第三十六章 微明(道は微妙、その効験は明らか)
将に之を歙めんと欲すれば、 必 ず固に之を張れ。
将に之を弱めんと欲すれば、 必 ず固に之を強くせよ。
将に之を廃せんと欲すれば、 必 ず固に之を興せ。
将に之を奪わんと欲すれば、 必 ず固に之を与えよ。
之を微明と謂う。
柔弱 は剛強 に勝つ。
魚(うお)は淵に脱(のが)すべからず。
国の利器は以て人に示すべからず。
人は、ものごとには必ず表裏がある、という真理のあることを忘れがちである。ものごとには、必ず反対の方向に変化することがあるという、真理のあることをわすれてはならぬことを説く。
張り切っているものは、一層張り切らせるようにすれば、早く疲れて、その状態をつづけられなくなるのである。
廃さねばならぬものがあるときは、暫くこれを興すようにするのである。そのようにするときは、前に述べたのと同じ道理によって、必ずそのものは廃されるようになるのである。
また、奪いとらねばならぬものがあるときは、必ず、しばらく、これを与えるようにするのである。そのようにするときは、前に述べたのと同じ道理によって、奪いとることができるようになるのである。
以上に述べたことは、自らがもっているところの、知恵も、力も、外へは現わさないようにして、相手が、自分の力で、自分を始末するような形にさせるので、微明というのである。
この道理は、人の心についても同様のことが言えるわけであって、剛強の気性の人は、外見が強そうに見える割合には脆いところがあり、これに反して、柔和な性質のものは、強い衝撃にあっても容易に崩れることがないのである。
道によって方策をとるとすれば、たとえ大なる力をもって、小なる力のものにのぞむ場合であっても、正面衝突するような方策はとらないのである。
歙は、張ることの反対の、ちぢめる意。固は、しばらくの意。
国の利器は、知識や、才能を指す。