<私を啓蒙してくれた5冊の本>
閑話休題:研究会拝聴;久々に知的な刺激を受けた
(某学会経営ネットワーク研究会)
2012年7月7日(土)
私は久々に横浜で開催された某学会の研究会に出席した.そして,二人の報告者の研究報告を拝聴した.お一人は現役社会人,もうお一人は新進気鋭の研究者である.
実は,今からもう10年ほども前のことになるかもしれないが,私も,かなり長い間,この研究会の主査をしていたことがある.従って,この研究会は私にとって,とても愛着のある場所でもある.
今から数年前,私は某大学を退職するのを機に,従来の生き様を断ち切って,自分の趣味である山登りと水彩画に方向転換することにした.
そこで,これまでお付き合いしてきたあらゆる学会からオサラバしてしまった.
学会をオサラバして数年は,山登りにトップリと浸って,実に心地よい毎日を過ごしてきた.その間,山登りを繰り返している内に,だんだんと体力は付いてくるし,四季折々の自然を楽しんでいるのは,実に気分も爽快だし,申し分のない毎日を過ごしてきた.
…が,あるとき,そうは言っても,頭の中にだんだんとサビが浮いてくるような気分がし始める.
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だんだんと頭が錆び付いてくる不安と,懐かしさが相まって,昨年辺りから,再び,この研究会に顔を出すようになった.すると,不思議なことに,かつて現役時代とさして変わらない程度に頭の回転が復活してくるようだ.これには山登りでは味わえない別の楽しさがある.
以後私は,何とはなしに,また,この研究会に出席するようになった.
そして今回である.
会場は,横浜の関内駅から歩いて5~6分の所にある某大学関内メディアセンター.私が18年間奉職していた大学の関連施設である.懐かしい.
研究会は,14時から17時まで,先ほど紹介したお二人の研究発表と質疑応答が行われた.
このブログは,あくまで山旅とハイキングが主体.従って,研究発表の内容を詳述する場としては相応しくないので,ごく簡単に感想を述べるだけに留めよう.それも私用のメモとして・・・
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<テーマ1:「リーダーシップの構造と累計に関する研究」>
報告者:某大学 H氏
■報告内容
1.リーダーシップ理論の変遷
2.特性論~行動論
3.状況対応リーダーシップと企業の成果
4.企業の成長段階とリーダーシップ
5.変革期のリーダーシップ
6.寒極激変,危機的状況下におけるリーダーシップ
7.リーダーシップ論における疑問点と今後の研究の視点
[私の感想]
私はH氏の研究報告を拝聴して以下のような感想を持った.
1.極めて精緻,丹念に研究をしている.
2.リーダーシップのあり方について示唆に富んだ内容である.
3.提案しようとしているリーダーシップ論の枠組みを,もう少し精緻化する必要がある.
以上のような感想を持ったので,質疑応答のときに,いろいろ指摘したかったが,ほとんど時間がなく,私は十分コメントしきれなかったのが残念である.とはいえ,今後のH氏への期待は大きい.
■私の指摘
私の指摘は,以下の諸点である.
1.リーダーシップ論に関連する過去の著作物の精査をもう少し進める.
2.新しく個性的な枠組みを想定する.
3.自らが体験した事例研究を重視する.
(ちなみにH氏は企業人の経験を持つ中小企業診断士である)
■私がお薦めする5冊の古典
これからの研究の示唆を与える書籍として以下の書籍を紹介する.
1.市井三郎,1963,『哲学的分析』岩波書店
坂本龍馬と幸徳秋水の生き様から変革のリーダーシップを解明する素晴らしい本.
2.リプナック&スタンプス;橋本他(訳),1984,『ネットワーキング』プレジデント社
ネットワークの特性をさまざまな視点から解明する名著.
3.佐藤俊夫,1960,『倫理学[新版]』東京大学出版会
物事を歴史的に系統立てて纏めるときに,考え方の背骨になる逸品.
4.フォンベルタランフィー;長野敬他(訳),1973,『一般システム理論』みすず書房
システムの一般的特性を知るのに欠かせない名著
5.ケネスEボールディング;公文俊平(訳),1975,『経済学を超えて』学研
特に「科学の骨格」は,宇宙全体の階序の中で人間と機械の位置づけを自覚させる.
これらの5冊の古典は,珠玉のような名著だと私は思う.私は現役の会社員時代から,これまでに,この5冊の本にどれだけ助けられたことか.
また,参考にすべき理論として,
1.グレイナーの組織発展5段階モデル
2.ドンタプスコットの階層モデル
3.フォンベルタランフィーのシステムの階序
の3点だけを取り上げて紹介した.
<テーマ2:「電子政府はなぜ進まないのか?」>
報告者:某行政機関 T氏
■報告内容
1.プロローグ
2.IT投資の見方
3.ITに対する会計検査
4.IT人材の育成
5.共通番号制度
[私の感想]
私はT氏の報告を拝聴して,以下のような感想を持った.
1.ITを巡る諸問題は,昔も今も全く変わっていない.
2.報告の内容が具体的で興味が持てる.
3.IT投資の見方が,分母削減型(注)に終始していて,分子向上型の考察がなかったのが残念
(注)情報化投資効率(η)は,
η=O/I
で表せる.ただし,Oはアウトプット,Iはインプット(つまりIT投資額)
分母削減型は,一定のアウトプットを産出するために必要な投資額をどれだけ削減した
かで評価する方法.いわゆる手作業のIT置き換えの場合の評価方法.
それに対して,Iは一定でも,Oを向上させることに重点を置くのが分子向上型.
これらについても,過去に優れた研究が沢山ある.特に次の報告書は必読だろう(ただし,なかなか手に入らないが・・・).
ホワイトカラー生産性研究委員会(編),1984,『ホワイトカラー生産性研究総合報告書』(財)日本能率協会;(財)日本オフィスオートメーション協会
報告内容が具体的で,興味が持てたが,背景となる理論や考察をもう少し多角的かつ厳密に,そして今回の発表の結論を明示すれば,さらに良いなと感じた.
質疑応答の時間がなかったので,私の感想を報告者に伝えるチャンスは,残念ながらなかった.
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リーダーシップ論に対する私の所感
H先生の報告に関連して,私の所感をほんの少々・・・・
■まずリーダーシップとは
リーダーシップとは:-
Leadership is defined as ability to show the way to acheive objectives.
つまりリーダーシップの要件は幾つもあるが,一番大切なのは,
「進むべき道筋の明示」
ということである.
■Objectivesとは
Objectivesは,広義のObjectives(目的)とGoals(目標)に区分できる.目的は一般に長期総合的視点に立ち,目標は短期即効的視点に立つ.
■Planning
ObjectivesとGoalsを達成するにはPlanningが必要である.
エーコフは,
Planning is defimed by active intervension now・・・・・future will be realized by active intervension now.
と力強く言っている.この言葉に私は感動した.
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<懇親会>
研究会終了後,近くの中華料理店で懇親会が開催された.
この頃,山歩き仲間,登山学校同級生,街道歩きの仲間達の懇親会には,かなり頻繁に出席しているが,学会仲間との懇親会は,また,ひと味違っていて,楽しかった.
あらためて「絆」とは何かを考えさせられた.
「絆」という視点から,今日のお二人の報告内容を整理し直すと,興味深い研究の枠組みを構築できるなと確信する.
「山ばかりに凝っていないで,たまには,私もこんな知的遊戯をしてみるのも良いな・・・・」
と思い始めている.
(おわり)
「閑話休題」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/2093b2761662a08576ca46bd7afcce84
「閑話休題」の次回の記事
(なし)