二酸化マンガン鉱を含む方解石

2021-05-02 | インクルージョン

二酸化マンガン鉱 MnO2

方解石 CaCO3

中国

 方解石の成長過程で一時的にマンガン成分の急増があり、方解石の結晶表面に小さな球状に成長したものの、後の方解石の成長で閉じ込められてしまった。一般的なインクルージョン標本の成長過程だが、二酸化マンガンの晶出以降において方解石の結晶成長面が変化していることに注意したい。

 方解石の結晶形態は多様である。理科の観察や実験などで目にする方解石の破片は、長方形の箱を押しつぶしたような菱面体に囲まれた形態だが、実際にそのような形で産出することは希。本書のような釘頭状、犬牙状、六角柱状、陣笠状などで、さらに微斜面が生じて形態による判断ができないことが多い。この標本の初期段階の結晶形態は鈍角になる三角錐の頂点だが、その稜線を横切る形で新たな結晶面が生じて次に紹介するコバルトカルサイトと同じ六角柱状に近い形となっている。

二酸化マンガン鉱 MnO2

コバルトカルサイト

コバルトカルサイト(少量のコバルトを含む方解石)に含まれる黒褐色の微小鉱物。

コバルトを含むことによってピンクに発色している。

結晶の中央部に黒い染み状の包有物(二酸化マンガン鉱)がみられる。

 

 

 


岩塩の負晶

2021-04-06 | インクルージョン

岩塩 NaCl  Halite ハロゲン化鉱物 等軸晶系

Intrepid Potash East Mine, Carlsbad Potash District, Eddy Co., New Mexico, USA

岩塩の着色は、赤鉄鉱などの不純物の他、カラーセンターと呼ばれる結晶構造に生じた欠陥部において光の吸収があることが原因。この岩塩は鮮やかな青色を呈している。着色部分が層状に見えることから、沈殿結晶してゆく過程で、放射線などの影響を繰り返し受けたものと思われる。誰もが経験するであろう、青色岩塩が水に溶けるとどのような色になるのであろうか、理由は知っていても実際に確認してみたいという心境。たぶん、多くの着色岩塩が水に溶かされているのであろう。

結晶塊の中に、小さな六面体の空隙がある。結晶してゆく最中で取り残された部分、即ち負晶である。空隙には液体が残っている。この状態から想像すると塩化ナトリウムの飽和水溶液であろう。ごく小さな気泡も閉じ込められている。

 この標本では、面白いことに、負晶のある周囲のみ着色していないのが観察される。負晶に閉じ込められている鉱液が浸潤し、結晶構造の欠陥部分が補修されたのであろうか。あるいは無色となっている部分で、溶解と再結晶が繰り返されたことも考えられる。


角閃石を含む橄欖石

2021-03-21 | インクルージョン

角閃石類 Amphibole 珪酸塩鉱物 

苦土橄欖石 Forsterite  珪酸塩鉱物 直方晶系 

Spat Gali, Kaghan Valley, Mansehra,  Pakistan

苦土橄欖石Mg2[SiO4]のC軸と平行に成長する細い柱状の角閃石類。苦土橄欖石の結晶表面に放射状に広がっているのは気泡。苦土橄欖石は玄武岩などMgに富む火山岩の構成鉱物として産出することが多く、我が国では秋田県一の目潟のように粒状結晶の集合からなる橄欖石団塊が知られている。

 

ハワイ島の海岸には橄欖石による緑色の砂浜がある。橄欖石砂という点では我が国の海岸でも緑っぽい色の砂が縞を成しているところがある。橄欖石は珍しいものではないが、色鮮やかで綺麗な結晶は宝石として扱われ、ペリドット、オリビンの呼称がある。何も入っていない透明な結晶が好まれるようだが、筆者のような変わりもの好きは、何か不明なものが混じっている、ちょっと見栄えの悪い結晶に目が行ってしまう。角閃石類も橄欖石類も、ほぼ同じ組成からなっている。このようなインクルージョンは、成長の過程で環境が大きく異なったのだろう。

 

ライティングによって表情が変わる。インクルージョンしている他の鉱物の種類が多ければ多彩な表情を示す。写真の楽しみはそこを探り出すところにある。

 


細い針状水晶を含む蛍石

2021-03-08 | インクルージョン

水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系

Yongchun Co., Quanzhou Prefecture, Fujian Province, China

 針のような水晶を内包する蛍石。蛍石の表面に同様の水晶が結晶していたなら、おそらく採集過程で失われてしまうであろう。結晶内に包有されているために綺麗な状態で遺されている。

 実はこの標本を見つけた時、無色透明な細い結晶の先端部が斜めにカットされたような形態から石膏のインクルージョンと見間違えた。そのような繊細な水晶である。複数の紫色六面体蛍石を、ごく薄い石英の板状構造が横断するように成長しており、その表面に微細な水晶が生じている。初期成長の形状が八面体であったことを示している。自然の力に感謝したくなる結晶内風景である。

 


米粒のような水晶を含む蛍石

2021-02-19 | インクルージョン

 

水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系

Xiefang Mine, Ganzhou Prefecture, Jiangxi Province, China

 蛍石の六面体結晶の内部に、六面体と八面体の集形結晶がある。即ち、成長によって八面体の結晶面がなくなった結晶である。その内部の結晶面に微細な米粒状の水晶がパラパラと付いている。蛍石の総体は淡い緑色で、内部の累帯構造に伴って紫の筋と斑、微細な流体(鉱液と気泡)が所々に見える。

 この鉱山では黄色い重晶石を伴う蛍石も産出している。


水晶が入った蛍石

2021-02-16 | インクルージョン

 

水晶 Quartz SiO2 酸化鉱物 三方晶系

Xianghualing Mine, Chenzhou Prefecture, Hunan Province, China

六面体蛍石に閉じ込められた水晶。

水晶と同様にインクルージョン蛍石も多い。

派手な色彩の物質が入っている蛍石であれば分かり易いし、見つけやすいのだが、このように無色透明の水晶のインクルージョンは入手した後に見つけることが多い。

とかく、てにいれるとそれで満足してしまう傾向にあるが、良く観察すると、思わぬ発見があったりする。

そこまで楽しみたいところだ。


黄銅鉱を含む蛍石

2021-02-10 | インクルージョン

黄銅鉱Chalcopyrite  CuFeS2 硫化鉱物 正方晶系

Minerva No. 1 Mine, Hardin Co., Illinois, USA

 六面体蛍石に包有されている黄銅鉱。蛍石の表面には方解石が点在している。写真でも方解石の先端が蛍石を貫いているように見えるが、方解石は蛍石の後の晶出であり、成長が阻まれている状態。

これらの鉱物の組み合わせは比較的多い。また魅力的な結晶空間を見せてくれる。

 


オイルを含む蛍石の蛍光

2021-02-07 | インクルージョン

 

紫外線

通常光

 

オイル Oil  紫外線による蛍光

Elmwood mine, Smith Co., Tennessee, USA

 アメリカ大陸の中央部には、石灰岩や苦灰石、蛍石を脈石鉱物とし、方鉛鉱や閃亜鉛鉱を産出する低温熱水性鉱床が点在している。地質環境が石油を含む堆積盆地であることから、石油を包有する蛍石が多く産出している。蛍石の場合、結晶の表面近傍に、結晶面と垂直方向に細く伸びた石油の包有が多く、色合いは黄色から茶褐色のタール質の場合もある。微細な石油は肉眼では分かり難いが、紫外線によって鮮やかに蛍光することから、星空のような微細な輝きを見ることができる。蛍石に特徴的な累帯構造に沿って内包する石油があれば、蛍石の中に鮮やかな黄色の結晶が浮かび上がる。結晶内に包有される気体や液体は、母体の成長に伴って伸長することが多い。


赤鉄鉱によるファントム

2021-02-01 | インクルージョン

 

赤鉄鉱 hematite Fe2O3  酸化鉱物 三方晶系

Kuichoutong, Hunan, China

鏡鉄鉱と呼ばれるような金属光沢をもつ鉱物と同じ鉱物であるとは思えないのがこの真っ赤な赤鉄鉱である。もちろん鏡鉄鉱も、条痕板に摺りつけるなど、微細な粉末にすると赤色を呈する。即ち、ここにあるのは微粉末状鏡鉄鉱の球状集合物。この鉱物は古くから辰砂と共に赤色顔料として重宝されてきた歴史がある。赤鉄鉱は良く見かける鉱物だが、ここまで鮮やかだと嬉しくなる。初期にできた水晶の上に赤鉄鉱が沈着し、再び水晶が成長したため、赤鉄鉱のファントム(内包水晶)となっている。水晶の表面に出ていたらおそらくこのような鮮やかな状態を保ちえない。水晶の中に閉じ込められていたが故の美しさである。


ススキ入り水晶と呼ばれていた

2021-01-29 | インクルージョン

苦土電気石NaMg3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4   珪酸塩鉱物 三方晶系 山梨県甲州市竹森

 山梨県竹森の苦土電気石を含む水晶は、秋野の枯れススキを思わせる色合いから、ススキ入り水晶と呼ばれて頗る有名である。特に逆光での観察では、細針状の苦土電気石が金色に輝いて美しい。ブラジル産ルチルインクルージョン水晶にもあるように、水晶の表面から内部に向かって放射状に広がる苦土電気石の結晶が観察されることがある。もちろん水晶の内部だけでなく水晶から突き出した六角細柱状の苦土電気石や、細い電気石が集合して太くなった結晶があり、眺めは壮観である。因みに竹森では、割れ目に自然硫黄を包有した水晶も産出している。


綿毛のようなものが水晶の中に

2021-01-28 | インクルージョン

不思議のインクルージョン

水晶の中に閉じ込められているのだ

角閃石類 Amphibole 珪酸塩鉱物 

Serra do Cabral, Minas Gerais, Brazil

羊毛を想わせる細い繊維状の角閃石。普通、白と赤色が接近して生ずることは少なく、もちろん混じり合うことはない。このように危ういほどに接近していることの不思議さを鑑賞したい。赤い角閃石は鉄の酸化物を含むため。即ち生成の環境が異なっているはず。


水晶の中に緑色の雲母まとった水晶が

2021-01-26 | インクルージョン

 

クロム雲母 Fuchsite K(Al,Cr)3Si3O10(OH)2 珪酸塩鉱物 単斜晶系Itremo, Ambatofinandrahana District, Madagascar

内包している水晶(ファントム)の表面に、無数の鱗片状クロム雲母が林立するように結晶している。ファントムの中心には、白く靄が立ち上っているかのような部分が観察されるが、微細な気泡の広がりであろう。

我が国でもクロムを含むことによって綺麗な緑色を呈する雲母が、長野県の茅野市の金鶏鉱山で観察が可能だ。但し金鶏鉱山で産出している緑色の雲母は、かなり緑色が強くても、分析によりクロム雲母と表記できるほどにクロムを含んではいないことが判っている。そのため、クロムを含む白雲母KAl2□AlSi3O10(OH)2と表記される。小さな水晶が集合している表面を覆うように、あるいは隙間を埋めるように産出しており、そもそもインクルージョンが観察可能な大きさの水晶がない。

クロム雲母にはフクサイト、マリポサイトの呼称がある。アベンチュリンは水晶に微細な葉片状クロム雲母の結晶が濃密に入っている飾り石のこと。


緑閃石を含む水晶

2021-01-24 | インクルージョン

緑閃石 Actinolite Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2 宮崎県西臼杵郡日之影町 オシガハエ

針状の緑閃石などが水晶の中に濃密に入っている。その水晶を先端から眺めると、針状結晶が屈折して幾つにも見える。水晶は六角柱で、しかも斜めの結晶面を通して内部を見ることになるからだ。インクルージョン水晶の魅力だ。


緑の針が無数に

2021-01-20 | インクルージョン

緑閃石 Actinolite Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2 宮崎県西臼杵郡日之影町 オシガハエ

緑色、灰緑色、白、黄褐色と様々で、比較的しっかりとした結晶が多い。針状結晶は成長している方向が揃っておらず、写真のように光源の位置を変えると反射の様子が様々に変化して楽しい。この産地では、水晶の外面にも無数の結晶が生じているが、採集の際に脱落してしまう場合が多い。また、ブラジルのルチルインクルージョンのように、水晶の内部に向かって柱面から放射状に成長している結晶もある。

同じ標本が、ライティングを変えただけでこのように見え方が違ってくる。