お前って俺の一生の友達だよ。変な顔すんなよ。俺さ、一昨年結婚したじゃん」
そう、ヤツは一昨年40になって結婚した。結婚式のとき、花嫁さんのどこが一番気に入りましたか? と尋ねられたヤツは「この人ならずっとついていけると思いました」と真顔で答えた。ぼくはヤツのそんなところが好きだ。
「あんときさ、嫁さんにさ、コイツを頼みます、あきれちゃうこともあると思いますが、根はいいヤツなんです。お願いしますって、何度も何度も頭下げて頼んでたじゃん」
照れくさかった。ヤツの話す声が湿ってるのにつられて、あのときの結婚式を思い出してぼくもなんだか………。
「あのとき、ああ、こいついいヤツだなあって気づいたんだよ」
「お前、気づくの遅すぎっ!」
あの子に振られたとき、何軒飲みに連れていったか。アパートの隣の部屋に電話を呼び出しに行ったら、住人死んでて、死体の目からうじがわいていた、アパートに帰りたくないって、あんときお前はうちに半月も泊まってただろう。バイトもしないで食えないお前を塾教師のバイトをしてたぼくがどれだけ食わせたか、そのくせ、血を売ったり人体実験のモルモットのバイトとかそんな安直なもんばっかやりやがって、しかも担当の看護婦さんがきれいなんだよ、などと下らねえ自慢して、お前バカか? 気づくんならそんときに気づけよ!
実はオペラに行ったその日、ぼくは一緒に行ったヤツと温泉に行った。
ヤツは大学の同級生。だが、こいつと関わるとろくなことがない。年は一つ上なのだが、何しろ手がかかる。ここでどれだけ手がかかったか、あるいは、学生時代うちで何泊したか、うちの母親は何食こいつに食わせたか、その状況と頻度を微に入り細をうがって説明しても、煩雑なだけでみなさんの利益につながりそうもないのでやめておくが。
こいつのもっともいけない点はつまんない思いつきと、変なとこだけ働く実行力である。つまんないことを思いついて、それを実現させてしまうのだ。やれやれ。
わざわざ九州からやってきて、今回彼が実現したのが温泉行き。しかもオペラのあと。
「マホロバマインズってとこを予約したよ」
いいから、俺にまかせておけ、大丈夫、行ってみたいとこがあるから、俺が予約するから、と福岡に住んでるくせに関東地方の宿を自ら予約までするほど、行ってみたいところが、マホロバマインズか。
う~ん、微妙なとこだ。
実はそこには一度行ったことがある。もう10年以上も前のこと、その頃そこは会員制ホテルだった。会員になった知り合いは、せっかく高い金出して会員になったんだからと人を誘いたがる。「すごおい」とか「こんなとこに誘っていただいて」などという言葉が聞きたいのだ。だもんで、同業の何人かで三浦半島の先端近くまでのこのこ出かけたのだった。
今はどうなっていることやら。
それにしても、昼はオペラ。夜は三浦半島の温泉。
どんな格好をすりゃいいんだ?
下はわりとカジュアルに茶色の革靴、それに綿パン。上はストライプのボタンダウンに一応ネクタイ。これにジャケットだと温泉から離れるので、クルーネックのセーターを着て、ネクタイはノッドが見える程度に。で、上はセーターの上から着られる大ぶりのジャケット。
それにリュック。
微妙っ。
オペラにも温泉にも微妙な格好である。
当日現れた彼は普通のブレザー姿にリュック。
いつもヤツは直球勝負。
ヤツは大学の同級生。だが、こいつと関わるとろくなことがない。年は一つ上なのだが、何しろ手がかかる。ここでどれだけ手がかかったか、あるいは、学生時代うちで何泊したか、うちの母親は何食こいつに食わせたか、その状況と頻度を微に入り細をうがって説明しても、煩雑なだけでみなさんの利益につながりそうもないのでやめておくが。
こいつのもっともいけない点はつまんない思いつきと、変なとこだけ働く実行力である。つまんないことを思いついて、それを実現させてしまうのだ。やれやれ。
わざわざ九州からやってきて、今回彼が実現したのが温泉行き。しかもオペラのあと。
「マホロバマインズってとこを予約したよ」
いいから、俺にまかせておけ、大丈夫、行ってみたいとこがあるから、俺が予約するから、と福岡に住んでるくせに関東地方の宿を自ら予約までするほど、行ってみたいところが、マホロバマインズか。
う~ん、微妙なとこだ。
実はそこには一度行ったことがある。もう10年以上も前のこと、その頃そこは会員制ホテルだった。会員になった知り合いは、せっかく高い金出して会員になったんだからと人を誘いたがる。「すごおい」とか「こんなとこに誘っていただいて」などという言葉が聞きたいのだ。だもんで、同業の何人かで三浦半島の先端近くまでのこのこ出かけたのだった。
今はどうなっていることやら。
それにしても、昼はオペラ。夜は三浦半島の温泉。
どんな格好をすりゃいいんだ?
下はわりとカジュアルに茶色の革靴、それに綿パン。上はストライプのボタンダウンに一応ネクタイ。これにジャケットだと温泉から離れるので、クルーネックのセーターを着て、ネクタイはノッドが見える程度に。で、上はセーターの上から着られる大ぶりのジャケット。
それにリュック。
微妙っ。
オペラにも温泉にも微妙な格好である。
当日現れた彼は普通のブレザー姿にリュック。
いつもヤツは直球勝負。