第七十四首
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憂かりける 人をはつせの 山おろし
はげしかれとは 祈らぬものを
源俊頼朝臣
(1055?-1129?) 経信の子。もと堀河天皇近習の楽人。官位は高くないが、白河院の命で『金葉集』を撰す。
部位 恋 出典 千載集
主題
つれない人をなびかせようと祈ったが、叶わぬ嘆き
歌意
私につれないあの人をなびかせてくれるようにと初瀬の観音様にお祈りはしたが、ああ、初瀬の山に吹く冷たい山おろしよ、お前のように冷たくなれとは祈らなかったのに。
この歌は、藤原俊忠」(定家の祖父)の家で、「祈れども、逢わざる恋といへる心をよめる」という題で詠まれています。」
「うかりける」 つらかった人。こちらが思ってもなびかなかった人。うかりけるとは我につらかりけるという心也。
「はつせ」は大和国磯城群(奈良県桜井市)。長谷寺(観音信仰)がある。「小初瀬の山の麓によきの天神と申す宮居あり恋を祈ると人申しし也」
寛治三年四条宮扇合以下、大治元年摂政左大臣家歌合に至る多くの歌合に参加。『金華集』の撰者。『『金華集』以下、勅撰集入集約二百首。